【インタビュー】オゾンが見初めた新星イケメン…妖しく微笑む“魔性の少年”
やる気のない生徒たちにうんざりしていた国語教師・ジェルマンが、提出された作文の中から傑作を発見する。小説家を目指したものの挫折した経験を持つ彼は、作文を書いたクロードに夢を託すかのように小説執筆の個人指導を始めるが…
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文才に恵まれ、妖しい眼差しと笑みで、名優ファブリス・ルッキーニ扮するジェルマンを翻弄する魔性の少年・クロードを演じるエルンスト・ウンハウワーは今年24歳。実物も映画で見た通りの華奢な体つきで十代にしか見えない。これまでヴァンサン・カッセル主演の『マンク~破戒僧~』などに出演してきたが、主役を演じるのはこれが初めてだ。
オーディションの最初の課題は、クロードが最初に提出する作文をモノローグで演じることだった。
「これが割と上手くいったんだ。2回目のテストでフランソワと会った。クロードが小説の題材として観察する家庭の少年で同級生のラファ役のバスティアン(・ウゲット)もいて、一緒に演じてみて、僕らの相性が良かったのも功を奏したと思う。それからすぐに出演が決まった。嬉しかったけど、ちょっと混乱したよ。本当に初めての大役だったから。いろいろなことが一気に変化したけど、主役として映画を引っ張っていく役割を担うのはとても光栄だった」。
恵まれない境遇のクロードは、愛情あふれる両親と幸せに暮らすラファに近づき、彼の家に入り浸りになって、その生活ぶりを毒のある調子で描写していくが、ある時点からラファの母親・エステルにのめり込んでいく。
「最初に関心があったのは“家庭生活”そのもので、そこに自分も加わりたいという感覚だったと思う。でも、ジェルマンから『君を興奮させるものについて書きなさい』とアドバイスされたときから、エステルを意識するんだ。クロードは母親がいないけれど、母親を求める気持ちじゃなくて、女性として彼女を見て、恋に落ちたんだと僕は解釈している」。
アドバイスといえば、俳優として大先輩であるファブリス・ルッキーニとの関係も、映画の中の2人に近いものがあったのだろうか。
「いや。ファブリスも僕も演じるキャラクターを発見していく過程で、お互いについて知っていくような感じだったかな。クロードたちと重なる部分もあるにはあったけど、映画みたいな強い結びつきはなかった。もしあったとしたら、ちょっと変でしょ(笑)?」。
むしろ、オゾンとの関係の方が近い? 「かな? クロードは監督の分身みたいなところもあるね。だから、フランソワの笑い方をちょっと盗んで演じてみたんだ」。
毎週クロードが提出する小説にジェルマンが夢中になっていくにつれ、映画の中に存在する現実と虚構の境界が曖昧になっていく。その演じ分けは難しそうだが、エルンストは「フランソワがきちんと説明してくれたから、大丈夫」と涼しい顔。
「台本でも、フィクション部分はブルー、現実は黒、と文字の色分けがしてあった。フィクションの部分の撮影では“クロードが創造したものを演じている”と意識した程度かな。あとは、ナレーションも多くて大変だったかと聞かれるけど、そんなに難しくはなかった。小さい頃から声を出して読むのが好きだったから。いろんなトーンを試したり、スタイルを変えてみたり」と言いながら、大好きだというフランスの詩人、ステファヌ・マラルメの詩の一節を暗誦してくれた。
そして、「あ、難しかったことがあった」と言い出す。「数学…。ラファの宿題を手伝うシーンとか、いろいろな定理を暗記しなきゃいけなかったんだけど、あそこはかなりテイク数が重なった(笑)。家庭に恵まれないクロードにとって、学校はある意味逃げ場でもあったけど、僕自身と学校の関係は…(笑)。何て言うか、互いに求め合ってなかったというか(笑)」。
7、8歳の頃に子ども同士の劇に出演して以来、演じる面白さを知ったという。
「他者を演じることで、自分というものから離れて見ることができるからね。それが楽しい」。
明るくて飾り気がない。変に背伸びをしない好青年が役を与えられると、こんなに化けるわけか、とスクリーンと現実のギャップの違いを噛みしめながら、原作の戯曲(フアン・マヨルガ作『The Boy in the Last Row』)とは違う、オゾンによるオリジナルのラスト・シーンについてどう思うかを尋ねてみた。
答えは「必要であり、意外性に富んでいる」。ん? と考え込んだこちらを見ながら、エルンストは言う。「これ、劇中でジェルマンがクロードに言ったアドバイスなんだ」。言い終えた顔に広がった笑みは、ほんのり邪悪でチャーミング。フランソワ・オゾンが一瞬、現れたかのようだった。
《Photo:Manna Kikuta/Text:Yuki Tominaga》
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