【シネマ羅針盤】『ぼくらの家路』ドイツ映画らしい「骨太な、しなやかさ」で魅了
もしも幼い兄弟が深夜の町をさまよっていたら、大人としてどうすべきだろうか。一般論では声をかけ、手を差し伸べるのが正解かもしれないが、たとえ善意の行動であれ、状況次第で犯罪者扱いされる可能性もあり、判断が難しい時代になってしまった。
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そんなことを考えながら、10歳の少年が幼い弟とともに、行方知れずになった母親を探す3日間を描くドイツ映画『ぼくらの家路』を見た。主人公のジャックは、家を留守にしがちな若い母親の代わりに、家事や6歳になる弟・マヌエルの面倒に明け暮れる毎日だったが、ある出来事をきっかけに養護施設に預けられている。やっと夏休みを迎えるが、母は不在で家に入ることもできず、別の預け先にいた弟の手を取り、ふたりの“家路”が始まった。
妖艶な光を放つベルリンの街をさまよいながら、カフェで手に入れた砂糖とミルクで空腹を満たし、温かいベッドの中で夢を見ているはずの兄弟は、地下駐車場の廃車で眠りにつくのだ。印象的なのは、ジャックの視点に徹したカメラワークが、大人たちの同情や悪意を寄せ付けず、「成長せざるをえない」主人公に寄り添っている点。育児放棄といった現代的なテーマを背景にしながらも、シンプルに人間の弱さとたくましさを焼き付けている。
「骨太な、しなやかさ」 優れたドイツ映画に共通する魅力だ。特に今年は豊作である。
70歳を過ぎた伝説の金メダリストが人生の再チャレンジに臨む『陽だまりハウスでマラソンを』、夫婦愛の真価を問うサスペンス『あの日のように抱きしめて』といった秀作がファンの心をつかんだ。現在公開中の『ピエロがお前を嘲笑う』は満席を記録する回もある盛況ぶりだ。10月にはアウシュビッツ裁判を題材に、若き検事が奮闘する『顔のないヒトラーたち』、知られざる史実に光を当てる『ヒトラー暗殺、13分の誤算』が日本公開を迎える。
もちろん『ぼくらの家路』も、そんな秀作群のひとつに挙げたいヒューマンドラマ。超大作が立て続けに公開され少々“夏バテ”気味の映画ファンには、この秋、真正面から人間を見つめ、リアルな感情を掘り下げるドイツ映画の歯ごたえを味わってほしい。
『ぼくらの家路』は9月19日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開。
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