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【MOVIEブログ】2016カンヌ映画祭 Day2

12日、木曜日。6時半起床、ばたばたと支度して、バゲットにジャムを塗ったものをコーヒーで流し込んで、外へ。晴れてはいるけど、風が強くて、寒い。長袖必須だー。

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12日、木曜日。6時半起床、ばたばたと支度して、バゲットにジャムを塗ったものをコーヒーで流し込んで、外へ。晴れてはいるけど、風が強くて、寒い。長袖必須だー。

さあ、いよいよコンペがスタート。8時半からの上映は基本プレスが優先なのだけど、僕のようなマーケット登録者でもチケットを申し込むことが出来る、というのは昨日書いた通り。「7時45分にドアが閉まる(からそれまでに入場しろ)」とチケットに書いてあるので、一応それに従ってみると、7時45分にドアが閉まるどころか、チケット組にドアが開いたのが8時過ぎ。やっぱりね。

さて、今年のカンヌで僕が最大級に楽しみにしていた、アラン・ギロディー監督の新作『Staying Vertical』(写真)がいきなり1発目なので、朝から大変だ! 脚本家の青年が、狼を取材に(?)南仏の山間部に出向き、そこで出会った羊飼いの女性と関係を持ち、やがて摩訶不思議な人間関係が展開する突飛なドラマ…、と一言でまとめるのは難しい。

大自然の中で起こる奇想天外な物語に、性別や年齢差を越えたあけっぴろげなセックス(+性器)、誕生、死、事件、逃避、サバイバル、神秘、などを絡めてくるギロディー節が全開で、期待に応えてくれる。見た目はなんとも人を食った世界なのだけど、生きることの根源の意味を問いかけてくるような深遠さをちらつかせ、自然と人間を地続きなものに見せる独自の映像センスも冴える。LGBTものという表現では到底くくれない、スケールの大きさを備えたギロディーの作家性がいかんなく発揮された痛怪作だ。しかし今作もいろんなモノの露出が多く、果たして日本で上映できるかどうか…。くそー。

続いて11時から「ある視点」部門で、『Clash』というエジプト映画へ。エジプト革命後の混乱が続く2013年の夏を舞台にした作品。イスラム主義系とその反対系の激しい市民デモが相互入り乱れて行われており、警察の乱暴な取り締まりの結果、逮捕者の搬送トラックに両陣営の人々が押し込められてしまう。カメラは呉越同舟となったトラックの内部から一度も外に出ることなく、真っ向から衝突する人々の状態を窒息するような閉塞感で描いて見せる。

かなりの力量、というか力技だ。登場人物の誰がどの陣営で、どんな信条なのかが分からなくなってしまう瞬間はあるものの、それはむしろカオティックな現状を正しく表現していて、逆にリアルなのかもしれない。迫力に押されて上映後はぐったりしてしまうほどだけど、アラブ諸国が直面する厳しい現実を、見応えのある映画に仕立ててくれる才能に出会えた喜びが断然勝る。モハメド・ディアブ監督、名前を覚えておくべし。

上映終わって13時、サンドイッチを買ってホテルに戻り、至急のメールをいくつか書いて、15時にマーケット会場が入っているパレへ。例年に比べると、マーケット会場はまだ人が少ない感じ。アポなしを含めてミーティングを5件こなし、急ぎ足でパレから最も離れた会場に向かい、17時からの上映へ。

「批評家週間」部門の『Album』というトルコの新人監督による作品で、カンヌ予習ブログでは絶対に当たりのはずと断言したのだけど、んー、そこまでではなかったかな。部門ディレクターのマックス・テシエ氏が上映前に紹介した通り、「家族があるからアルバムがあるのか、アルバムがあることによって家族たりえるのか」というところを突いた一種の家族ドラマ。

計算された構図の画面をフィックスの長廻しで捉える冒頭は、いい意味で映画祭向きで、ロイ・アンダーソン風味の作家性を期待させたのだけど、あまりに思わせぶりでミニマルな演出がやがて鼻についてしまう。乳児の養子をもらう夫婦が、腹に詰め物を入れた妊婦姿の記念写真を撮ったりして、自分たちで産んだと偽れるように行動するものの、次第に上手くいかなくなってしまう物語。シンプルな内容をこねくりまわしてしまい、不思議なエンディングも効果的でなく、技に溺れてしまったか…。

舞台挨拶があったので終映時間が想定よりも押してしまい、19時から見たいと思っていた「監督週間」のオープニングであるベロッキオの新作に間に合うかどうかギリギリになってしまった。ダッシュで会場に向かってみると、まさに僕の目の前で入場が打ち切られてしまった。無念。次のチャンスを狙おう。

気を取り直して「批評家週間」の会場に戻り、20時から『In Bed With Victoria』というフランス映画へ。この作品は部門のオープニングを兼ねているようで、上映前にヴァレリー・ドンゼリを含む同部門の審査員が紹介されたり、メルヴィル・プポーら同作のスタッフ・キャストがずらりと登壇したりして、とても華やか。

『In Bed With Victoria』は、弁護士のヒロインの公私を巡るトラブルを描くコメディーで、なかなか良い出来だった! 仕事は有能だけれど、ふたりの幼い娘をベビーシッターに任せきりにして、家も散らかり気味なシングル・マザーのヒロインは、友人の男性が巻き込まれた事件の弁護を引き受ける一方で、自分の荒れた私生活を勝手にブログ小説化した元夫を訴えるはめになる…。ラブコメ要素もたっぷりで、後半は動物の証言を含んだ法廷ものになるという、ドタバタ劇をスマートにまとめあげる監督の確かな力量が伺える1本。役者もみな素晴らしい。

上映終わって22時。次も22時からなので、もう無理かと半ば諦めながらもメイン会場にダッシュしてみると、舞台挨拶があったおかげでギリギリ滑り込みセーフで上映に間に合った! やれやれ、よかった。

見たのは、「ある視点」部門で、『Personal Affairs』というイスラエルの新人監督による作品。関係が冷えている老夫婦と、それぞれの事情を抱えた子どもたちを巡るドラマで、重過ぎず軽すぎず、程よい心地良さと、それなりの深みを備えた佳作、かな。いや、新人監督としては完成度というか安定度は高く、全く悪くない。

0時に終わり、相変わらずの強風で寒い中を震えながらホテルに戻り、眠い! そういえば、今日はジョディ・フォスター監督作品『Money Monster』の上映があったはずで、主演のジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツも来たのかな? そういう真に華やかな場面を全く報告できなくていいのだろうかと一抹の不安を抱えつつ、殴り書きになってしまっているかもしれないこの文章を書いて、そろそろ1時半。2時前なのは嬉しい。今日はこのままダウンです。

《矢田部吉彦》

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