【インタビュー】窪塚洋介 不遇の時も変えなかった己のスタイルでこじ開けたハリウッドの扉
“イノセント”――。そんな言葉で窪塚洋介は、自身が映画『沈黙-サイレンス-』において演じたキチジローという男を表現した…
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「子どものような無邪気さの中にある弱さや強さ、汚さや綺麗さ。マーティンはそこを捉えてくれたみたいだった」。
マーティンとは、マーティン・スコセッシ監督。数々の名作を世に送り出してきた世界的巨匠が心を揺り動かされたのは、キチジローという役というより、窪塚さん自身の“イノセント”な部分だったのかもしれない。
遠藤周作の名作小説を原作に、江戸初期の長崎で、厳しいキリシタン弾圧の中でも、それでも信仰に命を捧げる者たち、布教を続ける宣教師たちの姿を通して、人間の強さや弱さ、生きる意味を問いかける。窪塚さんが演じたのは、キリシタンだったが、弾圧により家族を失い、自らは棄教したキチジロー。マカオから宣教師のロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)、ガルペ(アダム・ドライバー)を日本へと導きながらも、弱き心のゆえに裏切りを働き、奉行へと彼らを売ってしまう。
「無邪気な」「汚れなき」「純潔」から「お人好し」「無知」という意味まで持つ「innocent(イノセント)」。そもそも、窪塚さんがキチジロー役を得ることになった経緯からして、イノセントという言葉がぴったりである。
最初にキチジローのオーディションの話があったのは、約7年前。だがこのときは、スコセッシと顔を合わせることすらないまま、1次審査の段階で落とされたという。理由は「ガムを噛んだままオーディションの部屋に入って、その瞬間に女性キャスティングディレクターの『マーティンは、あんたみたいな無礼な若者は大嫌いだから』と超キレられた」から…。決して、とんがっていたわけではなく窪塚さん曰く「控室だと説明されて入った部屋が、オーディションの部屋だった」のだとか。
「その時点で終わってました(苦笑)。それでも『やるの?』と言われて、度胸試しじゃないけど『やらない』と言えずに『やる!』となったけど、セリフを覚えてなくて、紙を持っていたら『この期に及んで覚えてないのか?』とさらに空気が悪くなって…。最悪な空気の中で、それに打ち勝てるタフさもなく、呑み込まれて思うようにできなかったんです」。
当然のように翌日「もう結構です」という連絡が届き「マーティン・スコセッシの船は出ちゃったんだ。汽笛の音が聞こえる…って夕暮れに泣いてた」と悔やんでも悔やみきれない失敗を嘆いたそうだが、幸運なことに船は出ていなかった! 企画・製作の遅れ、スコセッシが納得する俳優が見つからなかったこともあり、窪塚さんはまたオーディションに足を運ぶチャンスを得た。
「行ったら、あの女性キャスティングディレクターがいたんですけど『Nice to meet you.(はじめまして)』と言われて『チャンス、キター!』って。こっちも『Nice to meet you.』と“again”とは言わずに(笑)。それで、やってみたら『面白い! あんた、いいね。もう1回、呼ぶから』って。それでまたすぐに呼ばれたんだけど、その時点で、(前回の演技をビデオで見て)マーティンはすごく評価してくれていたらしいです。あの女性キャスティングディレクターはもう親戚のおばちゃんみたいな感じで(笑)『こんなことやってみたら?』と言ってくれたりして、俺も最初に考えていたキチジロー像をさらに変えて、いろんな引き出しを見せたらすごく気に入ってくれたみたいです」。
そして、最後はスコセッシと直接会って、演技を見せることに。
「六本木のホテルでノックして部屋に入ったら、振り返ってニコッと笑って『会いたかったよ。(ビデオで見た演技は)最高だったよ。今日は僕が相手役をやるからね』と…。もう『マジか! マーティン・スコセッシを相手に演技できるの? 最悪、これで落ちてもネタになるわ』って思いました(笑)。僕自身、自分の力が出せれば大丈夫だって気がしてたんですが、マーティンは温かいオーラに包んでくれて、こっちを乗せてくれて、俳優をリラックスさせる懐の深さを肌で感じました。満たされた気持ちで力を出し切ったら『(撮影が行われる)台湾で待ってるよ』と言ってくれたんです」。
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