■5年に及ぶ南太平洋の島々でのリサーチ作業
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本作は「ポリネシアンカルチャーを基にした映画を作りたい」という、ジョン監督の意思のもと製作がスタートした。はじめはポリネシア地方に伝わるミソロジー(神話)に登場する“マウイ”というキャラクターに興味を持ち、それからもっと深く南太平洋の文化を知る必要があると認識したスタッフたちが、5年にも及ぶ歳月をかけ現地の人々とアイディアを共有しながら、島々を理解しリスペクトして製作。それと同時に、ディズニー・アニメーションが誇る3D技術や新たなストーリーといったクリエイティビティと織り交ぜていった。このリサーチトリップの模様をひとつのドキュメンタリー作品「VOICE OF THE ISLAND(南の島の声をたどって)」として、プロデューサーのオスナット・シューラ―氏が監督したものが『モアナと伝説の海』MovieNEXに収録されている。
■自然への敬意
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昔から島の人々は「自然を頼りに」生活を送ってきた。映画の中に出てくる航海術や“ココナッツ”にもそれが描かれているが、方角や潮流を手で測って航海や漁業を行い、ココナッツは実を食べるだけでなく、木の葉や皮も衣服やものづくりに用いられるなど、常に自然の恩恵を受けながら生活をしている。そのため、島の人々は自然への敬意を持っている。そのような考えを持つタヒチやサモア諸島などの人々は、本作でもキーとなる「海」についてを次のように捉えている。“The ocean unite us”つまり、海はわれわれを隔てるものでなく、つなぐものという概念。ヴァイキングよりも前から様々な島へと船で海を渡り、かつ自然を大切にしてきた南太平洋の人々の独自の考えが、本作でも反映されている。このような古くからの考えが、モアナを海の冒険へと導いたのかも。
■16歳の少女が主人公になったワケとは
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先ほども記したように、本作はポリネシアンミソロジーに記述された「マウイ」からスタートしている。しかし熟考とアイディアを重ねた結果、ディズニー・アニメーションは「モアナ」という新たな存在を生みだし、主人公に抜擢した。航海に憧れ、海に選ばれた勇敢な“ヒーロー”が、なぜ女の子であるのか? それは、プロデューサーのオスナット氏曰く、「女性のエンパワーメント」を描きたかったからだという。さらに大人と子どもの間の16歳という時期に冒険に出ることが、感情の機微や素直さをうまく引き出せたのだとか。近年、「女性の強さ」をテーマにした映画作品も増えてきている中、本作では16歳の少女の等身大の弱さや、心の葛藤とともに、勇気ある行動や前向きな姿、ジェンダーを超えた「頼れるヒーロー」ぶりが描かれ、そんなモアナに元気をもらった人も多いはず。
■キャラクタービジュアルができるまで
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本作には、キャラクターの“ビジュアル”にも島の文化が反映されている。島の男性にとって不可欠なものは、デザイン性に加え、自身の業績を表す「タトゥー」。タトゥーは一人前の男になった証でもあり、生涯で増やしていくべきものと言われている。
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そんな自分のルーツや偉業が隅々に彫られた体を持つのが、本作でモアナとともに旅をするマウイ。またタトゥーだけでなく、髪の毛にもこだわりが。当初マウイはスキンヘッドの設定だったが、これを見た現地のスタッフに“NO!”と批判され、島の人々のアイデンティティーでもあるふわふわのウェービーヘアーが、アートディレクターのビル・シュワブらによって、モアナやマウイのビジュアルに決定された。
さらに、衣装にも伝統を重んじたこだわりがある。衣装デザインを担当したネイサ・ボーヴは「島にある自然のもので作ることができる」ことと、アクションにも対応できる機能性を考慮しながら、ひとつひとつデザインに凝った衣装をデザインした。
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例えば、モアナの場合、トップス・スカート・ベルトを基本に、木の樹皮を叩いて乾かしたタパ布や木の樹皮を細かく裂いて編み込んだパンダナスの布など、伝統的な生地をモチーフに、さらには機能性を上げるためにスカートには細かいスリットを入れるなどして工夫を凝らした。またモアナが身に着けているネックレスに使われている貝は、「磨くと美しいブルーになる」アワビの貝殻をモチーフに、暖色系のモアナの服装にワンポイントだけアクセントになるようにしたのだとか。さらに、次期村長としてのカリスマ性を体現するため、ほかのキャラクターは身に着けていないヘッドドレスなどのアクセサリーなどが、モアナの強さを主張している。
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またモアナ以外にも、実は脇役で登場する女性たちもひとりひとり衣装デザインが異なる。「何度見ても楽しんでもらえる作品にした」とネイサ氏もコメントしており、次は衣装などもチェックしながら『モアナ』を観れば、前回とは違った楽しみ方ができるはず。
■ポリネシアの血を引くキャスト陣
主人公・モアナの声を務めたアウリィ・カルバーリョをはじめ、マウイ役のドウェイン・ジョンソン、タラおばあちゃん役のレイチェル・ハウスなど、声優キャストはみなポリネシアのルーツを持つものたちだ。本作で描かれる文化的な色を、ネイティヴの声優陣がそれぞれの声でさらに豊かなものにし、キャラクターたちに命を吹き込んだ。さらにモトゥヌイの島の人々の声は現地のニュージーランドで収録されるなど、そのこだわりぶりが伺える。

ここで、アニメーション・スタジオで録音を担当したガブリエル・ガイへの取材を基に『モアナと伝説の海』で行われたアフレコ方法をご紹介。

声優陣は、ストーリーの「絵コンテ」を基に声を入れて、ひと通りの声入れが完了してから、彼らの声にアニメーションのキャラクターの動き(口や動作)を合わせていく。場所は基本的にバーバンクにあるアニメーション・スタジオで収録するそうだが、俳優のドウェインはスケジュールが多忙のため、ドウェインが別の映画のプレミアで訪れていたマイアミやボストンなどでも収録したそう。そうして、後に変更されたアニメーションの部分の声をまた録り直したり、新しく収録したりと、最終的に5年の歳月をかけて製作された。長い年月をかけて収録されたがガブリエル氏曰く一番大変だったのは、技術的な問題よりも、長い期間携わるキャストの環境を調整して、「表現力のあるもの」を収録することだったようだ。
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ここまで、ポリネシアの血を引くキャスト陣をご紹介したが、本作で唯一ポリネシア人ではない声優がいるのはご存じだろうか? それは、お茶目な旅のお供として登場する、鳥のヘイヘイの声を務めたアラン・テュディック。俳優としても活躍するアランは、ディズニー・アニメーション作品にもすでに多数の声の出演をしており、個性的で誰にも真似できないキャラを持っているのかも。
今回は、数多くのオセアニアの文化を尊重した描写や衣装、ビジュアルを紹介した。美しい自然のCG描写やモアナの勇気ある物語とともに、細かいけどこだわりがたくさん詰まったものもチェックして、あなただけのお気に入りのシーンを見つけてみて。
『モアナと伝説の海』は6月28日(水)より先行デジタル配信開始、7月5日(水)よりMovieNEX発売。
協力:ウォルト・ディズニー・ジャパン