民族衣装を着ていて、褒められるというのは幸せなものです。差別を受けた歴史を持つ人々にとっては、褒められることはおろかそれを着ることで、ひと目で差別の対象となってしまうのですから。映画『サーミの血』に登場するサーミ人とは、トナカイの遊牧をして暮らす先住民族。ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアにまたがるラップランド地方に住む少数民族ですが、いまは定住している人も多いといいます。1930年代、スウェーデンでは彼らは人として当然持つべき権利、払われるべき敬意を無視され、分離政策により差別されていました。本作は、当時のスウェーデンを舞台に、クリスティーナ、サーミ名“エレ・マリャ”の切ない成長を追った物語です。
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カラフルな織り柄が施されたネックラインが印象的なノースリーブに、襟に赤や緑、白などのラインが入ったVネックのフエルト製アウターを着て、その上から色とりどりの糸を使った腰紐を巻いています。この“コルト”が、サーミ人たちの民族衣装。とても素敵なのですが、これを着ていることでヒロインたちは周囲から冷たい目で見られてしまいます。だから出自を偽るときには、花柄のワンピースに身を包んだりして周囲に溶け込もうとするのです。そうして紛れ込んだ夏祭りで出会った少年に恋をするのですが、そのときに名前を聞かれ、思わず「クリスティーナ」と名乗ってしまいます。その様子が何とも切ない。きっとサーミ人としてのアイデンティティに背を向け、自分の未来を自分で決めるためスウェーデン人になることを選ぶ第一歩となったのは、このワンピースと、それを着てついた小さなうそ。やがてヒロインは、人として当たり前の権利を手にするために大胆な行動にでるのです。
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冒頭、歳を重ねた主人公が、初めてコルトを着て「似合う?」と目を輝かせる孫娘を、苦々しい表情で見つめます。それは、自分が捨てたサーミ人としての人生を象徴するものだから。サーミとして生きることを捨てたとき以来、言語、歌、食とともに触れて来なかったものなのです。
装いは自己表現だといいますが、もしかすると、自分が意識しているよりもっと深いところで、ルーツと繋がっているものなのかもしれません。気づかないうちに気持ちが原点回帰していたりして。日本の若者たちが和装に惹かれている理由は、ルーツが呼んでいるからなのかもしれませんね。
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