『罪人たち』が史上最多となる16部門ノミネートを記録し、前哨戦では『ワン・バトル・アフター・アナザー』(12部門13ノミネート)が受賞を重ね、さらに『国宝』の受賞のゆくえや新設のキャスティング賞にも注目が集まる第98回アカデミー賞。気になる受賞結果は3月16日(日本時間)に発表される。
年を追うごとに、多様性と公正性を目指して進化を続けるアカデミー賞事情についておさらいしてみよう。
<2026.2.25更新>
対象となる作品は?
長編映画に関しては前年の1月1日から12月31日の間に、ロサンゼルス郡内の商業映画館で1日3回以上の上映回数で少なくとも7日間連続して有料上映された40分以上の35ミリか70ミリ、あるいは指定のデジタル・フォーマットの実写、アニメーション、またはドキュメンタリー作品。並行して配信やVODなどでの上映は可能だが、劇場公開前にテレビ放映やネット配信、ビデオ発売されているものは対象にならない。
作品賞へのエントリー条件として、アカデミー・インクルージョン・スタンダード(RAISE)の書類提出が義務づけられている。多様な世界を反映するべく、人種や民族、性的マイノリティや身体に障害を持つ人々の雇用を含めた表現とインクルージョンに関する4つの基準(A:画面上の表現、テーマ、物語 B:クリエイティブなリーダーシップと企画チーム C:業界へのアクセスと機会 D:観客の開拓)のうち2つを満たすことが応募資格となる。
劇場公開作品の条件としては、ロサンゼルス郡に加え、ニューヨーク市、ベイエリア(カリフォルニア州サンフランシスコ周辺)、イリノイ州シカゴ、ジョージア州アトランタ、テキサス州ダラス・フォートワースでの1週間以上の上映も対象となる。さらに、公開初日から45日以内に全米上位50市場のうち10か所で7日間の拡大公開を行うことが求められる。
国際長編映画賞では、難民や亡命者であるフィルムメーカーもクリエイティブ・コントロール(創造的権限)を持つ者として応募も認められることになった。
第98回では新たに「キャスティング賞」が創設された。キャスティング・ディレクターの功績を顕彰する部門で、最大2名まで受賞可能。授賞部門は合計24部門となった。
脚本賞部門では最終的な撮影脚本の提出が必須、作曲賞では制作への完全な貢献が証明された場合、最大3人まで個別に受賞資格を得られる。
さらに、生成AIに関する規定も初めて導入された。評価の基準は「創造的主体の中心に人間がいること」とされ、AIツールは補助的使用に限定される。

誰が決める?
映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の会員による無記名投票で決定する。会員は劇場公開される長編映画の製作に携わるプロフェッショナルで、俳優、監督、脚本家など19の支部に分かれている。
ノミネーション投票では各部門の専門家が投票し、各賞それぞれ該当する部門のプロフェッショナル(俳優部門は俳優、編集部門は編集者)が投票する。製作・監督・俳優などを兼任する場合、1人で複数の支部に入ることはできず、無所属(Members At Large)という扱いになる。作品賞、長編アニメ映画賞は全ての会員に投票権がある。
ノミネーションが決定した後の最終投票では全部門が全会員の投票対象となる。今回からアカデミー会員は、最終投票前に各部門にノミネートされたすべての作品を視聴することが義務付けられた。これまではほとんどの部門において、見ることを推奨されるだけだったのが、今回からは視聴の記録を取り、未視聴の場合は投票にアクセスできない仕組みになった。
これにより、本当に作品を見たうえでの投票が実現され、より実質的な評価が授賞結果に反映されると期待されている。
ノミネーションは2026年1月22日(現地時間)に発表、最終投票は2月26日(現地時間)に開始され、3月5日(現地時間)に締め切られる。

会員はどんな構成?
現在の会員総数は約11,126名。投票資格のある会員は約10,136名で、史上初めて1万人を超えた。
AMPASは2016年以降、白人男性が圧倒的多数だった会員構成の見直しにとりかかり、多様化を推進。現在、女性会員は約33%、国際会員は約25%に達している。2025年の新招待者は41%が女性、45%が人種・民族的マイノリティ、55%が米国外出身だった。
こうした国際化の進展は、非英語作品のノミネート増加にも影響を与えていると分析されている。
日本からは映画プロデューサーの奥田誠治と鷲尾天、想田和弘監督、西尾大介監督、山崎エマ監督、衣装デザインの澤田石和寛らが招待された。

発表まで管理するのは?
大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)。最終投票が集計されてから授賞式でプレゼンターが封筒を開けるまで、結果を知っているのは同事務所の担当者のみ。
2017年には担当者が封筒を渡しまちがえて、作品賞受賞作が『ラ・ラ・ランド』と発表直後にステージ上で『ムーンライト』だと訂正される前代未聞のミスが発生。大混乱を引き起こした担当者2名は以後、授賞式の任務から外され、現在は管理体制が強化されている。

司会者は2年連続のコナン・オブライエン
授賞式は現地時間3月15日午後4時(太平洋時間)から、ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催される。
司会はコメディアンのコナン・オブライエンが2年連続で務める。前回の第97回で視聴者数回復に貢献した実績が評価され続投となった。
映画芸術科学アカデミーCEOのビル・クレイマーとジャネット・ヤン会長は「コナンは完璧なホストでした。ユーモア、温かみ、そして敬意を込めて、巧みにリードしてくれました」と絶賛している。
今年の注目ポイント
前哨戦では、史上最多16ノミネートという歴史的記録を打ち立てた『罪人たち』と13ノミネートで続く『ワン・バトル・アフター・アナザー』の二強対決となっていて、監督組合(DGA)賞を受賞した後者がやや優勢と見られている。
監督賞ではライアン・クーグラーがアフリカ系アメリカ人として史上初の長編映画での歴史的受賞を果たすかが焦点の1つ。一方、過去に11度ノミネートされながら無冠のポール・トーマス・アンダーソンが悲願の初受賞を実現するかにも注目が集まる。
主演男優賞は、3度目のノミネートのティモシー・シャラメ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)が有力視されている。30歳にして3度目のノミネートはハリウッドのレジェンド、マーロン・ブランドが1950年代に達成した記録に並ぶ。シャラメが受賞すれば、リチャード・ドレイファス(30歳156日)を抜いて、エイドリアン・ブロディ(29歳343日)に次ぐ若き受賞者(30歳78日)となる。
主演女優賞候補のエマ・ストーン(『ブゴニア』)は、女性として史上最年少(37歳)で7度目のノミネートを達成。『哀れなるものたち』に続き、今回もプロデューサーとして作品賞に名を連ねている。同一作品で主演女優賞と作品賞に同時ノミネートされるのは史上初だ。
新設のキャスティング賞には『罪人たち』『ワン・バトル・アフター・アナザー』『ハムネット』『マーティ・シュプリーム 明日をつかめ』『シークレット・エージェント』の5作品がノミネートされている。5作品中、『シークレット・エージェント』を除いて候補者は全員女性で、キャスティング・ディレクターが女性中心の仕事であることもうかがえ、初代受賞者が誰になるのかも大きな見どころ。
日本からは『国宝』がメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネート。技術部門での快挙が期待されている。


