■日本のアニメを変えた繊細な“日常描写”
記念すべき長編デビュー作『太陽の王子 ホルスの大冒険』から50年。最高傑作の呼び声高い『火垂るの墓』からちょうど30年である。その偉大な功績をふり返り、検証するのに多くの時間と労力が必要なのは言うまでもない。それでも高畑作品の魅力として、まず頭に浮かぶのは、日本のアニメーション全体にも大きな影響を与えた、繊細な日常描写だ。

そこに生まれ、そこで暮らす人々の営みを的確に捉え、丁寧に演出することで、キャラクターの内面を浮かび上がらせ、生きざまを輝かせる…。そんな高畑マジックは、70年代に生み出した「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」「赤毛のアン」といった名作テレビアニメに始まり、それに続く劇場作品でも健在。91年公開の『おもひでぽろぽろ』は、高畑監督の日常描写が特に光る秀作である。
■盟友・宮崎駿監督との作風の違いは?


代表作である『平成狸合戦ぽんぽこ』は文明批判を込めたメッセージ色の強い作品だが、化学(ばけがく)を駆使し、自然を破壊する人間たちに戦いを挑むタヌキたちの姿には、どこか悲哀や皮肉も受け取れる。仮に同じ題材を宮崎監督が描いたら、「人間vs.自然」の対立構造がもっと強調された、まったく違う映画になったはず。また、結果的に遺作となった『かぐや姫の物語』で見せた、詩的な躍動感と夢見心地な浮遊感も、高畑作品ならでは。同作は第87回アカデミー賞で、長編アニメ賞候補となった。
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盟友でありライバルだった高畑監督の旅立ち…。果たして、長編アニメからの引退宣言を撤回し、新作の製作を進めている宮崎監督の胸には、どんな思いが去来していることだろう? 高畑監督が残した功績を足早にふり返ったが、改めてご冥福をお祈りしつつ、今日は『太陽の王子 ホルスの大冒険』をじっくり見直したいと思う。何度見ても、胸が踊るなあ、この作品は。
(text:Ryo Uchida)