平原綾香「納得できるメリー・ポピンズを探し求めることが重要」
デビュー15周年を迎えた昨年、平原さんは日本初上陸を果たしたミュージカル版『メリー・ポピンズ』にてメリー・ポピンズ役を好演したばかり。その分、役柄への思い入れも深いと言い「今回、完全日本語吹替版のお話をいただき、思いも寄らぬ幸せを感じると同時に、これまでにない難しさもありました」とふり返る。
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「メリー・ポピンズは誰よりも人間らしい存在ですし、(1964年製作の)オリジナル版に主演されたジュリー・アンドリュースさんの印象も強いはず。ミュージカル版もありますし、ご覧になる皆さんのなかに、それぞれのメリー・ポピンズ像があると思うので、わたしが声で演じることで『これはメリー・ポピンズじゃない』って思われるのは避けたかったですね。ですから、自分でも納得できるメリー・ポピンズを探し求めることが重要ですし、難しい作業でした」(平原さん)
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その上で大切にしたのが、失意のバンクス家に“大切な何か”を思い出させるための「優しさと厳しさの共存」だった。「主演のエミリー(・ブラント)さんの声質に合わせて、日本語で発声すると少し口調がキツ過ぎてしまって。『あぁ、単純なものまねではダメなんだな』って…。いろいろなパターンを試して、家族に審査してもらったことも。最終的には自分なりのメリー・ポピンズにたどり着けたと思います」と役作りを語ってくれた。
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谷原章介「子どもの寝顔はかわいいですし、見ていると幸せ」
一方、洋画の吹き替え声優に初挑戦した谷原さんが演じるマイケル・バンクスは、愛する妻を亡くし、残された3人の子どもたちの良き父であろうと悪戦苦闘するという役どころ。約20年ぶりにメリー・ポピンズと再会し、生きる希望とピュアな心を取り戻す“変化”をセンシティブに表現している。
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「天真らんまんだった少年時代とは打って変わって、常に悩みを抱えているキャラクターなので、大変でしたね。大人になったマイケルは、妻に先立たれ、住む家は差し押さえのピンチ…。せっかく、メリー・ポピンズが再びバンクス家に舞い降りてくれたのに、楽しい時間をほとんど過ごせていませんから」(谷原さん)
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実生活では6人のお子さんの父親として、日々子育てに奮闘中。「もしも、本当にメリー・ポピンズがいてくれたら、やんちゃな子どもたちをしつけてほしいですね(笑)。ときには僕がしかりつけることもありますけど、子どもの寝顔はかわいいですし、見ていると幸せだなと思います」と目を細める谷原さんの愛情は、声を通して、確かにマイケルの父親像に注がれている。今回はミュージカルにも挑戦し「歌いながら、心情を表現する難しさがあった」そうだが、歌唱のプロフェッショナルである平原さんは「わたしは谷原さんが歌う楽曲で号泣してしまいました」と太鼓判を押す。
『メリー・ポピンズ リターンズ』から受け取ったものは…
先日発表された第91回アカデミー賞のノミネーションでは、メリー・ポピンズが歌う“The Place Where Lost Things Go”が歌曲賞の候補にあがった。日本語タイトルは「幸せのありか」。平原さんも「今回、映画のために書き下ろされた9曲のうち、いちばん好きです」とべた褒めの同曲は、亡き母に思いをはせるバンクス家の子どもたちに向けて「目に見えないからと言って、大切なものがなくなるわけじゃない」というメッセージを伝えている。
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「お母さんはここにいないだけで、ずっと見守っているのよって…。そんな歌詞はもちろん、メロディも本当にすばらしいですね。前作には忘れられない名曲がたくさんありますが、今回生まれたこの曲も、きっと何十年もと色あせない名曲になるんだろうなと思うと、その第一歩を見届けることができて、うれしいです」(平原さん)
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谷原さんは『メリー・ポピンズ リターンズ』を通して、「日常を幸せにするきっかけは、いまを大事にすること」というメッセージを受け取ったのだとか。「朝、仕事に遅刻しそうなマイケルに、メリー・ポピンズがこう言うんですよ。『まだ遅刻したわけじゃないでしょ』って。いまの僕らの生活って、ついつい目先のスケジュールにばかり気持ちが向いてしまって、肝心な“いま”を疎かにしがちですからね。メリー・ポピンズが魔法で子どもたちを楽しませるのも、逆にきちんと片づけをさせたり、お風呂に入れたりするのも、何が本当に大切なのか、教えてくれているんですね」(谷原さん)
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