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【MOVIEブログ】2019カンヌ映画祭 Day3

16日、木曜日。6時半起床。3時間半の睡眠だと少しきついけど、そこは時差ぼけ効果とカンヌのアドレナリンで乗り越えるのみ!

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"Les Miserables"(c)SRAB Films - Rectangle Productions - Lyly films 全 1 枚
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16日、木曜日。6時半起床。3時間半の睡眠だと少しきついけど、そこは時差ぼけ効果とカンヌのアドレナリンで乗り越えるのみ!7時半にホテルを出ると、本日は晴れ。気温は低めで15度に届かないくらいかな。今年のカンヌの天候は不安定。

本日は8時半からコンペのブラジル映画『Bacurau』でスタート。共同監督のひとりが2016年の『アクエリアス』に続いて2作連続でカンヌコンペ入りを果たしたクレベール・メンドンサ・フィリオ監督ということで、今年とても楽しみにしていた1本だ。

ブラジルの辺境の地にある村を舞台にした奇妙な物語。予習ブログで書いたあらすじとは少し異なっていたようで、老女が亡くなってから村の秩序に異変が起きるのは合っているとして、その後の展開はかなりバイオレントなものになっていく…。

そして、残念ながら僕にはあまり刺さらなかった。物語が追いにくく、それはまあ構わないのだけれど、分かりにくいわりには、最後は収まるところに収まってしまい、どうもきちんと腑に落ちない感じ。どうにもノレないのだ。尺が長いということはあるにしても、もっと根本的なところで置いて行かれてしまった。

もっとも同僚は絶賛していたので、僕は何かを見落としているに違いない…。期待が高かっただけに、もやもやが残念で、これは再見が必要かも。

上映終了して直ちに同じ会場に並び直し、12時からこちらもコンペで、フランス映画の『Les Miserables』(写真)。昨日から良い評判がちらほらと耳に入っていたのだけど、そのうわさに違わぬ強力作だった!

パリ郊外の集合団地「レ・ボスケ」地区を舞台にした、激しい社会ドラマ。「レ・ボスケ」は都市計画の失敗の煽りを受けてしまったような団地で、犯罪の温床となって人種間のいさかいも絶えない。美しいパリやフランスのイメージの真逆にあるような場所だ。過去に大暴動も起きている。本作が長編デビュー作となるラジュ・リ監督の出身地でもあり、監督は内部からその実態を映像に撮ることでアーティストとして頭角を現した。

本作はフィクションだけれども、その地の恐ろしい実態があまりにもリアルに伝わってくる。とはいえ、ドキュメンタリータッチでもなく、しっかりとした劇映画ドラマとして構築されているところに監督の底知れない才能を感じずにいられない。

団地を担当する3人の警察官が体験する地獄の数日間が描かれ、黒人とジプシーの衝突を避けるべく問題を解決しようと介入した警察が、逆に泥沼にはまってしまう。年端も行かない子どもたちが相手というのが手詰まり感に繋がり、警察としての倫理を踏み越えたところで事態は収拾が付かなくなる…。

『憎しみ』と『ドゥ・ザ・ライト・シング』と『シティ・オブ・ゴッド』を合わせて現代味を十分に加えてさらにパワーアップさせた感じ、と言ったら単純だろうか…。ともかく、序盤から中盤にかけての盛り上げ、そしていったんクールダウンさせてから、怒涛の終盤に突入する、というドラマ構築が抜群に上手く、本当に末恐ろしい新人監督だ。直截的なメッセージは、現代社会で最も深刻で重要な内容を含んでいる。これは確実に賞に絡んでくるだろう。

上映終了し、興奮を抱えたまま急いで会場を移動し、14時から「ある視点」部門のロシア映画『Once In Trubchevsk』へ。

あまりに激しいレミゼの直後ということが影響したかどうか、『Once In Trubchevsk』の素朴な世界がスルスルと心に染み入った…。

田舎町に隣り合って住む二組の夫婦の、片方の夫ともう片方の妻が不倫関係に陥ってしまうという、実にシンプルな物語。シンプルさを逆手に取って、むしろ不純物を削ぎ落として男女関係(夫婦関係)の核心を見せるところがラリサ・サディロヴァ監督の作家性の神髄か。

過剰にドラマチックにもドライにもならず、しかし水面下に残酷性は漂っていて、でも決してヘヴィーではない、というタッチが絶妙。大人の男女関係のリアリティーを散々描いたあと、ラストは公園を闊歩する(物語と関係のない)イノセントなティーンたちのショットで締めるというのも、見方によってはとても残酷でいい。うん、ありふれていそうで実はかなり珍しい映画である気もしてきた。ちょっとした今年の収穫の1本。

上映終わり、15時半から17時半までミーティング。午後の陽射しは結構強く、カンヌらしくて嬉しいのだけれど、それでも気温は低めのようで、20度は越えてないのではないかな?

18時に上映に戻り、「ある視点」部門でブリューノ・デュモン監督新作『Joan of Arc(Jeanne)』へ。ジャンヌ・ダルクが神の啓示を受けて出立するまでを描いたのが『Jeanette』(17)で、今回はその続編にあたる。とはいえ、フランスを勝利に導いた栄光の日々は全て省略され、本作ではジャンヌの初の敗戦から異端審問へと至る「晩年」が描かれる。

この2部作の解説を文字にするのは至難の業で、ましてや数分間でまとめることなど不可能なのだけれど、ともかくほかに例を挙げづらいほどの、よく言えば超個性的、悪く言えば超絶珍品、という作品だ。しかし前作が珍品を飛び越えて未知の領域に踏み込んだ(何といってもヘビメタ・ミュージカルなのだ)のに対し、今作はミュージカルの面は控えめとなり(重要な局面で歌は流れるが、出演者は歌わない)、まっとうな演出に移行している。

まっとうとはいえ、ミニマルな舞台会話的史劇を最小限のキャストと鋭利な映像で切り取るそのルックは、普通の映画に比べたら全くまっとうどころではない。地上でデュモンにしか出来ない演出だ。そして、カトリック信仰に対するデュモンの愛憎(というか複雑なスタンス)が本作でも大きな柱となっている。日本公開へのハードルは高いと言わざるを得ないけれども、いつか何らかの形で紹介されなくてはいけない重要作であることは断言したい。

続けて21時半から「批評家週間」のアイスランド映画で『A White, White Day』。これまた独特のセンスが抜群で、食い入るように見てしまう。アイスランドは昨今個性派監督を輩出し続けている注目の国で、前作『Winter Brothers』で世に出たフリーヌル・パルマソン監督の才能は間違いなし、と改めて確認できる1本だ。

上映終わって23時半。ホテルに戻ってブログを書き始める。同僚が0時半に戻った様子なので軽くミーティング。そういえば朝食以来何も食べていなかったので、ちょっとパンを齧りながらワインを飲んで(失礼)ブログの続きを書き、アイスランド映画の感想途中で限界が来た…。しかし今日は当たりが多い日で大充実!そしてそろそろ2時半、ダウンです。

《矢田部吉彦》

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