映画ファンの中には知らない方(あるいは気にしていない方…)も多いと思うが、スパイダーマンはソニー・ピクチャーズが「実家」で、マーベル/ディズニーは産みの親だが「実家」ではない。スパイディの“養育権”は、あくまでもソニーにあるのだ。
ではなぜマーベル・ヒーローの一員でありながら、スパイダーマンだけがマーベル本家から切り離されているのか?
ソニーがスパイダーマンの「育ての親」になった経緯

それはまだマーベルが単体で、ディズニーの傘下に入るずっと前の1998年のことだ。当時経営不振のマーベル・エンターテイメントにソニー・ピクチャーズの敏腕エグゼクティブだったヤイル・ランドー氏が「スパイダーマンの版権を売らないか」と持ちかけた。
資金難に苦しんでいたマーベルは、これはチャンスとばかりに、「アイアンマンからブラックパンサーまで、うちのキャラクター全部ひとまとめで2,500万ドル(約26億円)で売るよ!」と返答。
いまとなっては考えられないオファーだが、当時のマーベルはコミックブックの衰退で将来の見通しも明るいとは言えない状況だったため必死だったのだろう。
でもソニーはこのバーゲン・オファーを断る。結局当時から人気があり将来性もあったスパイダーマンの版権のみを700万ドル(約7.5億円)で買い上げることになる。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が世界中で11億ドル+の興行収入を叩き出した現状を考えれば、信じられないバーゲン価格である。
スパイダーマンは、その昔お金に困った産みの親マーベルから、ソニー・ピクチャーズに里子に出されたわけだ。言うなればスパイダーマンはソニーにとって我が子も同然で、スパイディの「育ての親」なのである。
まるで養育権争い
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2015年にマーベルの豪腕プロデューサーであるケヴィン・ファイギが、新装スパイダーマンを立ち上げるために里親ソニーと協議の末、期限付きの有利な契約をソニーに渡してスパイダーマンを「一緒に育てる」契約を結ぶ。いわば生みの親と育ての親が仲良く話し合って、子どもに活躍できる場を与える資金援助をしてあげたのである。
でも抜け目のないディズニーはスパイディの商品版権をキープ。スパイディ関係の商品から得た利益はソニーに1銭もいかないということになる。これはソニーにとって巨額の富をギブアップしたことになる。
だがマーベル・ユニバースの大成功は新装スパイダーマンも含めて敏腕プロデューサー、ケヴィン・ファイギに負うところが大きい。前出の契約が切れる段になって、このままケヴィンと共同製作を続けたいソニーは、ディズニーに現状維持の契約でスパイダーマンを「一緒に育てよう」と提案した。
ソニーを悪者扱いはお門違い
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しかし新作スパイダーマンの大成功で絶好調のディズニー。ソニーへの返答はこうだった。「これからもケヴィン(・ファイギ)のインプットを必要とするのであれば、商品版権100%はもちろん、製作費を50%出す代わりにスパイダーマンを含む、関連キャラクター全てから派生する興行収益50%を要求する」と強気のオファーを出してきた。ソニーは閉口し双方の話し合いはここで決裂となる。
ディズニーの言うスパイダーマンの「関連キャラクター」というのは、ヴェノムを筆頭に「スパイダーマン・ユニバース」と名付けられた世界に属するあらゆるキャラ900種類(!!)を指している。
おまけにディズニーが言う、「50%の製作費を持つ」は、聞こえがいいものの、これには製作後発生するマーケティングにかかる莫大な費用や興行にかかる経費などは含まれていない。よって最終的にソニーが受け持つ金銭的負担は素人には想像出来ない額となり、取り分の部が合わなくなってくる。
アベンジャーズの大切なメンバーでありマーベル・ユニバースの人気者であるスパイダーマンがマーベルの世界から消えてしまうとあらば心配になってくる。
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スパイダーマンが映画の世界から消えるわけではないにしても、この「養育権」バトルのせいでスパイダーマンが、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーやキャプテン・マーベルなどと共演する可能性がなくなってしまうかもしれない。
このことに憤慨した一部のファンはソニーがディズニーのオファーを却下したという側面だけを見てソニーを責め、ソニーへのボイコット運動すら促すハッシュタグまで広め始めた。事の詳細も知らずに相手を責める昨今のオンライン事情は大いに問題である。
最新のニュースによれば、ソニーとディズニーは熱りが冷めたら水面下で協議を続けるのでは、といううわさもあるらしい。いずれにせよ最終的にはファンの気持ちよりも$サインの力がものを言うだけに、我々は祈るしかないのである。
(text: Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美)