驚かされるのが、3日間ホテルに閉じ込められた500人以上もの宿泊客、観光客のほとんどが生還し、犠牲となった32人の半数がホテルの従業員たちだったこと。この前代未聞の出来事をつぶさに映し出した映画『ホテル・ムンバイ』は、“愛”と“誇り”を胸に行動を起こした“英雄たち”の人間ドラマでもあった。
“楽園”と呼ばれた5つ星ホテルで
実際に起こった奇跡の脱出劇
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1903年に創業した「タージマハル・パレス・ホテル」は、ムンバイ(かつてのボンベイ)はもちろん、インドの“顔”とも呼べる5つ星を誇るホテル。エリザベス女王やキャサリン妃、ダイアナ元妃、オバマ元米大統領から、グレース・ケリー、ジャクリーン・ケネディ・オナシスら、宿泊者たちをたどればそのランクは明らかで、ハリウッドスターはもちろん、“ボリウッド”と呼ばれるインド映画界のスターからも愛されている。
西洋文化と融合した荘厳で美しい建築様式や、バスタブの湯温まで至れり尽くせりのサービスはまさしく“楽園”という言葉がぴったり。経済とエンターテイメント、2つの分野で世界を席巻するインドの中心地ムンバイの象徴であり、インドの発展そのものを間近で“目撃”してきたホテルでもある。
そんな街の象徴ともいえる5つ星ホテルだからこそ、2008年11月26日には、テロリストたちの格好の標的となってしまう。宿泊客は欧米からの観光客やビジネスマン、国内の富裕層ばかり。吹き抜けになった瀟洒なエントランスホールが、無差別の銃撃によってあっという間に惨状と化していく。
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また、この日は同様に観光客で溢れる駅やほかの高級ホテル、カフェなども狙われた。実際に襲撃されたCST駅をはじめ、冒頭、テロリストたちが船で上陸するシーンも実際に彼らが到着した漁村で撮影が行われたという。タージマハルは現在も営業中のため、内部はオーストラリアのスタジオやムンバイの閉鎖されたホテルなどで撮影されたが、煙がもくもくと立ち上るホテルの外観や救出の光景は実際の映像だ。
テロリストたちのホテル籠城は、襲撃からおよそ3日間も続いた。“楽園”と呼ばれるホテルが、いつ、誰の命が奪われてもおかしくない地獄絵図と化していく様は言葉を失う。ただ、その中でも、ホテルの構造や特性を熟知し、冷静さと理性のみならず、5つ星ホテルとしての誇りを失わなかった従業員たちが、それぞれの立場や人種、国籍を超えた団結を後押ししたことが暗闇を照らす希望の光となっていった。
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その一方で、凶行に及んだ“テロリスト”たちはみな、年端もいかない若者たちだった点にも注目。豪華な装飾にあっけにとられたり、料理の残り物をつまみ食いしたり、幼さも覗く彼らを、「神が“楽園”で迎えてくれる」から死など恐れるなと指示を与える首謀者がいたことも忘れてはならない。
デヴ・パテル&アーミー・ハマーら実力派俳優たちが
テロに立ち向かう
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無慈悲に、容赦なく命を奪うテロの不条理を、実行犯や生存者へのインタビューや報道映像などから、つぶさに緊迫感を持って描いていく本作。映画ファンにはお馴染みの俳優がホテルに残された者たちを熱演しているが、そこには “ハリウッド的なお約束”は一切ないといっていい。
まず、エントランスロビー近くのレストランに残された人たちを先導し、自らの危険を顧みず突差の機転で宿泊客を救う主人公アルジュンを演じたのは、『LION/ライオン~25年目のただいま~』でアカデミー賞にノミネートされたデヴ・パテル。英雄というより、あくまでも1人の人間としてのホテルマンを体現。すべてが終わった後に、裸足のまま家族の待つ自宅に帰る姿が印象的だ。
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彼の出世作『スラムドッグ$ミリオネア』でフィナーレを飾ったダンスシーンが撮影された駅もこの同時多発テロの襲撃場所の1つであり、本作にはひと際思い入れが深く、製作総指揮にも名を連ねている。
また、アルジュンら部下からの信頼も厚い料理長オベロイは、いまもタージマハルで腕をふるう実在のシェフ。従業員たちを鼓舞しつつ、“去った者も責めない”という度量の大きさには感服せずにはいられない。演じるのは、『世界でひとつのプレイブック』『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』などで知られる、インドが誇る国民的俳優アヌパム・カー。
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ベビーシッターを伴って旅行ができるほどリッチなアメリカ人建築家デヴッドには、『君の名前で僕を呼んで』のアーミー・ハマー。部屋に残された生後まもない我が子を救いに向かう、勇気ある父親の姿に注目だ。
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そして彼の妻で、ホテル内で離ればなれになってしまうザーラを演じたのは、海外ドラマ「HOMELAND/ホームランド」などで知られるナザニン・ボニアディ。故郷イランの人権問題を訴える活動家でもあり、絶望にも屈しない強さを見せる女性はハマり役。
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さらに、大ヒットシリーズ『ハリ-・ポッター』でドラコ・マルフォイの父、ルシウス役で知られるジェイソン・アイザックスが、自己チューでいけ好かない人物かと思いきや、必死でザーラを守ろうとするロシア人実業家に扮している。
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「信じられるのは人の心の強さのみ」「多くの人に観て欲しい」試写会では称賛の声が続出
国内最大級の映画レビューサイト「coco」では独占試写会を実施。目の肥えた映画レビュアーの満足度は96%と高く(2019年9月25日時点)、綿密なリサーチに基づく実話ベースの作品に「凄まじい緊張感が2時間の間ずっと持続」「突然テロの標的になってしまった人々の恐怖を追体験する」「これが実話だという事、忘れてはいけない」「多くの人に観て欲しい作品」と、圧倒されたという声が続々。
また、「極限状態にのみ生じる愛の奇跡を描いた作品」「絶望的な状況下で描かれる絆や誇りに心を揺さぶられる」「命の尊さと揺るがぬ信念に心震えた」「群集劇としても秀逸で『ダイ・ハード』の魂がここにある」など、奇跡の脱出劇をもたらした“理由”に言及するコメントも。
「信じられるのは人の心の強さのみ」「ホテルマンの誇りを胸に立ち向かう料理長のリーダーシップと従業員たちの姿が感動的。名もなき英雄に乾杯」「誇り高きホテルマンたちと、赤ちゃんを守りたいシッターの女性に胸が熱くなった」など、無慈悲なテロに屈することなく、極限状態の渦中にあっても人間らしくあろうとした人々に称賛の言葉が相次いでいる。
『ホテル・ムンバイ』は9月27日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開。
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