面白い映画を撮りたいという一心だった
昨年、第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画として初めてパルムドール(最高賞)に輝いて以来、数多くの映画賞で快進撃を続け、国内外の興行記録を更新。アメリカでは外国語映画の歴代興収トップ10入りを果たした。いまや、第92回アカデミー賞でも作品賞の有力候補と目されるほどの一大旋風だが、当のポン・ジュノ監督は「まったく予測していなかった事態。いつも通り、淡々と撮った作品ですが、公開後に予期せぬことが次々と起こった。胸躍るアクシデントとでも言うべきでしょう」と笑みを浮かべる。

――セレブ一家の豪邸に、家庭教師として潜り込み“寄生(パラサイト)”を試みた貧しいキム一家が、そこで想像を絶する悲喜劇に巻き込まれてしまう本作。監督も大学時代、家庭教師の経験があるそうですね。
ポン・ジュノ監督:そうです。映画同様、ある知り合いの紹介でした。その知り合いとは、今の私の奥さんなんですが(笑)。紹介された家庭が偶然、とても裕福だったんです。豪邸の2階にサウナがあったことを覚えています。幸い、2か月で解雇されましたが(笑)、他人の私生活を覗き見る奇妙な感覚…。それが映画のアイデアの源泉になっています。

――貧富の格差が生み出す社会、そして人々の分断が重要なテーマになっています。
ポン・ジュノ監督:その上で貧しいキム一家が暮らす半地下の家、彼らが足を踏み入れるIT企業社長の大豪邸という2つの“宇宙”を生み出しました。実際、映画のおよそ9割はどちらかの家で物語が展開していますから。ただ、私は経済学者や社会学者のように、世界の二極化を強く訴えたり、分析する意図はありませんでした。
――それ以前に、学生時代の経験がベースになっていると。
ポン・ジュノ監督:ただただ、オリジナリティあふれる面白い映画を撮りたいという一心だったので。映画のアイデアは、とても些細であり、日常にあふれていると思います。ですから、それらを的確にキャッチするため、日頃からアンテナは鋭敏に張っているつもりです。あえて『パラサイト 半地下の家族』の特徴を挙げるとすれば、善悪の境界がとてもあいまいだという点です。だからこそ、ご覧になる皆さんは展開が予測できないと思うし、おぞましい悲喜劇が起こったとしても、そこに“悪魔”は存在しないのです。
