高橋さんと蒼井さんが19年ぶりに本格的な映画共演となった『ロマンスドール』は、タナダユキの小説を、タナダ自身が脚本・監督として作り上げた1作で、ふたりは初の夫婦役となった。一目惚れをして結婚した園子(蒼井優)と幸せな日常を過ごしながらも、後ろめたい気持ちから、自分がラブドール職人であることを隠し続けている哲雄(高橋一生)。哲雄が仕事にのめり込むにつれ、園子とはセックスレスになっていく。いよいよ夫婦の危機が訪れそうになったとき、園子から、ある秘密を打ち明けられるのだが…。
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痺れるような会話劇、一転、会話のない肉体を通してのやり取りが、作品の色となり薄いヴェールに包まれたような世界観を染め上げていく。まるで「玄人技」とも呼びたくなる見事な演技のハーモニーについて告げれば、高橋さんと蒼井さんは、「ありがたいですね」、「うれしいですね」と小鳥のように囁き合って微笑んだ。互いだからこそ引き出し合い、預け合えたと語る、胸に迫る芝居について聞いた。
『ロマンスドール』はファンタジー要素もあり、ものすごく残酷な部分もある
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――即決に近い形で出演を決められたそうですが、タナダ監督の作品の魅力について、どう感じていますか?
高橋:ファンタジーであっても結構肉薄というか、タナダさんの冷静な目線みたいなものが、映画そのものにすごく効いているところが魅力だと感じています。人生って、急にファンタジーっぽくなったりもする。そんなファンタジー要素もありつつ、非常にシニカルだったり、ものすごく残酷な部分もあったりして。そのバランスが、僕らが生きていて何かを感じてしまうときに、限りなく近いんじゃないかなと思っています。
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蒼井:私は、仕事をやっている上で、タナダさんという存在がすごく大きくて。もし、タナダさんの名前を伏せていたとしてもわかるぐらい、安心できる台本だと思っています。勝手にですけど…、感性が似ていると思っているので「タナダさんといつかお仕事できるかもしれない」という希望が自分の中にあったりしました。自分の地元があるみたいな感じ、とでもいうのかな(笑)。
高橋:地元ね(笑)。
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蒼井:地元ほど、いつでも帰れるわけではないですし、緊張はしますけど、タナダさんと組むと、後天的ではなく、先天的な感覚でお仕事ができるんです。「そうそう、私はこういうことで照れるんだ」とか、「こういうことに、はにかむんだ」とかを思い出させてくれる場所で、「ここは頑張らなきゃ」とか、「ここはこれでいいんだ、この世界は」みたいなことではなく、居させてくれる現場なんです。だから、すごく大きな存在です。タナダさんの作品は心強いんですよね。