作品賞には、漫画原作の実写化映画として誰もが唸り、興行収入57億円の大ヒットを遂げた『キングダム』、時事的なテーマで鋭くメスを切り込んだ社会派映画『新聞記者』、強烈な埼玉ディスりが海外の映画祭でも受けた『翔んで埼玉』、精神科病棟で紡ぎ出される物語を丁寧に撮った『閉鎖病棟-それぞれの朝-』、余韻の残る音楽/青春映画として光った『蜜蜂と遠雷』の5作がラインナップ。振り返ってみても、第一線のエンターテインメント感が強い作品から、繊細なテーマを扱う作品まで、例年よりもバラエティが広がったように見受けられる。

中でも、医療系大学の新設をめぐる権力の闇、そこでの記者と官邸の攻防を描いた『新聞記者』が頭ひとつ抜きんでての受賞となった。『新聞記者』は公開当時、決して大規模な館数での公開ではなかったが、シムさんや松坂さんの確かな演技、加えて、日本の政治という表現が難しいジャンルに屈さず、正面から描き切った藤井道人監督の手腕が光り、口コミからヒットへとつながった。
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一方、東京をめぐる埼玉と千葉の大抗争、郷土愛を大真面目にコメディとして描いたエンタメ超大作『翔んで埼玉』の最優秀監督賞受賞や、『キングダム』において、長澤さん、吉沢さんがそれぞれ最優秀助演賞を受賞したことも忘れ難い。スピーチで武内監督は「取っちゃいけない作品が取ってしまった」と照れ笑いを浮かべていたが、多種多様なジャンルの作品が豊かに作られ、一極集中の結果にならなかったことが第43回アカデミー賞の特徴と言える。それは同時に、観客が選ぶ楽しみ、観る楽しみの選択をより高いレベルでできるようになったことの表れでもないだろうか。

それにしても、最優秀主演女優賞を受賞したシムさんの涙のスピーチは美しいものだった。役所広司に名前を呼ばれた後、しばし呆然とし、固まった顔をしていたシムさんは、壇上に上がりブロンズ像を受け取った後、涙をハラハラと零した。声にならないか細い声で、「すみません」と一言発すると、場内から大きな拍手が沸き起こり、彼女を支えた。

その後、シムさんは何度も「ありがとうございます」と言い、「一緒に共演できて本当に光栄でした、松坂桃李さん。本当に本当にありがとうございました。これからも頑張って活動します」と日本語でしっかりと言葉を紡いだ。シムさんの透き通るような瞳と、心のこもった言葉のひとつひとつが、お茶の間にも感動を呼んだ。

昨年は『孤狼の血』で最優秀助演男優賞を受賞し、熱いまなざしでスピーチしていた松坂さんだったが、今年は最優秀男優賞受賞の際、穏やかな表情で喜びをかみしめる形のスピーチを披露。
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「この作品は僕の知る限りでは実現するまでに二転三転、四転…五転くらい、いろいろなことがあって。それでも、この作品をしっかりと映画を観てくださる方に届けたいという人が一致団結し、藤井監督の舵の元、撮影を終えることができました」と撮影の日々を思い返しながら、気持ちを伝える。最後は、「今日という日を糧に、また新たに作品の一部に自分がちゃんとなれるようにいけたらと思います。今回は本当にありがとうございました」と、今後にも期待がかかる言葉で締めていた。
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