6月はプライド月間!韓国からインドまでアジアのLGBTQ+映画6選

6月はプライド月間、家父長制や家族主義が根強く残るアジアのLGBTQ+映画6作品に注目。

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『お嬢さん』(C) 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED
『お嬢さん』(C) 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED 全 15 枚
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6月はプライド月間。LGBTQ+の権利について訴え、あらゆる性的指向や性自認にプライドを持ち、互いを尊重し合うという趣旨のもと、パレードをはじめとした様々なイベントが行われる。

現在広がり続ける「Black Lives Matter」とも深い関わりがあり、『名探偵ピカチュウ』のジャスティス・スミスが黒人の同性愛者、トランスジェンダー差別の抗議活動の中でカムアウトしたり、Netflixの人気シリーズ「クィア・アイ」でお馴染みのカラモ・ブラウンがLGBTQ+コミュニティにおける人種差別について言及したりするなど、当事者からの発言によりさらなる関心を集めているところだ。

プライド・パレードの始まりとされる1969年6月のニューヨーク「ストーンウォールの反乱」も警察との衝突がきっかけ。トランスジェンダー女性で、ドラァグクイーンにして活動家である黒人のマーシャ・P・ジョンソンさんとラテン系のシルビア・リベラさんの抵抗から始まったといわれる(彼女らの生涯と死については『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』としてドキュメンタリー映画にもなっている)。

黒人のゲイを主人公にしたアカデミー賞受賞の『ムーンライト』(2016)やチリ初のアカデミー賞受賞作『ナチュラルウーマン』(2017)、アフリカ・ケニアから誕生した女性監督による『ラフィキ』(2018)など、有色人種が主人公のLGBTQ+映画の傑作も続々と生まれているが、では、アジアではどうだろう? 今回は家父長制や家族主義が根強く残るアジアの人々を描いた6作品をピックアップした。


人生の岐路に立つ母と娘
『素顔の私を見つめて…』(2004)



今年のNetflixオリジナル映画で“賞レースに絡むのでは?”といわれるほど高い評価を集めている『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』。その中国系アメリカ人のアリス・ウー監督は、「IndieWire」誌による「2020年に知っておきたい期待の女性監督20」のひとりにも選ばれているが、『素顔の私を見つめて…』は16年前に発表したデビュー作。

ウィル・スミスらが製作に加わったアメリカ映画であるものの、ニューヨークの中国系移民コミュニティが舞台。レズビアンであることを隠しながらもバレエダンサーのビビアンと恋に落ちる医師のウィルと、高齢妊娠が判明した彼女の母親がそれぞれに自分の人生を見出していく姿を描いたヒューマン・ドラマ。

日々仕事に追われるクールなウィルは、久しぶりの恋なのか、初めてビビアンと過ごした日はがっちがっちに緊張してぎこちない。それでも次第に母に対しても、ビビアンに対しても自分の気持ちをぶつけられるように変わっていく。また、誰が父親なのかを頑として言わず、コミュニティから疎外されてしまう母親も自分の本心と向き合わざるを得なくなる。

今作もまた、いまいる場所から新しい世界、新しい段階へと一歩踏み出していく爽やかな結末が待つ物語で、監督自身の経験が基になっている。場合によっては嫌味になりがちな母親役を演じる「ツイン・ピークス」や『ラストエンペラー』のジョアン・チェンがキュート。


お互いの存在が絶望を癒やす『私の少女』(2014)



新進気鋭の女性監督チョン・ジュリの長編デビューとなる力作を、『バーニング 劇場版』『オアシス』などの名匠イ・チャンドン監督がプロデュースした『私の少女』。韓国の映画・ドラマからハリウッドでも活躍するぺ・ドゥナと、『冬の小鳥』『アジョシ』『守護教師』と名子役から成長を遂げてきたキム・セロンという実力派2人の共演が見もの。

ペ・ドゥナが演じるエリート警視イ・ヨンナムはレズビアンであることが周囲に発覚し、ソウルから海辺の小さな村に左遷される。そこで出会った少女ドヒは義理の父親ヨンハと祖母から日常的に虐待を受けていた。見かねたヨンナムが手を差し伸べ、甲斐甲斐しく世話をするうちにドヒから慕われ、傷心の自分も癒やされていくが…。

母親が蒸発し、酒を飲んでは暴力をふるう継父のもとで暴力にさらされながら育ったドヒ。しかも継父は不法滞在者を雇いながら、村を支える漁業に貢献していることから、地元の警察も、村人たちもみな見て見ぬ振り。誰もが顔見知り、うわさがすぐに広まる漁村に“異質な存在”ともいえるヨンナムがやってきたことで、決して他人事ではない様々な問題が表面化していく。

『私の少女』 (C) 2014 MovieCOLLAGE and PINEHOUSE FILM, ALL RIGHTS RESERVED
少女を加護することで救われていく主人公を演じたペ・ドゥナは、「ポン・ジュノ監督と仕事をしたときも本当に怒らない監督だなぁと思っていましたが、チョン・ジュリ監督はそれ以上です(笑)。まさにこの映画のシナリオのような方」と監督についてコメント。不穏なシーンが続きながらも、ラストには微かな希望が見える。


エロスと愛が溢れるラブシーン
『お嬢さん』(2016)



フェミニズム映画としても高い支持を集めている『お嬢さん』。『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』などの復讐3部作で知られるパク・チャヌクが、英ヴィクトリア朝を舞台にしたサラ・ウォーターズによるミステリー「荊の城」を1939年、日本統治時代の韓国に舞台を移して大胆に映像化。

世間から切り離された和洋折衷の広大な屋敷と、そこで繰り広げられる幽閉されたお嬢さまの信じがたい日常を、雅で甘美な映像と細部まで考え抜かれた美術セットによって描き、2016年カンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞。小説の本質を残しつつも、ラストには映画オリジナルの視点を加え、原作ファンからも太鼓判を押されている。

『お嬢さん』  (C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED
お嬢さま・秀子(キム・ミニ)の莫大な財産を狙い、詐欺師(ハ・ジョンウ)がなりすました伯爵、変態的趣味を持つ秀子の叔父(チョ・ジヌン)、そして侍女スッキ(キム・テリ)が観る者も欺く騙し合いを繰り広げる。騙す相手だったはずが、美しく孤独なお嬢さまに恋してしまうスッキの視点から描かれる第1部、秀子からの視点となる第2部、真実と愛の行方が明らかになる第3部の構成で、先の読めない展開と2人の女性の想いが高まっていく妖艶なラブシーンに引き込まれる。お嬢さまの「人生を壊しに来た救世主」とのセリフが全てを物語る。

『お嬢さん』  (C)2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED
映画批評サイト「ロッテントマト」の最も優れたLBGT映画ベスト200では、韓国映画としてもアジア映画としても最高の14位に。キム・ミニは儚げだが芯のあるお嬢さま役がハマり、まだ少女の面影が残るスッキを演じたキム・テリは今作が映画デビューとは思えないほど堂々たる熱演を見せる。


“春の嵐”が5人の男女をかき乱す
『スプリング・フィーバー』(2008)



『天安門、恋人たち』(06)により中国電影局から5年間の映画製作・上映禁止処分を受けていたロウ・イエ監督がその決定に逆らい、南京の街でデジタルカメラを使ってゲリラ的に撮影を敢行した香港・フランス・中国合作映画。2009年カンヌ国際映画祭コンペティションにて上映され、脚本賞(メイ・フォン)を受賞。検閲下では絶対に実現しなかった、愛の衝動と移ろうセクシャリティを真っ向から描き、ロウ・イエ監督の日本での人気を決定づけた作品のひとつともいえる。

登場するのは、“春の嵐”により愛の形をかき乱されてしまった男女5人。夫ワン・ピン(ウー・ウェイ)の浮気を疑う女性教師リン・シュエ(ジャン・ジャーチー)は探偵のルオ・ハイタオ(チェン・スーチョン)に調査を依頼、相手がジャン・チョン(チン・ハオ)という青年であることを突き止める。夫婦関係は破綻、ワンとジャンの関係も冷え込む中、探偵ルオはジャンに惹かれていく。やがてジャンとルオ、その恋人リー・ジンの3人で逃避行が始まるが…。

『スプリング・フィーバー』
春の終わりには、その関係性がまるで別物になってしまう5人。愛は水面に浮かぶ蓮の花のように、ときに衝動的に、刹那に男と男、男と女の間をたゆたう。窮地の策か、それとも意図的か、ゲリラ的な撮影がまるで覗き見る探偵の目線のように身体を重ねる者たちをヒリヒリと映し出す。ゲイクラブでドラァグクイーンとして名を馳せたジャンの艶めかしさには、夢中になること必至。


台湾のスター、ロイ・チウが“内縁の夫”を熱演
『先に愛した人』(2018)


『先に愛した人』(英語字幕)
Netflix配信中の台湾映画『先に愛した人』も、夫が同性の恋人のもとに走ってしまう物語だが、こちらは思わずクスッとするところも、もちろん考えさせるところもあるヒューマン・コメディ。第92回アカデミー賞国際長編映画部門に台湾代表作品として出品された話題作。

夫が息子と妻を置いて出ていき、元恋人のもとで病気のため帰らぬ人となった。その夫の保険金が息子ではなく、赤の他人で自称・“内縁の夫”ジエに渡ることを知り激怒した妻は、保険金をめぐり相手と戦おうとするが、思春期の息子はなんとその夫の相手と同居をすることに!

『先に愛した人』Netflixにて配信中
自分の父親が愛して、死ぬまで一緒にいた人物はどんな男性なのか。最初はヒステリックになる母への反抗心からだったとしても、息子は彼に興味を示し、心を開いていく。一方、母は自分が女性として至らなかったのかと自暴自棄になりかけるも、息子のために健康食や着替えをジエの部屋に持っていくうちに、小言を言いながらも掃除をして帰っていくように。“内縁の夫”と妻それぞれが、いまは亡き愛した人との日々をふり返っていくうちに、お互いの心境が変わりはじめていく。

『先に愛した人』Netflixにて配信中
同性カップルが迎える、いうなれば究極的な物語でもあり、同性パートナーは給付金すら受け取れない日本から見れば、まだまだ地平の彼方のような(?)物語。でも、いずれは必要になる物語だろう。日本でも人気のスター俳優ロイ・チウがちゃらんぽらんな青年ジエを好演し、台北電影奨主演男優賞を受賞、“中華圏のアカデミー賞”と呼ばれる金馬奨でも主演男優賞にノミネートされた。


私の精神と恋心は自由
『マルガリータで乾杯を!』(2014)



インドで生まれ育ったフランス人女優カルキ・ケクランが、明るい笑顔を持つ脳性麻痺の少女をずみずしく演じ、新進女性監督ショナリ・ボースが自身の従妹をモデルに描いた青春映画(といっていいと思う!)。

歌をこよなく愛する聡明な19歳のライラは、同じく車いす生活を送る幼なじみとキスを経験したり、バンドのイケメンボーカルに恋して失恋したり…。母の計らいでニューヨーク大学に留学すると、ボランティアスタッフのイケメンにまたもときめく。そんな中、抗議活動に参加していた盲目の女子学生ハヌムと恋に落ち、同棲することに。

『マルガリータで乾杯を!』-(C)ALL RIGHTS RESERVED C COPYRIGHT 2014 BY VIACOM18 MEDIA PRIVATE LIMITED AND ISHAAN TALKIES
いつかちゃんと、どんなときも自分を支えてくれた母には、“バイセクシャル”であると告白したい。そんな矢先に母の病気がわかり…。インド映画でこれほどの性描写は珍しいといえ、日本映画『37セカンズ』と同様、障がい者の性や母娘関係にも踏み込んでいく。

マルガリータが飲みたければ、自らストローを差して飲む。ライラの精神と恋心はどこまでも自由だ。そんなライラの前向きさ、バイタリティが彼女の笑顔に現れる。彼女の次のデートの相手は、いったいどんな人なのか気にならずにはいられない。


今回紹介した作品のほか、『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー監督が四半世紀前に撮った偽装結婚とゲイのカミングアウトをコミカルに描く『ウェディング・バンケット』(93)、『ムーンライト』に影響を与えたという『ブエノスアイレス』(97)、80年代の中国のレズビアンを描いた『中国の植物学者の娘たち』(05)なども傑作として数えられるだろう。

日本発としては生田斗真がトランスジェンダーの女性を熱演した荻上直子監督作『彼らが本気で編むときは、』、宮沢氷魚×藤原季節による今泉力哉監督作『his』など、“その先”を考えさせてくれる作品も登場している。

《text:Reiko Uehara》

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