あと数話でいよいよ佳境を迎える「MIU404」。最終回がきてしまうのが寂しく、いつまでも見ていたいと思わせるこのドラマの中で、そう思わせてしまう理由として、やはり伊吹と志摩のキャラクターや関係性というものは大きいだろう。
性格が正反対、過去に何かがあった二人
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物語が始まったころは、お互いにまったく知らない同士が突然、組まされてしまったことから、それぞれの過去に謎が多く、伊吹と志摩にとっても、そして視聴者にとっても、わかっている情報は少なかった。
二人が組まされた当初は、志摩が署内のあちこちに伊吹について聞いても誰も一様に口が重く、しいて言えば「足が速い」というエピソードが得られるだけだった。ただ、実際に伊吹にあってみると、そこまで感じが悪いわけではなく、マイペースな伊吹にあてられて、ちょっとあっけないというような、ほっとしたような顔を見せる志摩がいた。
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一話では、伊吹に粗暴なところがあり、かつては捜査中に拳銃を抜いたことがあるということもわかる。そして何より伊吹には、志摩にはない勘の鋭さがあるということが描かれている。
一方で志摩は新人の九重からも「優秀だった」と過去形で語られるような人物だ。また、伊吹が破天荒で野性的なところがあるのに対し、志摩は慎重でルールや規則に忠実。志摩は理屈が勝っている人のようにも描かれる。
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伊吹と志摩は、組んだ初日に車で捜査に出るが、伊吹の運転は案の定粗く、街中で派手にクラッシュする。しかし、志摩もその後、捜査中にもっと派手な事故を起こし、結局はその後、ふたりが捜査でメロンパンの営業車を使うきっかけとなるのだが、このシーンは、規範にがんじがらめな志摩が、規範を超えた伊吹に、知らず知らずに「感電」しはじめているように思えるものであった。
それは、相棒を組んで一日の勤務が終わり、上司である隊長から、伊吹の適正について尋ねられた志摩が彼を「バカですね」といいつつも、「ひとまず、保留でお願いします」といいうところからもわかる。志摩は、どこか楽しそうにその伊吹との一日を振り返っているようにもみえた。
同じ痛みを知ることで本物の「相棒」へと近づく
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その後は、ふたりのより深くてつらい過去や現在が見えてくる。例えば志摩は、署内で「相棒殺し」と呼ばれていた。それは何かの比喩であり、真実ではないと思っていた伊吹だったが、実際にあったことだとわかる。
しかも、志摩にもその相棒の死の全貌はわかっていない。そして、彼に対して自分に何かできたことがあったのではないか、死へ向かうスイッチを自分が押してしまったのではないか、分岐点があったのではないかという後悔があったからこそ、誰にも過去を言えずにいたのだった。
伊吹の屈託のない性格はそれを乗り越える。九重や陣馬の協力もあり、相棒の死の理由があきらかになる。それは、志摩が考えていたものは違っていた。事実がわかった後、屋上で伊吹が「安心しろ、俺の生命線は長い」と志摩におどけて手のひらを見せるシーンに、もう相棒が死ぬなんてことを考えないでいいよと言っているような、今の相棒は僕だよと言っているような優しさと、それ以上の感情が見えた。
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伊吹にもつらいことは起こる。少年時代に自分を信じてくれ、刑事になるきっかけをくれた元刑事が、連続殺人事件を追っていく中で、関係者として浮上し、しかも話を聞いていくうちに、その事件の根幹にかかわっていたことが見えてくるのだった。
志摩は彼を疑うが、伊吹には疑問を心の底で持ちつつも、どうしても疑うことができない。しかし、何かに気づきながらも感情でその気持ちに蓋をしている伊吹をみて、これまで彼が「勘」や「感覚」でものを言っていると思われていたことが、実は「動体視覚や聴覚や嗅覚が鋭い分、人より多くの情報が脳に入る」が「思考力と語彙力が足りないせいで、論理だてて説明ができない。うまく言語化できない」ことだったのだと志摩は気づくのだった。
そして、かつて世話になった刑事が犯人だとわかったとき、伊吹もまた、自分が彼に対して何かしていれば、分岐点を間違うことがなかったのではないか、よいスイッチを押せたのではないかという、志摩と同じ痛みを持つ(刑事は、彼のせいではないと告げるシーンはあるが)。
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ふたりは、感覚派と理論派で、まったく正反対の性格ながら、同じ痛みを知る者同士となった。それは悲しいことだが、だからこそ、お互いを補いあってより本物の「相棒」へと一歩、一歩と近づいていっているのだろう。
ふたりが本物の「相棒」になったのはどこなのかという議論があれば、それはここだと様々な箇所があげられることだろう。しかし、一話で二人が地下の駐車場で言葉を交わしたときから、ふたりには何か感じるものがあったのではないかと思える。
「MIU404」第9話あらすじ
桔梗の自宅に盗聴器が仕掛けられた一件が進展する中、伊吹、志摩らのもとに、虚偽通報事件で逃走中の高校生・成川が暴力団の関係先に出入りしているという情報が入る。成川を取り逃がしたことに責任を感じていた九重は捜査を志願し、陣馬と共に成川を捜し出そうとするが…。
一方、成川は久住の世話になりながら、ナウチューバ―・RECに接触し、賞金一千万がかけられた羽野麦の捜索を依頼する。
そんな中、桔梗宅への住居侵入事件の主犯が、エトリと繋がりのある辰井組の組員だったことが分かり、関係各所への一斉ガサ入れが決行される。桔梗はエトリを再び取り逃がすことを恐れ、伊吹、志摩らにエトリにつながる人物を探すように命じるが…。
桔梗の自宅に盗聴器が仕掛けられた一件が進展する中、伊吹、志摩らのもとに、虚偽通報事件で逃走中の高校生・成川が暴力団の関係先に出入りしているという情報が入る。成川を取り逃がしたことに責任を感じていた九重は捜査を志願し、陣馬と共に成川を捜し出そうとするが…。
一方、成川は久住の世話になりながら、ナウチューバ―・RECに接触し、賞金一千万がかけられた羽野麦の捜索を依頼する。
そんな中、桔梗宅への住居侵入事件の主犯が、エトリと繋がりのある辰井組の組員だったことが分かり、関係各所への一斉ガサ入れが決行される。桔梗はエトリを再び取り逃がすことを恐れ、伊吹、志摩らにエトリにつながる人物を探すように命じるが…。