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この隣人トラブルを笑ってはいられない!? コロナ禍に身につまされるサスペンス・コメディ『ミセス・ノイズィ』

映画『ミセス・ノイズィ』は奇しくも今年、自粛期間を経て公開延期となったことで、いっそう他人事ではない、思わずドキッとするような社会派サスペンス・コメディへと“進化”した。

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『ミセス・ノイズィ』 (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会
『ミセス・ノイズィ』 (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会 全 12 枚
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かつてワイドショーを賑わせた、隣人トラブルにまつわる事件をモチーフにした映画『ミセス・ノイズィ』がついに劇場公開。

俊英・天野千尋監督が5年前から構想し、ワークショップから3年を費やして完成させた本作は、2019年の第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門にて初上映されたが、奇しくも今年、新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間を経て公開延期となったことで、いっそう他人事ではない、思わずドキリとする社会派サスペンス・コメディへと“進化”した。この隣人トラブルを、いまや笑ってはいられない。

隣人同士の対立からSNSでの炎上…
テレワーク時代の“あるある“満載!?


コロナ禍に浸透した自宅でのテレワーク。だが、一番の難点は家族との関わり、家事や育児との両立だ。本作の主人公、小説家“水沢玲”こと吉岡真紀のように「お仕事だからちょっと待ってて」「もう少し我慢して」「また後でね」と、何度口にしたことか。

『ミセス・ノイズィ』 (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会
しかも真紀は、かつては文学賞を受賞したものの以降パッとせず、長いスランプの真っ只中。幼い娘・菜子を何とかなだめながらようやく完成した原稿を編集者のもとに持ち込むも、“人間の奥深さ”が描けていないと厳しい指摘を受けてしまう。すっかりドン詰まりになったそんなとき、早朝一番にお隣のベランダから思いっきり布団を叩くドデカい音が聞こえてきたら、あなたならどうする…?

「すみません。それ、やめていただけませんか?」真紀は下手に出ながら、“ノイズ”に負けないように隣人に請う。「ちょっと訳があってね…」と隣人・若田美和子は応じるが、その言葉は自らの音にかき消されて真紀の耳までは届かない。

真紀の執筆は一向に進まない上、夫の裕一はまるで無関心でイライラは募るばかり。そんな日々が続く中、真紀は隣の“騒音おばさん”を題材に新しい小説「ミセス・ノイズィ」を書き始めることで反撃に出る。


こうしてベランダを舞台にした2人のバトルは売り言葉に買い言葉、美和子も負けじとラジカセで音楽を流しながら布団を叩き始め、ますます激化。さらに、知らぬ間に2人のやりとりが動画投稿サイトにアップされたことで、図らずも小説の内容と連動した形となって人々の関心を集め、バズってしまう!

『ミセス・ノイズィ』 (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会
世間を巻き込み、ますます大きくなっていく2人のバトル。思慮分別を欠いたSNSへの投稿や誹謗中傷、アクセス数を稼ぐためだけの炎上商法など、コロナ禍で浮き彫りになったいまの社会の姿を、本作では家族という社会の最も小さな集団同士の諍いを通して痛快に風刺する。


すれ違いから傷つけ合う…女優たちの熱演に注目


自分に余裕がなくなり、周り(我が子さえ)も見えなくなって“アウト”な言動を繰り返してしまう吉岡真紀を演じるのは、『共喰い』や『湯を沸かすほどの熱い愛』で鮮烈な印象を残し、『浅田家!』『罪の声』、主演作『女たち』、ドラマ「相棒」へのレギュラー出演など話題作が続く篠原ゆき子。どこか哀れで、ときに異様で、可笑しみさえ帯びていく真紀を演じた篠原さんは、第59回アジア太平洋映画祭で最優秀女優賞に選ばれた。

『ミセス・ノイズィ』篠原ゆき子 (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会
また、隣人の若田美和子を演じるのは、数多くの舞台作品で活躍し映画、TVドラマにも出演する大高洋子。オーディションから重要な役柄に抜擢され、悪い人ではなさそうなのに謎めいた隣人を存在感たっぷりに演じる。

『ミセス・ノイズィ』大高洋子 (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会
さらに忘れてはならないのが、真紀の愛娘・菜子を演じる新津ちせだ。今年はNHK連続テレビ小説「エール」や日本テレビ「極主夫道」、映画『喜劇 愛妻物語』『アンダードッグ』などに出演する売れっ子の、あどけなくも的確な演技には注目。“子はかすがい”というが、新津さん演じる菜子はいがみ合う2人にとってキーパーソンとなり、本作は強烈なインパクトを放ちつつも女性たちの映画になっている。

『ミセス・ノイズィ』新津ちせ (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会

1枚の布団から始まった争い、
そのノイズに隠された真実とは…!?


天野監督は、本作について「見る角度によって見える景色が違う。人も別の角度から見ると悪人にも善人にもなる、そういうことを盛り込んだ映画にしたかった」と東京国際映画祭で語っている。誰もが複雑で、多様で、多面的。なのに、真紀のように肩に力が入りっぱなしで心に余裕がなくなっていると、そこに想像力を働かせることが難しくなってしまう。初めに美和子は「訳がある」と言ったはずなのに、利己的な不寛容さがムクムクと顔を出せば、その真意は“ノイズ”にかき消されてしまうのだ。

『ミセス・ノイズィ』宮崎太一 (C)『ミセス・ノイズィ』製作委員会
“ステイホーム”期間には芸能人から一般人まで数え切れないバズり動画が生み出されたが、何も考えずに済む、単純で分かりやすいことだけしか聞きたくない、見たくない、というほうが確かに気は楽だ。でもその気楽さは、私たちの疲弊した心の裏返し。表には見えてこない部分にこそ真実が隠れていることは、意外に多いのだ。

『ミセス・ノイズィ』(C)「ミセス・ノイズィ」製作委員会
『ミセス・ノイズィ』は TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開中。
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《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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