本作は、殺人ヒッチハイカーを乗せたばかりに、その後逃げても逃げてもひたすら狙われ続ける青年の恐怖と絶望を描き、アメリカ全土にトラウマを植え付けた1986年のサイコ・スリラー。シンプルなストーリーながら、全編に異様な緊張感を持続させることに成功、と同時にド派手なアクションの連続で、観る者に恐怖と興奮を与える傑作として、いまもなお多くの映画ファンに愛されている。
この度解禁となるのは、『ヒッチャー』旧DVD特典より抜粋したインタビュー映像。フランシス・フォード・コッポラ監督『アウトサイダー』(1983)の主演で人気を集め、その後も80年代青春映画に出演し、若手俳優集団「ブラット・パック」の一員となったC・トーマス・ハウエルが、本作冒頭シーンの撮影秘話を明かしている。

当時、憧れのハウアーとの共演が決まって大興奮し、彼から多くの影響を受けたというハウエルは「ただ感じた“この映画をやらねば”」と映像の冒頭で真剣に語る。本作のロバート・ハーモン監督に「無限の可能性を秘めている」と演技を評価されるハウアーは、自身が演じたジョン・ライダーについて「できる限り独創的にしたかった」と話しており、そんなハウアーが冒頭シーンで見せたアドリブの演技をハウエルが興奮気味にふり返る。
それは車に乗せたヒッチハイカーが危険な人物だとジムが気づくシーンで、殺人鬼ジョンがジムの目元に突きつけたナイフで涙をすくう演出は、台本にはなくハウアーの即興だったとか。観る者のみならず共演者のハウエルも当時心を奪われたアドリブ演技には注目。

メガホンをとったのは本作で監督デビューしたロバート・ハーモン。殺人鬼の動機や人物背景などをほぼ排除し、彼らの置かれた状況だけを綿密に描くことで登場人物の本質をにじませていく演出が光っており、J・J・エイブラムス監督は『10 クローバーフィールド・レーン』製作時に本作の影響を受けていることを明かしている。
撮影は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のジョン・シールが担当、盛大に横転する車や燃え上がるヘリコプターなど、サービス精神旺盛な場面が多い上、霧の中に佇む怪しげなヒッチハイカーや人影もなくどこか不安を煽る広大なハイウェイなど、ハッとするほど美しい場面もあり、どのシーンも見どころだ。
『ヒッチャー ニューマスター版』は2021年1月8日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開