《text:西森路代》
『MR.LONG/ミスター・ロン』や『砕け散るところを見せてあげる』など、国内外で高い評価を受けているSABU監督の新作は、EXILE/三代目J SOUL BROTHERSのパフォーマーとして活躍するEXILE NAOTOが主演の一風変わったホラーだ。
本作品も、ファンタスポルト・ポルト国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞、ファンタスポア・ポルトアレグレ国際ファンタスティック映画祭で“物語の意図を最もよく表現された撮影賞”を受賞、また13カ国の映画祭で受賞、正式出品されている。
NAOTO演じる、やる気がなく、どこか空虚な毎日を送っていた市役所職員の藤本研二は、ある日、廃墟となっているダンスホールの解体の仕事を任されることとなる。しかし、この建物にはマリー(坂東希)という幽霊が出ると言われており、ホールの解体を試みるものたちには、よくないことが起こるといういわくつきであった。研二は解体の日までに、有能な霊能力者を探し、お祓いをしようと躍起になっていた。
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そんなとき、ひょんなことから、霊能力を持った高校生・麻田雪子(山田愛奈)の存在を知り、彼女のもとを訪れる。彼女は、霊が見えたり会話できるようになる能力を持っていた。
研二と雪子はダンスホールに足を踏み入れると、ダンサーであったマリーがジョニー(吉村界人)という男性を探しているということを知るのだった。ジョニーの手がかりを得るために、ふたりはそこに棲みついている霊たちに話を聞いていくのだった……。
愛すべきゴーストたちを演じるのは、2020年に解散をしたE-girlsのパフォーマーであり現在女優として活躍する坂東希や、テレビ朝日系ドラマ「IP~サイバー捜査班」にレギュラー出演、更に主演作をはじめ、多数の公開作品が控えている吉村界人、そしてミュージシャンや俳優として第一線で活躍している石橋凌など。
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研二と雪子は、ジョニーを探すために、さまざまな土地や時空を旅することとなる。特に、ジョニーの行方を知っている伝説のヤクザのアニキ(石橋凌)の存在感は、この映画の見どころの一つと言ってもいいだろう。
このヤクザのアニキの殺陣のシーンは、かつてクェンティン・タランティーノが『キル・ビル』で見せたような、日本刀を用いたアクションの魅力を、その本場の日本からもう一度発信しているようなスタイリッシュな魅力があった。
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しかし、シリアスな魅力だけではなく、SABU監督らしいユーモアがちりばめられているのも本作の魅力だ。石橋凌演じるアニキの姿も、どこかコミカルでツッコミを入れたくなるところがあるし、アニキと研二と雪子の不思議な会話の妙味にも、ときにクスりと笑わされるし、その後にはほろっとさせられるようなところがあった。
霊たちが、そこにとどまるには、それぞれにとどまるしかない事情があり、そしてそれぞれに人間性豊かな物語があるのがこの映画の魅力だろう。
その強い思いには、愛する人と会えなくなってしまったということであったり、社会で虐げられてしまったことに強く怒りを感じていたり、解決すべきことが解決していなかったりと様々なものがある。しかし、そんな人々の遺した思いが晴らされ、その魂が浄化されるとき、見ている我々も、なにか温かい気持ちが生まれてしまうのかもしれない。
さて、そんなゴーストたちに翻弄され引っ掻き回され、高校生の雪子にも頼ることばかりで、少々頼りない研二であるが、そんな彼にも変わる瞬間がある。その変わるシーンこそが、俳優・NAOTOとしての見せ場であるし、はじけどころでもあるだろう。
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先にも書いたが、本作には、そこにいるだけで存在感が半端ない石橋陵や、若手俳優の中では、独特の雰囲気を持ち、悪の要素の強い役でも、どこか愛らしさが感じられたり、ごく普通の役でも、ピリッとしたスパイスを効かせた演技のできる吉村界人といった、個性的で経験豊かな俳優たちが揃っている作品である。
そんな彼らの演技や、彼らが演じる役の背景を受け、俳優のNAOTOが見せる変化や、どこかしら空虚な日々を送っていた研二が「本気」になる瞬間をぜひとも楽しみにしてほしい。
<提供:「DANCING MARY」製作委員会>