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ラナ・ロックウェル、監督であり父との撮影は「信頼関係が一番大きな助け」に

普段優しい父は酒に溺れ、母は家出をして新しい彼氏がいる。その彼もまた問題ありで、頼るべき大人のいない15歳の姉ビリーと11歳のニコの姉弟、そして2人が出会った少年マリクは逃避行に出るーー。

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『スウィート・シング』(C)2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED
『スウィート・シング』(C)2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED 全 13 枚
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普段優しい父は酒に溺れ、母は家出をして新しい彼氏がいる。その彼もまた問題ありで、頼るべき大人のいない15歳のビリーと11歳のニコの姉弟、そして2人が出会った少年マリクは逃避行に出るーー。

その旅路を、映画『スウィート・シング』で16ミリフィルム撮影によるモノクロ&パートカラー映像によって描いたのが『イン・ザ・スープ』や『フォー・ルームス』で知られる米インディーズ界のアイコン、アレクサンダー・ロックウェル監督。今回は、ロックウェル監督と彼の実子で主人公姉弟の姉・ビリーを演じたラナ・ロックウェルのインタビューが届いた。


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2020年、第70回ベルリン国際映画祭にてジェネレーション部門(児童青少年向け作品)最優秀作品賞を受賞し、第33回東京国際映画祭では『愛しい存在』とのタイトルで上映された本作。ロックウェル監督は本作製作のきっかけについて、「数年前に、娘のラナと息子のニコを主役にして『Little Feet』という映画を撮ったんです。当時、僕たち家族はロサンジェルスに住んでいたんですが、思うように映画を撮れない時期でした。それで、自分の資金で、今一番撮りたいと思うものを撮ってみようと。それがラナとニコを撮ることでした」と明かす。「『Little Feet』は子どもたちのポエトリーをスケッチしたような1時間の映画です。その後、僕らはニューヨークに戻り、ラナの助言もあって、もう一度2人と映画を作ってみたいと思ったのが、最初のきっかけですね」。

一方、『Little Feet』撮影時は7歳だったというラナ。「あの頃はまだ、映画撮影と言っても、何か遊びをしているような気持ちでした。その後は、お父さんの学生たち(ロックウェル監督はN.Y.大学大学院で映画を教えている)の短編に出演したことがありますが、撮影は1日か2日だったので、『スウィート・シング』のように演技に打ち込んだのは初めてです」と言う。『スウィート・シング』の撮影時はまさに劇中のビリーと同じ15歳、現在は18歳になった。

子どもは「大人が考えている以上に強くて、
自分で生きていく力を秘めている」


本作は“子どもを育てられない親”の話でもある。ビリーを演じたラナ、弟のニコと、実子と紡ぐにはあまりにも辛辣で、苦く、悲しい物語だ。

「『Little Feet』ではまだ子どもたちは小さかったのですが、『スウィート・シング』ではもう子どもたちは何も知らないイノセントのままではいられません。子どもたちの世界が大人の世界と衝突し、摩擦を起こすところを撮りたいと思いました」と監督は言う。

「大人の世界には暴力があり、困難があり、そこで負けてしまう人がいる。でも、子どもたちには、それを跳ね返すようなものが彼らの中にある。確かに悲しい物語かもしれませんが、この映画には楽しい瞬間がたくさんあると思いませんか? それが子どもたちの強さや美しさなんですよね。そしてラナやニコの中には、そうしたとても強靭なものをいつも感じていたので、彼らならできると信じました」と、厳しい現実に直面する子どもたちを演じた娘たちへの信頼を打ち明ける。

「お父さんが言うように、ビリーもマリクもニコも、大人が考えている以上に強くて、自分で生きていく力を秘めていると思います」とラナが続ける。「私が演じたビリーは、口数は多くないけれど、静かに周りを観察していて、とても強いものを持っている女の子だと思います。でもそれは必要に迫られて、強くなくてはいけないということでもあるのですけど。でも彼女はただ重荷を背負っているのではなくて、例えば、マリクとの友情はビリーに希望をもたらしている素晴らしいものなんじゃないかなと思います」と解説する。

髪を切られるシーンは「信頼がないと難しかった」


「初めて脚本を読んだ時、ビリーとは環境はまったく違うけれど、自分に似たところもあるなと感じました」と言うラナ。「ビリーという役柄だけでなく、弟のニコやマリクとの関係、そして父親や母親、すべての登場人物と物語が語ろうとしているエッセンス、子どもたちの生命力とか光や希望にすごく感動しました。お父さんが書いたものですが、とても素晴らしい脚本だったと思います(笑)」と、父の観点を絶賛した。

家族で映画を作ることについて、ロックウェル監督は「こういう映画を作る時に一番大切なものは信頼感だと思うけれど、それをゼロから作る必要がない。もう信頼しあった関係ですからね。そして、なんでも言い合える関係です」と言う。「家族の団欒の時に『すみませんが、そこにある塩をこちらに渡していただけますか』なんて言わないですよね? 『そこの塩をこっちに!』でいい。そんなふうに、思ったことを正直に率直に伝えられるのは素晴らしい点です」と利点が多いという。

するとラナも、「私も信頼関係の中で撮影できたのは一番大きな助けになりました。ビリーが、ウィル・パットン演じる父親に髪を切られる場面などは、自分の内側にあるものをさらけ出さなくてはできないので、そういう場面を演じるときは、信頼がないと難しかったと思います」と振り返った。

それでは、いつも知っている“父親”と、現場での“監督”に違いを感じるかも聞いてみると、「『今、お父さんは監督なんだ』って意識することは必要でした(笑)」と正直に語り、「でも、家にいる時でも、分からないことがあればお父さんに聞けるので、そういう意味ではやりやすかったですね」と明かした。とはいえ、「今自分がワクワクするのは音楽」と語るラナ。「演技については、自分のペースで少しずつ探っていこうかなと思っています」と語る。

怒りや憎悪が渦巻く世の中…
「子どもたちの世界は本来その対極にあるもの」


こうした子どもたちの多感な日々が映画として残っていくことについて、「実は今、弟のニコはラナより背が高いんですよ(笑)。だからもう、あの時期は二度と戻ってこないと身にしみて感じていますよ(笑)。幼い頃は『お父さん、お父さん』と僕にくっついて離れなかったのに、最近は『親父うっとうしいよ』みたいなことになっちゃって(笑)。そういう意味でも、一つの貴重な“時代”を切り取ることができたと思いますね」と監督も感慨深げだ。

そんな本作は、ロックウェル監督にとって25年ぶりに日本で劇場公開される作品となる。日本のファンに向け、「僕たち大人はとても厳しくドライな世界を子どもたちに強いています。しかし、子どもたちの世界は本来その対極にあるものです。五感を使って何かに触れ、ビリーたちのようにアイスクリームを食べて跳ね回ったり、海に潜ったり、踊りまくったり。そうした子ども特有の世界を観客に感じ取ってほしいと思います。希望と喜びをガラス瓶の中の入れて届けるような映画になってほしいと思います」と伝える。

「アメリカは今、ネガティブな感情に苛まれていて、怒りや憎悪とかそういうものが世の中に蔓延していて、そんな環境を生きなければならない子どもたちがいます。しかし一方では、この映画の中に登場させたビリー・ホリデイのように、過酷な少女時代を生き延びた希望の星がいます。アメリカのみならず、世界にも”希望”はそこかしこにあるはずだと思ってください」と、映画に込めた思いを語る監督。

そして、ラナは「この映画を見てくださる日本の観客の皆さんと心は共にあります、とお伝えしたいです。ビリーの喜びや輝きを感じ取ってくれれば嬉しいですね。そして地球の反対側の日本でこの映画が上映されるのは本当に『COOL』って感じています」と、日本の観客と本作を共有できる喜びを語ってくれた。

『スウィート・シング』はヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国にて順次公開中。

《シネマカフェ編集部》

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