【映画と仕事 vol.12】字幕翻訳者・高内朝子インタビュー 時代背景や文脈、シチュエーションに合わせた柔軟な字幕を

多くの人々が、海外作品を鑑賞する際にお世話になっている日本語字幕。映画業界で働く人々にお仕事について話を聞く【映画お仕事図鑑】。今回、登場してもらうのは先日、公開を迎えた『フォーリング 50年間の想い出』の日本語字幕を担当した高内朝子。

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『フォーリング 50年間の想い出』(C)2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited· SCORE  (C) 2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC. · A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION
『フォーリング 50年間の想い出』(C)2020 Falling Films Inc. and Achille Productions (Falling) Limited· SCORE (C) 2020 PERCEVAL PRESS AND PERCEVAL PRESS INC. · A CANADA - UNITED KINGDOM CO-PRODUCTION 全 9 枚
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多くの人々が、海外作品を鑑賞する際にお世話になっている日本語字幕。映画業界で働く人々にお仕事について根掘り葉掘り話を聞く【映画お仕事図鑑】。今回、登場してもらうのは先日、公開を迎えたヴィゴ・モーテンセンの初監督作品『フォーリング 50年間の想い出』の日本語字幕を担当した高内朝子 。

高内さんと言えば、近年では『20センチュリー・ウーマン』『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』などの話題の映画、さらに大人気ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」の字幕を担当。またMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)において、初めて女性ヒーローが単独で主役となった『キャプテン・マーベル』では、女性登場人物のセリフでほとんど“女性言葉”が使われていないことが大きな話題を呼んだ。

映画『フォーリング 50年間の想い出』を例に、字幕制作のプロセスや苦労、やりがい、さらに時代と共に変遷する字幕の言葉遣いについてなど、たっぷりと話を聞いた。


「なんとなく」で始まった字幕翻訳の仕事


――まずは高内さんが字幕翻訳者になったきっかけ、経緯について教えてください。

これが結構たまたまというか(笑)、「なろう!」と思っていたわけではなく流れなんですよね…。もともと「お話」や本が好きで、さらに小学生の時に『グーニーズ』に夢中になってからは海外の映画や音楽にも目覚めたものの、それが将来の仕事に結びつくとは考えていませんでした。大学時代には交換留学でイギリスに1年弱行ってたんですが、帰ってきたら周りの就職活動も一段落しているという状況だったんですね。

イギリスでは美術史を専攻していて、いまでは珍しくないですが、当時はあまりなかった、従来の白人男性が作った歴史ではない、フェミニズム的な視点であったり、様々な人種の視点も反映した美術史というのを勉強していました。その関連で映画理論のクラスも取った覚えがあります。それが面白くて、大学院で勉強してみようかという気持ちになって、一切、就職活動をしないで卒業してしまったんですが、院試に落ちてしまい(苦笑)、受け直そうか?  どうしようか?  という感じでアルバイトをしてたんです。いまよりももうちょっとのんびりしていた時代だったんですね(笑)。

それで「一度くらい働いてみて、それからまた決めよう」と思って、好きな本や美術に触れて働きたいという気持ちで、なんとなく出版社や美術館で働きたいと思ってたんですが、そんな簡単にうまくいくはずもなく…(苦笑)。結局、小さなアートギャラリーで働くことが決まったんですが、その直後に新聞で見つけたのが、制作会社の「字幕スタッフ募集」という採用記事で、なんとなく面白そうだなとピンときて、そこを受けました。最初に決まってたギャラリーは平謝りで辞退して、字幕制作のスタッフとして働き始めたんです。

最初は「ちょっとやってみるか」という気持ちだったんですが、結局そこで11年ほど働いて、それからいまに至るという感じですね。

――では字幕翻訳についてはその会社でゼロから学ばれたんですね?

そうですね。最初の5年ほどは「字幕ディレクター(演出)」という仕事で、人の翻訳のチェックや、クライアントとの打ち合わせ、スタジオ作業などをしていたんですが、そこで流れを覚えて、自分でも字幕の翻訳をやってみたいと思うようになりました。

当時その会社には数人の社内翻訳者がいて、私に対しても「じゃあやってみれば?」という感じで(笑)、それから5~6年、社内翻訳者として仕事させてもらって、その後、独立いたしました。

――字幕制作の世界には、字幕制作の会社に属している「社内翻訳者」と「フリーランス」とどちらもいらっしゃるんですか?

そうですね。とはいえ、フリーランスが圧倒的に多いとは思います。ただ大きな制作会社であれば「翻訳部」みたいな部署があり常時、何人かの翻訳者を社員として抱えているところもあります。

私のように制作会社に勤めて、仕事を覚えて独立する人間もいますし、いまはいろんなスクールがあるので、そこに通って仕事を紹介してもらったりしながら、少しずつ仕事を増やしていくという方も多いと思います。

『フォーリング 50年間の想い出』メイキング

――字幕翻訳者の需要というのは多いのでしょうか?  ずっと以前、ある字幕翻訳者さんが英語の映画の字幕翻訳に関しては、ごく少人数で回っているとおっしゃっているのを聞いたことがありますが、近年はNETFLIXなどの配信サービスも拡大し、劇場映画以外のコンテンツの量も増えていて、こうした需要も変化しているのではないかと…。

翻訳者の正確な人数などは私もわかりませんが、NETFLIXなどの作品の数は毎月ものすごいですから、確実に以前と比べて仕事の量は増えていると思います。

私は配信サービス以前、ちょうどDVDが流通し出した頃に会社に入ったんですね。翻訳も最初はDVDの特典映像のような仕事が多くて、名前が出ないようなものばかりでした。いまは、配信サービスが増えて、翻訳者名が出るもの出ないもの含め、翻訳の仕事はますます増えていますね。スクールも盛況だと聞いています。

――先日、公開を迎えたヴィゴ・モーテンセン初監督作『フォーリング 50年間の想い出』の字幕も担当されていますが、こうした劇場公開の映画の場合、依頼から制作、納品までどのような流れで仕事を進めていくのでしょうか?

劇場映画の場合、配給会社から直接、私のようなフリーランスの字幕翻訳者に依頼が来ることもありますが、多くの場合は間に(字幕の)制作会社が入っていて、そこから話をいただきます。今回の『フォーリング 50年間の想い出』も制作会社さんからの依頼ですね。納期も作品によって違いますが、今回は2週間ほどいただきました。

まず“素材”と呼ばれる映像とスクリプト(脚本)をもらいます。最近の翻訳者はたいてい持っている字幕制作ソフトというものがあるんですが、そこで映像と自分が入力した文字を出して、どういう感じで字幕が出るかを目で確かめることができるんです。

作業としてはまず“ハコ割り”と呼ばれるプロセスがあって、このセリフのまとまりでひとつの字幕にしようというのを決めて、原語を区切っていきます。

続いては“スポッティング”という、ハコ割りどおりに字幕を出すためのタイミングを入力していく作業です(制作会社にお願いできるケースもあります)。タイムコード入りの映像と組み合わせながら、字幕制作ソフト上で(字幕の)イン点、アウト点というのを決めていくと、この字幕にだいたい5秒かけられるとか、この字幕は1秒半しか使えないといった秒数や文字数が表示されるんです。

それを終えたら翻訳作業に入ります。作品によって訳しながら調べなくてはいけないことが非常に多い場合は交渉して少し翻訳の期間を延ばしてもらうこともあるんですが、今回の『フォーリング 50年間の想い出』に関してはそこまで引っかかる部分もなかったので、わりとスムーズに、10日前後で翻訳の作業ができました。

『フォーリング 50年間の想い出』

その後、制作会社のチェックが入ります。その過程で例えば「ここは横字幕になっていますが、テロップが入るので縦にしましょう」という修正(※縦の字幕になることで表示できる文字数は減る)が入ったり、「このシーンは字幕が俳優の顔にかかるので、もう少し右に寄せましょう」といった指摘が入ったりします。

表記のミスなどについてのチェックもありますし、表現に関しても「もう少しわかりやすく」というリクエストが入ったりもします。

その後は“シミュレーション”または“プレビュー”と言われる作業で、制作会社や配給会社の担当者さんと共に少し大きめの画面で字幕をチェックし、気になった部分などを修正していくプロセスがあります。

それを経て初号試写(※関係者向けの試写上映)があるんですが、やはり大きなスクリーンで見ると、小さなソフトの画面や作業用映像で気づかなかった部分が見えたり、単純に話者が見えてなかったけど、違う人が喋っていたりと、新たな修正ポイントに気づく場合もあります。そこで必要があれば最終的な修正をして、私の仕事はひとまず終わりとなります。

――劇場映画の場合、TVドラマやDVDよりも字幕に費やせる文字数は少ないそうですね?

そうですね。DVDや配信のドラマなどの場合、わからなかった部分を戻って見直すことができますが、劇場映画の場合はその1回きりとなってしまうので、ひと目で見やすく、わかりやすい字幕が求められます。大きなスクリーンで映像を堪能してもらうためにも、文字数はなるべく少ないほうがいいのですが、わかりやすさのためにどうしても入れなくてはいけない言葉、情報もあったりして、なかなか難しいところで、そこはいつもせめぎ合いですね。

昔から「1秒4文字」ということは言われるんですけど、それもカタカナなのか?  それとも漢字なのか?  よく見る文字列か?  めったに見かけない言葉なのか?  ということによって違います。それから(映像を含めた)画面全体の情報量が多いシーンだと、あまり文字を入れすぎると読み終わらないまま終わってしまうので、そういうところでは字数を減らしたり…。

幸い、いまはソフトを使って文字数を減らしたり、増やしたりといろんなパターンを確認できるので、様々な要素を考慮しながら制作しています。

――そういった字幕制作ソフトなど、ツールの部分の進化で、高内さんが仕事を始められた頃と比べ、仕事が進めやすくなった部分も大きいのでしょうか?

そうですね。それこそ昔は、頭の中で映像と字幕の組み合わせを想像しながら翻訳をして、その後、“仮ミックス”という字幕が仮で入った映像を制作会社から受け取って、初めてどんなふうに字幕が表示されるのかがわかったんです。いまはソフトを使えば最初からわかるので、その点は楽ですね。

そういう意味では、先ほど説明した“スポッティング作業”というのは、以前は私たちの仕事ではなくて、字幕翻訳者はあくまでも翻訳をするだけだったんです。そこは逆に、ソフトができたことで仕事が増えてしまった部分ですね(笑)。


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《text:Naoki Kurozu》

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