おどろおどろしいビジュアルとは裏腹に、「ヴェノム可愛い」というまさかの感想が続出し、作品に対しても「エディとヴェノムのラブコメ」「エディとヴェノムのイチャイチャを楽しむ映画」といった声が聞かれる『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』。
カーネイジとは、原作コミックにおいてヴェノムを凌駕する圧倒的な戦闘能力をもち、「スパイダーマン」シリーズ随一の凶悪ヴィランとして描かれているキャラクター。本作でも連続殺人犯クレタス・キャサディの狂気を取り込んで覚醒し、容赦のない大虐殺を引き起こすのだが、『ヴェノム』の醍醐味はやはり“2人で1人”、“ニコイチ”のエディとヴェノムの関係性にある。ところが、今回はカーネイジの出現によってその唯一無二の絆が揺らぎ、関係の再構築を強いられることに…。2人が辿るプロセスは、さながら“カップルセラピー”だ。
人間以上に人間的な(?)愛されヴェノム
前作で共存・共生を決めたエディとヴェノム。ヴェノムは宇宙から来た地球外生命体の<シンビオート>で、地球では人間に寄生しなければ生きていけず、唯一適合する人間がエディだった。また、人生崖っぷちだったエディもヴェノムのおかげで何度も命拾いした上、今回はクレタス(ウディ・ハレルソン)への独占取材でスクープを得て人気記者に返り咲く。お互いが、お互いを特別にする存在。2人の信念と正義感が共鳴して共存関係を後押しし、エディ/ヴェノムは残虐な庇護者(リーサル・プロテクター)となっていく。

とはいえ、そんな2人の痴話喧嘩が始まると、劇場では決まって笑いが起こる。エディ役のトム・ハーディはあらかじめ録音したヴェノム役の自分の声を相手に今作でも華麗な二人羽織を見せ、日本語吹替版では諏訪部順一と中村獅童の掛け合いが絶妙だ。

“共同生活”を送るにあたり、「悪人以外食べてはいけない」というルールをヴェノムに課したエディだったが、ヴェノムの食欲は留まることを知らずイライラは募るばかり。エディがせめてもの“プレゼント”としてニワトリを2羽与えても、「ソニー」「シェール」と名前をつけ、すっかり情が湧いてしまう始末。懐メロ好きのエディの影響を受けてか、『バーレスク』にも出演した俳優でシンガーのシェールと故ソニー・ボノの夫婦デュオ「ソニー&シェール」から名前をとるなんて、ヴェノムはやっぱり可愛い(だが、18歳で結婚したシェールと11歳年上のソニーの関係は従属的で不公平なものだったという)。
一方のエディは、元婚約者アン(ミシェル・ウィリアムズ)に対してまだ未練たらたら。突然アンに呼び出され、仕事が軌道に乗った自分との復縁かと意気込むも、医師ダン(リード・スコット)と婚約したと知ってがっくり、それをヴェノムのせいにする。アンにとってエディはいまも大切な人には変わりはないが、向こう見ずで傲慢で利己的、連続殺人犯クレタスも共鳴するような“危うさ”を彼女は受け入れることができない。アンが求めているのは、ジェットコースターのような駆け引きや裏切りなどとは無縁の平穏な関係で、ダンとならば安心できるからこそ結婚を決めた。

そんなアンの本心を、エディ以上に彼女のことが大好きなヴェノムは気づいており、「エディのことをお願い」されるのも可愛いすぎ。傷心のエディのために、甲斐甲斐しく料理を作ろうとするのも可愛すぎる。それに、エディの前作での過ちについて改めて彼女に詫びるべきと促すのも、ほかならぬヴェノムだ。
一度離れて初めて気づく…お互いの大切さ
だからこそ、2人はお互いに喧嘩をしながらも我慢を繰り返してきた訳だが、死刑執行直前のクレタスの挑発にのったヴェノムが“飛び出した”ことで最悪の事態へ…。ついにお互いの堪忍袋の緒が切れてしまう。売り言葉に買い言葉、ヴェノムがエディの大切な高級テレビを壊し、エディがソニー&シェールを“鶏質”にする様子はまるでヒートアップした夫婦喧嘩。
そして完全決別した後、偶然、仮想パーティーに紛れることになったヴェノム。マイクを取って「自分らしく生きたいだけなのに」とエディへの不満をぶちまけるが、はみ出し者たちが集ったパーティーでは“共生”へのメッセージと受け取られ拍手喝采、ここでも愛されキャラになってしまうヴェノムはやっぱり可愛い。

一方、クレタス/カーネイジ側は、クレタスと共に施設で育った恋人フランシス/シュリーク(ナオミ・ハリス)と結ばれるため大虐殺を繰り広げていく。この2人は自分たちを、実在した伝説的強盗カップル、ボニー&クライドに例えるほど情熱的で破壊的。ただ、フランシス/シュリークが放つ超音波は<シンビオート>最大の弱点だ。カーネイジは彼女を排除しようとするが、クレタスにとっては完全な共生で得られる凶悪なヴィランの力よりも、フランシスの存在そのものが重要だった。

クレタスとフランシス、そしてアンとダンの愛の結果を目撃したエディ/ヴェノムは、自分たちの関係を見つめることになる。大切な人には思いやりや感謝の気持ちを臆せず表すことを、エディはヴェノムから教えられる。むしろヴェノムのほうが人間の恋愛観や倫理観に通じているのも可愛いポイントだ。そしてエディも、ラストでは2人の関係をドン・キホーテとサンチョ・パンサに例えながら、「髪を風になびかせ裸足で砂浜を歩く」ヴェノムの夢を叶えてやっている。
どんなカップルにも、“一緒にいること”がちょっと息苦しくなるときが訪れる。その危機をどう乗り越えるのか。その欠点も含めて相手を受け入れられるのか。果たして、目の前にいる相手は最もしっくりとくるパートナーなのか。そんな問いに、本作は答えをくれる…かもしれない!?
以下、エンドクレジットを観ていない方はネタバレ注意
共存の道を得た2人の前で異変が!? トム・ホランドのピーター・パーカー登場!
ヴェノムやカーネイジら<シンビオート>の弱点は、騒音と炎。特に、大聖堂で鐘が鳴り響き彼らが身悶えるシーンはサム・ライミ監督による『スパイダーマン3』の1シーンを思い起こさせた。さらに、“力を持て余している”とヴェノムが夜中の街を這い上り、ビルからビルへと飛び移るシーンなどもまるでスパイダーマンのよう。前作よりも印象的に描かれている。

そして今回、マーベル作品お馴染みのエンドクレジットで“大事件”が起こる。長年連れ添った夫婦のように、リゾートホテルの一室でラテンのメロドラマを見ながら、あーだこーだと感想を語り合っていた2人だったが、ヴェノムが<シンビオート>の800億光年の力を見せてやろうかと言い出した途端、一瞬“時空が歪んだ”ようになり部屋の雰囲気が一変。TVの画面はメロドラマから「スパイダーマンの正体はピーター・パーカー」と告発するニュースに変わっている!
そのピーター・パーカーとはトム・ホランドが演じるピーター・パーカーであり、ニュースの声の主は、J・K・シモンズが演じる(サム・ライミ版と同じ)「デイリー・ビューグル」編集長ジョナ・ジェイムソン。『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』のミドルクレジット最終シーンと酷似している――。
これはつまり、ヴェノムがMCUの世界にやってきたのか? それとも、同じシーンのように見えて実はパラレルワールドなのか? これから公開される『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』でドクター・ストレンジによって開かれるマルチバース(多次元宇宙)にも関わるに違いない、重大シーンとなっている。
『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は全国にて公開中。