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ジェシカ・チャステイン、祝・アカデミー賞!崖っぷちで踏みとどまる女性たちを演じた軌跡

第94回アカデミー賞主演女優賞、初受賞となったジェシカ・チャステインは『タミー・フェイの瞳』で大変身、これまでの軌跡をふり返った。

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ジェシカ・チャステイン Photo by Emma McIntyreGetty Images
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様々な波乱があった第94回アカデミー賞。中でも主演女優賞はまれにみる混戦といわれ、ノミネートされている俳優たちの出演作が、いずれも作品賞にはノミネートされていないという異例の事態となった。その混戦を制したのが、初受賞となったジェシカ・チャステインだ。

出演作は軒並み高評価を受け、いまや何作もの待機作を抱えるプロデューサーにして、女性の地位向上の活動家としても知られるジェシカ。各国の女性スパイたちが大活躍するアクション映画『355』の記憶も新しい中、社会的マイノリティへの愛と純粋な信仰心や献身をある意味利用された『タミー・フェイの瞳』で大変身を見せて、ついにオスカー像を手にした。そんなジェシカの軌跡をふり返った。


『タミー・フェイの瞳』で訴えたかったメッセージとは?


主演女優賞プレゼンターのアンソニー・ホプキンスも語ったように、今年はそれぞれが圧倒的な演技でキャリアを築いてきた「最強の存在」で「屈指の顔ぶれ」ばかり。ニコール・キッドマン、オリヴィア・コールマン、ペネロペ・クルスと5人中3人が過去の受賞者で、クリステン・スチュワートはダイアナ元妃の苦悩を演じて初ノミネート。

ニコール、クリステン、そしてジェシカと5人中3人が(受賞しやすいといわれる)実在の人物を演じ、その中でもジェシカはメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したチームの尽力もあり、パッと見では彼女と気づかないほどの迫力でタミー・フェイになり切った。『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(2011)で助演、『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)で主演と2度のノミネート経験があったジェシカは、3度目のノミネートで初受賞を果たした。

『タミー・フェイの瞳』は、1970年代から80年代にかけて、キリスト教福音派のテレビ伝道師として全米で最も成功を収めたタミー・フェイとジム・ベイカー夫妻がスキャンダルにより失墜していく様を描いた、実話に基づく物語。"PTLクラブ”(PeopleThatLove)という彼らのテレビ番組では信仰心に基づく愛にあふれたメッセージが反響を呼び、彼らの番組中は視聴者からの“献金”を受け付ける電話が鳴りっぱなし! タミーお手製のマペット“スージー”は子どもたちの心を掴み、彼女の特徴的な口調や歌声も人気となった。

しかし、その栄光は長くは続かない。献金の不正流用や、彼らの人気を妬む他の団体の陰謀、ジムの性的スキャンダルなどにより、夫婦が築いた帝国はやがて崩壊していく…。

極めて単純に言えば、タミーは博愛主義で、自身が信仰によって救われたように誰もが救われてほしいと願っていた。神が作られた人間を等しく愛す、という彼女のあつい信仰心によるメッセージや寛容さは、80年代に社会問題化したHIV/エイズ患者やゲイ・コミュニティにもとりわけ響くこととなった。そして、テレビ伝道師として人気を博したことや数々の賛辞と、誰かに認められ必要とされることの喜びが、慎ましく生きてきた彼女の平常心や金銭感覚を鈍らせてしまったのだろう。

タミー・フェイについて10年間リサーチを重ね、「彼女と彼女の物語にはぶっ飛ばされた」というように強い思い入れがあったジェシカは、プロデューサーとして映画化を実現させ、受賞スピーチでは「おかげで役に入り込めた」とメイクアップチームやマイケル・ショウォルター監督らにも感謝を語った。

何より、授賞式ではその直前、主演男優賞を受賞したウィル・スミスが、妻に侮蔑的な発言をしたクリス・ロックに平手打ちした件について自らを戒めるようなスピーチをしたばかり(後に公式に謝罪したが、彼の暴力は世界中が知ることとなり余波は広がっている)。“言葉の暴力”に続いて、“有害な男らしさ”にも繋がるような実際の暴行を世界が目の当たりにしただけに、差別や偏見、暴力、ヘイトクライムが蔓延し、さまざまなトラウマや孤立、絶望感に苛まれやすい現在こそ、「私たちに必要なのはタミーの思いやりの心です」と語ったジェシカのスピーチが余計に胸に迫るものとなった。

「みながありのまま受け入れられ、自由に人を愛せて、暴力に怯えることのない世界を築くために、実際にいま、絶望や孤独を感じている人がいたら知ってほしい。あなたは唯一無二であり、無条件に愛されている」。そう語るジェシカの姿は、まさしく尊敬に値するものだった。ちなみに、ジェシカとクリス・ロック、ウィルの妻ジェイダ・ピンケット・スミスは『マダガスカル3』(2012)で声優として共演したことがある。


ホラーから社会派、アメコミ、スパイアクションまで縦横無尽


ジェシカは1977年、カリフォルニア・サクラメント生まれ。ニューヨークの名門ジュリアード学院に学び、舞台で活躍しながら「ER 緊急救命室」「ヴェロニカ・マーズ」などの人気TVシリーズにゲスト出演し、2008年の『Jolene』(原題)でスクリーン・デビュー。TV映画の「名探偵ポワロ オリエント急行の殺人」ではメアリー・デベナム役を演じ、ドイツ語やイスラエルの格闘技クラヴ・マガにも挑んだ『ペイド・バック』(2010)では冷戦下の工作員としてヘレン・ミレンと2人1役を演じた。

キャリアが大きく花開いたのは2011年。『Salome』(原題)で共演したアル・パチーノがテレンス・マリック監督に彼女を推薦したという『ツリー・オブ・ライフ』は第64回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝き、レイフ・ファインズ主演・初監督作『英雄の証明』(11)、マイケル・シャノン主演によるサイコスリラー『テイク・シェルター』(11)、マイケル・マンの娘アミ・カナーン・マン監督のもとで強気な女性刑事を演じた『キリング・フィールズ 失踪地帯』(11)が相次いで公開され、大きく注目を集めることに。

そして『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』で無邪気な陽気さと柔和な美しさ、その影にある悲しみを見事に表現したシーリア役でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされる。続き、キャスリン・ビグロー監督がアカデミー賞監督賞を受賞した『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)ではCIAの女性分析官マヤを演じ、第18回放送映画批評家協会賞で主演女優賞を受賞、第85回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

『欲望のバージニア』(2013)

以来、クリストファー・ノーラン監督『インターステラー』(14)からギレルモ・デル・トロ監督『クリムゾン・ピーク』(15)、リドリー・スコット監督『オデッセイ』(15)、アンディ・ムスキエティ監督『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(19)、サイモン・キンバーグ監督『X-MEN:ダーク・フェニックス』(19)など、ジャンルも様々な作品に出演。崖っぷちのギリギリに立ちながらも凛として踏みとどまり、決して諦めない、たとえ奈落の底に突き落とされたとしても自力で這い上がる、そんな女性の強さも、そして弱さも体現し続けてきた。

『スノーホワイト/氷の王国』(2016)LAプレミア

また、主演作『ラブストーリーズ エリナーの愛情』『ラブストーリーズ コナーの涙』(14)ではプロデューサーも務め、性的人身売買の温床になっていたオンライン広告サイトに切り込み、被害者の少女たちを追うドキュメンタリー『私はジェーン・ドウ:立ち上がる母と娘』(17)では製作総指揮とナレーターを担当。その後、自身の製作会社フレックル・フィルムズ(FreckleFilms)を立ち上げている。


『ツリー・オブ・ライフ』(2011)


1950年代のアメリカ、ブラッド・ピット演じる父親は元軍人で挫折した音楽家。信心深く、成功のためには“力”が必要だと息子たちを厳しく育てる。ジェシカが演じたのは、その“有害さ”を少しでも中和するべく、萎縮する息子たちを包み込むような慈愛満ちた母親。ときに観念的な生命観による映像が挟み込まれ、マリック監督は家族であることの苦悶も描いた。クローズアップされるジェシカがその都度美しい。


『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』(2011)


黒人メイドに育てられた裕福な白人女性が黒人メイドたちを救うかのような描き方は批判の的ともなったが、今作に出演した俳優たちがいずれも素晴らしいのは事実。保守的なコミュニティの“新参者”シーリアの繊細な一面を好演したジェシカは、ヴィオラ・デイヴィス、オクタヴィア・スペンサーとともに助演女優賞にノミネートされ、結果オクタヴィアが受賞。

その後、ヴィオラが『フェンス』で、エマ・ストーンが『ラ・ラ・ランド』で、アリソン・ジャネイが『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でオスカーを手にし、さらに黒人俳優のパイオニア、故シシリー・タイソンも2018年にアカデミー名誉賞を受賞、そして今回のジェシカと、『ヘルプ』はオスカーを呼び込む作品なのかとちょっとした話題となった。なお、『ドリームプラン』で助演女優賞にノミネートされたアーンジャニュー・エリスもキャストの1人。


『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)


9.11後、情報収集と分析に秀でた20代半ばのCIA女性分析官マヤが、オサマ・ビン=ラディンの追跡チームに参加する。「若い」「まだ子どもだ」と“現場”から懸念を示す声があがり、問題視された拷問による取り調べも彼女の想像をはるかに超えるもの。しかし、テロ行為は相次ぎ、ついには同僚や自身の命も危険にさらされたことでマヤの執念は加速していく。ラストシーンの涙をどうとらえるかがポイント。


『MAMA』(2013)


「ゲーム・オブ・スローンズ」ニコライ・コスター=ワルドーと共演、森の中の小屋で“人ならざるもの”に育てられた幼い姉妹を引き取ることになる、売れないバンドのベーシストを演じた。次第に育まれていく母性と怨念のような母性の対決が見どころ。

後に製作総指揮のギレルモ・デル・トロとは『クリムゾン・ピーク』、監督・原案のアンディ・ムスキエティとは『IT/イット THE END』で組むことに。今作が縁で、監督の姉でプロデューサーのバルバラ・ムスキエティとも親しくなったジェシカは『IT/イット』の“少女ベバリー”ソフィア・リリスの要望もあり、大人になったベバリーを演じた。


『ラブストーリーズ コナーの涙 | エリナーの愛情』(2013)


ジェシカは役に対する献身さや誠実な人柄ゆえか、俳優や監督との再タッグに大変恵まれている。男女それぞれの視点から壊れゆく関係性を追った今作では、『IT/イット THE END』や『X-MEN:ダーク・フェニックス』でも共演するジェームズ・マカヴォイと夫婦役を演じ、ヴィオラ・デイヴィスも出演している。悲しみの共有は人間関係において最も困難なことの1つだ。N.Y.の街並やジェシカのファッション、音楽などにも注目。


『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(2014)


今作で夫役を演じるのは、ジュリアード学院の同窓生でともに演劇を学び、マーベルの「ムーンナイト」も話題のオスカー・アイザック。『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』のJ・C・チャンダー監督のファンだったジェシカが脚本を読み、出演を快諾。コーエン兄弟監督作インサイド・ルーウィン・ディヴィス 名もなき男の歌』で世界的に名が知られる直前のオスカーを、移民から成り上がった夫役に推薦したという。80年代初めが舞台だが、いまも起こり続ける銃による暴力、その連鎖は何も変わらない。

なお、ジェシカとオスカーは、スウェーデンの名匠イングマール・ベルイマンによる同名ドラマをリメイクしたHBOのリミテッドシリーズ「ある結婚の風景」(5時間余りの映画のよう)でも共演、ある夫婦関係の破綻と再生を演じている。今度はTV界の栄誉、エミー賞も期待されているところだ。

「ある結婚の風景」(2021)

『オデッセイ』(2015)


火星有人探査の最中に嵐に巻き込まれたマーク・ワトニー(マット・デイモン)を1人残し、地球に帰還することを決めた宇宙船ヘルメス号の女性船長メリッサ・ルイスを演じたジェシカ。頭脳明晰なリーダーで、規律を重んじ、自制心が強く、苦渋の決断でほかの乗組員の生命やミッションの安全な遂行を優先する勇気はただ者ではない(ただし、ワトニーによれば「音楽の趣味は最悪」)。ジェシカ自身は「“私も火星に行きたい”と女の子が思えるような役を演じたかった」と明かしている。


『女神の見えざる手』(2016)


ジェシカを見出した1人、『ペイド・バック』のジョン・マッデン監督のポリティカル・サスペンス。「銃規制法案」という生々しいトピックを題材に、政権の決断に影響を与え世論も左右するプロ集団“ロビイスト”の知られざる実態を描いた。休まず眠らず、常に頭脳をフル回転させて先の先を読む花形ロビイスト、エリザベス・スローンは目的のためには手段を選ばず、ときには非情に味方さえも欺く。ジェシカにしかできない人間の強さも、弱さも合わせ持つ主人公だ。


『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』(2016)


母親がヴィーガンのシェフであり、自身もヴィーガンとして知られるジェシカ。『ヘルプ』のフライドチキンも実は中身が大豆の加工品だったという。そんな彼女が製作総指揮にも名を連ね、第2次世界大戦下、ユダヤ人をワルシャワ動物園に匿った実在の人物を演じた。

今作のPRのため、2017年11月には初来日。「政治家やセレブリティじゃなくても、誰かの人生をより良きものにできる。自分にも何かができるはずと気づいてほしい」と訴えるとともに、当時の#MeTooの盛り上がりについても触れ「いまはSNSで、性別も人種も宗教も性的指向も問わず、誰もが情報発信できる時代。こうした問題がうやむやにならず、公にされることは重要なこと」と語る姿が印象的だった。


『モリーズ・ゲーム』(2017)


今作も実在の人物で、オリンピック候補のトップアスリートからセレブが集う高額ポーカールームの経営者へと転身を遂げたモリー・ブルームを好演。ハリウッドの都市伝説的なポーカールームにはスター俳優や大物プロデューサー、大企業の経営者らが集まってくる。モリーの回顧録を脚色し、初監督に挑んだのは『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキン。自身で運命を切り拓く、強い意志を持った肝の据わった女性はジェシカにハマる。


『AVA/エヴァ』(2020)


フレックル・フィルムズ製作作品。ジェシカが演じた暗殺者エヴァは、揺れ動いている。かつては優等生だったがアルコールの依存症となり、やがて闇の組織に雇われる。命じられるまま完璧に任務をこなしながらも、「なぜ標的たちは殺されるのだろうか」と自問自答し、つい標的に尋ねてしまうことも…。そんな彼女は危険分子と見なされ、最強の殺し屋(コリン・ファレル)が彼女を追う。

彼女の人生に何が起こったのか、家族との関わりなどにも迫った暗殺者ものとしては異色作。監督を務めるはずだったマシュー・ニュートンが暴行・DVの告発により降板、『ヘルプ』のテイト・テイラー監督が代わりに起用された。ジェシカも裏切りにあったような気持ちだったのではないだろうか。


『355』(2022)


第94回アカデミー賞授賞式では批判もあったエイミー・シューマーら3人の女性司会陣。ただ、冒頭の「私たち3人のほうが男性1人を雇うより安い」というジョークは的を得ていた。ハリウッドの男女のギャラ不均衡をいち早く問題視したのもジェシカだ。「もう、共演俳優の4分の1しかギャラがもらえないような仕事は受けない」と、米「Variety」に語ったこともある。

フレックル・フィルムズ製作の今作では、これまで男性俳優たちが演じてきたスパイアクションを自身とペネロペ・クルス、ルピタ・ニョンゴ、ダイアン・クルーガー、ファン・ビンビンで実現。ギャラは5人同額で均等に支払われたという。

今後は、マイケル・シャノンと再タッグ、カントリー・ミュージック殿堂入りを果たした女性シンガー、タミー・ワイネットを演じるTVシリーズ「George&Tammy」(原題)、レイフ・ファインズと再共演となる『TheForgiven』(原題)、エディ・レッドメインと共演するNetflix映画『TheGoodNurse』(原題)ほか、ジェイク・ギレンホールとSF作品『TheDivision』(原題)に挑むなど、休む暇もない。ジェシカの“やりたいこと”は、まだまだ道半ばに過ぎないのだ。

《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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