《text:Reiko Uehara》
最新作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』は、“ファンタスティック・ビースト”と呼ばれる魔法動物たちが本格的に大活躍。窮地に陥った主人公ニュートを救ったり、魔法界の未来を左右する重要な鍵となったり、魔法ワールドのまた新しい世界観と可能性を見せてくれた。
と同時に、劇中には魔法ワールドを愛してきたファンが映画館で思わず叫びたくなるほどのファン待望の瞬間も多々あり、種族を越えた愛や、兄弟愛、師弟愛、同志愛…とたくさんの愛にも溢れている。
※以下、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』までのシリーズのネタバレを含みます。ご注意ください。ダンブルドア×グリンデルバルド
まず、冒頭から実現したのが、アルバス・ダンブルドアとゲラート・グリンデルバルドの密会。ダンブルドア役は2作目『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』から引き続きジュード・ロウが演じ、グリンデルバルドは本作からデンマーク出身で国際的に活躍するマッツ・ミケルセンが演じている。
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前作までは、ダンブルドアを敵視する過去のライバルといった印象が強かったグリンデルバルドのキャラクターだが、なぜだろうか、今回マッツが演じて、ついに2人が直接対峙したことで、ダンブルドアが「君に恋していた」とはっきりと口にする理由が理解できた。両者には、“かつて愛して今でも忘れられない人、だがもう愛せない人”といった空気が流れていた。数年前、原作者に対して「ダンブルドアがゲイだと描かれないなんて」と批判が上がったことがあったが、本作ではダンブルドアとグリンデルバルドが恋愛関係にあったことが明示された。
しかし! その直後、マッツのグリンデルバルドは侮蔑を瞳に宿らせ、マグル(人間=非魔法族)は「動物」と言い放つ。「同胞よりも、動物どもの味方をするのか」と言うのだ。いくら思い合っていても2人の決定的な違いがここに凝縮されており、本編開始数分でファンは歓喜と落胆を体験する。このグリンデルバルドの選民思想は、いまの現実世界においても残念ながら健在で、断じて許されないもの。ダンブルドア自身も後悔を隠さない。
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終盤に、グリンデルバルドがクリーデンス(エズラ・ミラー)を襲おうとしたことをきっかけに、ダンブルドアとグリンデルバルドが再び杖を向け合い、強力な魔法契約“血の誓い”のペンダントがついに破壊される場面がある。一騎打ちの最中で、お互いの鼓動に触れた瞬間、共に過ごした“あの夏”が蘇ってしまう2人は結局、決着をつけることができない。ダンブルドアとグリンデルバルドの微妙な愛憎関係は、今後も鍵となっていくだろう。
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1作目から3人の俳優が演じてきたグリンデルバルド。闇祓いグレイブスとして正義を遂行すると見せかけ、自らの目的のために暗躍した1作目、魔法使いたちを懐柔して信奉者を増やした2作目、魔法界を掌握すべく国際魔法使い連盟のリーダーに立候補するほどの確信と野心を示しながら、その一方でダンブルドアへの思いを隠さない3作目と、前向きにいえば、俳優が変わったことでグリンデルバルドはより多面的に表現されてきたといえる。
ダンブルドア×ニュート
本作ではようやく、エディ・レッドメイン演じる“魔法動物学者”ニュート・スキャマンダーのフィールドワークを垣間見ることができる。ニュートがボウトラックルのピケットを連れて、神秘的な山岳地帯の竹林をかき分け、たどり着いたのは魔法動物キリンの生息地。魔法界のリーダーを選ぶために不可欠な貴重な魔法動物の保護をニュートに指示したのは、ほかならぬダンブルドアだ。“血の誓い”により、グリンデルバルドと直接攻撃し合うことのできないダンブルドアの代わりにニュートが実働部隊となる。
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『ハリポタ』シリーズの中でも、お茶目ではぐらかすような言動がよく見られたダンブルドア。今回も彼の“秘密の作戦”の全貌は誰も知らないが、ダンブルドアにはとにかく信じてみようと思わせる不思議な魅力(それも魔法?)がある。ニュートも寄せ集めチームに対して、「僕はダンブルドアを信じている」と説得する。そんな2人の師弟関係と、グリンデルバルド×クリーデンスの服従関係はまるで別物だ。
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かつて“世界を変える”という同じ志を持ったグリンデルバルドに恋し、妹アリアナを死なせたことを悔いるダンブルドアに、「過ちを正す努力をすることはできる」と語るニュートからは師弟を超えた深い友情が感じられる。
ニュート×ジェイコブ
ニュートとダンブルドアが結成する寄せ集めチームには、ニュートの親友のマグル、ジェイコブ・コワルスキー(ダン・フォグラー)の存在は欠かせない。ジェイコブと再会したときのニュートの嬉しそうな顔といったら! ダンブルドアから預かった杖をジェイコブに手渡すときの、いたずらっぽい笑みにも注目。大らかなハートとウィットに飛んだユーモアを持ち、勇敢で思いやりに溢れたジェイコブのような人間こそチームには必要。もともと魔法動物以外のこと(魔法界の政治や人間界)に興味のなかったニュートに、ジェイコブが与えた影響は大きい。
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寄せ集めのデコボコチーム
なお、彼ら寄せ集めチームは、ニュートを尊敬し、魔法動物にも詳しい彼の助手バンティ・ブロードエーカー(ヴィクトリア・イェーツ)がダンブルドアから絶大な信頼を得て有能ぶりを発揮。バンティの活躍は、もっと称えられていい!
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また、異父兄妹のリタ・レストレンジをグリンデルバルドに殺されたユスフ・カーマ(ウィリアム・ナディラム)は、スパイとしてグリンデルバルドの陣営に赴く。悲しみの記憶をグリンデルバルドに消されても、彼は翻らない。
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そして、アメリカ・イルヴァーモーニー魔法魔術学校の呪文学教師“ラリー”ことユーラリー・ヒックス(ジェシカ・ウィリアムズ)は闇祓いのテセウスにも匹敵する魔法を駆使し、聡明でユーモアもたっぷり。ジェイコブとのコンビでも息の合ったところを見せていた。
スキャマンダー兄弟
寄せ集めチームには、ニュートの兄テセウス・スキャマンダーも加わっている。テセウスは、事務仕事や型どおりの約束事が苦手なニュートとは正反対で規律を重んじ、いまやイギリス魔法省の闇祓い局局長であるエリート魔法使い。第一次世界大戦の英雄でもある。まるで共通点がなく疎遠だった兄弟は、前作でリタを失ったことで共闘する。
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猛獣マンティコアが“看守”を務める刑務所にテセウスが捕まると、ニュートはマンティコアと同じように体を繊細にくねらせる擬態ダンスでうまく気をそらせることに成功。テセウスもこのダンスに加わる上、ポートキーになっているネクタイでホグワーツに移動できた際には、いつかのロン&ハーマイオニーのように思わず手を繋いでいた兄弟が何とも微笑ましい。テセウスは優秀な闇祓いではあるが、魔法動物が相手ならニュートに任せたほうがいい。
なお、実際には兄テセウスを演じるカラム・ターナーがエディよりも年下だ。
ジェイコブ×クイニー
1作目『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』で初めて出会った日から恋に落ちたジェイコブとクイニー・ゴールドスタイン(アリソン・スドル)。クイニーがグリンデルバルド陣営についてしまったことで、ジェイコブの心も、大繁盛していた彼のパン屋も抜け殻のようになっている。「“闇落ち”じゃない」と信じるクイニーを取り戻すためにも、ジェイコブはチームに加わる。
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一方、グリンデルバルドの残忍さを目の当たりにするクイニーは自らの選択を後悔し、自分自身とプレッシャーにさらされているクリーデンスを守るため、人の心を読む開心術を極力抑え込んでいるように見える。時には、危険を侵してジェイコブに会いに行ったことも。2人の故郷アメリカではマグルと魔法使いの恋愛は禁止だが、今回のラストシーンでは、ついにニュートたちの立ち会いのもとジェイコブのパン屋で結婚、ハッピーエンドとなった(ただ、1人きりで去っていったダンブルドアの背中が寂しそうではあった…)。
ニュート×ティナ
本作の初映像が解禁されたときから、その所在がファンの間で話題になっていたティナ・ゴールドスタイン(キャサリン・ウォーターストン)。日本版の予告編で、お馴染みのニュートのトランクにしっかりとティナの写真が貼られていたことで、ひと安心した人も多いのでは?
実はティナは前作の後、アメリカ合衆国魔法議会の闇祓い局長となり、多忙を極めていたらしい。この間、何をしていたのかはいずれ明かされるかもしれないが、妹クイニーの結婚式には付添人として駆けつけた。2人は久しぶりの再会だったようで、クイニーに緊張を読まれてしまうニュートが可愛い。また、ティナはラリーとも友人関係にあることが窺えた。不器用すぎるところがそっくりな“ニューティナ”は、離れている時間が長くともファンに大人気だ。
クリーデンス×アバーフォース
2作目『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』のラスト、グリンデルバルドから「本当の名はアウレリウス・ダンブルドア」と告げられたクリーデンス。本作ではグリンデルバルドの手先として、ニュートの前に現れてキリンの子を奪ったり、ダンブルドアを襲ったりしていたが、実は身も心も限界寸前。オブスキュラス(強力な魔法)を宿す彼は長くは生きられず、窮地を察した不死鳥が彼を見守るように飛び回っている。
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やがてクリーデンスは、グリンデルバルドは彼の魔力と出自を利用していただけ、と気づいていく。そんなクリーデンスの胸の内をくみ取っていたのは、クイニーだけでなかった。オーストリアのヌルメンガード城にいるクリーデンスと、ホグズミード村のパブ「ホッグズ・ヘッド」にいるアバーフォース・ダンブルドア(リチャード・コイル)を魔法の鏡が結びつけている。「許してくれ」という父の謝罪に、「この孤独がわかるか」「家に帰りたい」というクリーデンスの声にならない叫び。2人が親子だったことは、本作で判明したダンブルドア家の秘密の1つだ。
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クライマックスのブータンでグリンデルバルドの企みを暴いたクリーデンスは、グリンデルバルドから攻撃の呪文を浴びかけるが、間一髪、アバーフォース、そしてアルバスのダンブルドア兄弟がそれを防いだ。
ダンブルドア兄弟
優秀で著名な魔法使いである兄アルバスと、その影で目立たぬ弟アバーフォースは、スキャマンダー兄弟とどこか似ているが、こちらの兄弟には末妹アリアナの死にまつわる確執が長年暗い影を落としてきた。
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原作小説(「ハリー・ポッターと死の秘宝」)で存在が語られ、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』にも肖像画で登場していたアリアナ。本作ではダンブルドアの口から、彼女もまたオブスキュラスを生む者であったこと、彼女が亡くなったあの夏、グリンデルバルドと旅立とうとしていたダンブルドアはアバーフォースと喧嘩になり、どちらかの杖が放った魔法でアリアナが倒れたこと、その際にグリンデルバルドの残虐性に気づいてしまったことが語られた。
いまでは和解していても、兄弟の悲しみ、自責の念はいつまでも消えない。それでもクリーデンスを家に連れ帰ったアバーフォースは、その最期を見届けることができたに違いない。