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海外で高評価!Apple TV+「Pachinko パチンコ」ひとりの女性を通して描く犠牲と受容の物語

ユン・ヨジョン、「花より男子」「相続者たち」などで知られる韓流スターのイ・ミンホらが出演し、日本の南果歩やアンナ サワイらが参加したApple TV+のドラマシリーズ「Pachinko パチンコ」。4月29日にはついに最終話の配信を迎える。

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「Pachinko パチンコ」 Apple TV+にて配信中
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アメリカに移住した韓国人一家を描いた映画『ミナリ』で、強烈だが温かくて芯のある“おばあちゃん”を演じてアカデミー賞を受賞したユン・ヨジョン、「花より男子」「相続者たち」などで知られる韓流スターのイ・ミンホらが出演し、日本の南果歩や『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のアンナ サワイらが参加したApple TV+のドラマシリーズ「Pachinko パチンコ」。4月29日にはついに最終話の配信を迎える。

韓国語に日本語、英語も飛び交う今作は、1000億ウォン(約103億円)もの製作費が投じられたアメリカ・韓国・カナダ合作のグローバル・オリジナルシリーズ。

ソンジャ”という名のひとりの女性を通して、日本が韓国を併合した1910年代からバブル経済の翳りが見える1989年まで、4世代、80年に及ぶある家族の叙事詩を描いている。批評サイト「Rotten Tomato」では批評家評価はフレッシュ98%、オーディエンス評価も95%と高い支持を獲得(4月25日現在)。日本ではNetflixの最新ドラマほど話題には上っていないが、「イカゲーム」に続き、エミー賞をはじめとするTV界の各賞にも絡んできそうな勢いだ。


アメリカ人が心打たれたベストセラー小説をドラマ化


原作は、2017年「ニューヨークタイムズ」のベストセラーで、オバマ元米大統領も絶賛した韓国系アメリカ人の女性作家ミン・ジン・リーによる同名小説。1910年代から順を追って語られる物語をドラマでは老年のソンジャが回想する形で編成。日本統治下の釜山・影島(ヨンド)で育った1910年代、在日の仲買人コ・ハンスと恋に落ちるも、別の男性と結婚して日本の大阪に移住する1930年代の日々と、1989年にアメリカから帰国したソンジャの孫の物語が並行して展開する。

時系列が入り組むのは、韓国ドラマでもよくあること。今作でも、韓国ロケとカナダ・バンクーバーの広大なセットが融合したスケール感、作り込まれたプロダクションデザイン、美しい撮影、音楽などによって、観る者はシームレスに時代を行き来できる。歴史コンサルタントとしてアメリカ、韓国、日本から20人以上が参加して徹底的な時代考証が行われたという。プロデューサー陣が「ザ・クラウン」や「ゲーム・オブ・スローンズ」の名を出して自負する、没入感を高める世界観が見事にでき上がっている。

また、祖母ソンジャと孫ソロモンは何語で会話をするのか、ハンスはどんなときに日本語で話すのかなど、それぞれのアイデンティティとも密接な言語へのこだわりも見られ、Apple TV+では言語によって字幕の色分けがなされている。

本作のショーランナーで脚色も手がけたのは、海外ドラマ「ザ・テラー」や「見えない訪問者 ~ザ・ウィスパーズ~」、同じくApple TV+「See~暗闇の世界~」などの脚本家であるスー・ヒュー。モダニズム建築と少女の旅立ちの映画『コロンバス』のコゴナダ監督、韓国の海外養子縁組の問題を取り入れた『ブルー・バイユー』のジャスティン・チョン監督が、全8話のうち4話ずつを担当して共同監督を務めた。共同プロデューサー、テレサ・カン=ロウも韓国系アメリカ人であり、さらに様々な背景を持つアジア系俳優陣が出演した。

まず、3月25日に日本を含む世界各国で1~3話までが配信されると、4世代にわたるほんの小さな家族の姿に自分たち一家の歴史を重ねる人々が続出し、「過去数年間で最高のドラマの1つ」(英「The Glove and Mail」)とも絶賛された。本国では原作小説の韓国版がベストセラー1位となっているという。

今作がこうした強い支持を集めるのは、慣れ親しんだ居場所を手放したことのある者すべてに関わる感情が描かれた普遍的な物語だからだろう。当時、移住せざるを得なかった人々のみならず、“故郷”を去らなければならなかった者は何らかの悔恨やある種の後ろめたさとともに旅立ち、その荷物の重みを次の世代も携えているからだ。


釜山と大阪、記憶と共に帰るシーンも


釜山・影島の下宿屋の娘ソンジャ(チョン・ユナ)は、病弱だが温厚な父に「この世の醜いものからお前を守る」と言われて育った。父と連れだって海産市場を回るソンジャは、適切な価格で売り買いがされていなかったら大人にも指摘する聡明な子だ。

1931年、父を亡くしてから1人で買い物を任されるようになった16歳のソンジャ(キム・ミンハ)は裕福な身なりのハンス(イ・ミンホ)と出会う。島の漁師や市場にいる男性たちとはまるで違う、洗練された空気と異国の風を運んでくるハンスにソンジャはたちまち惹かれるが、子どもを宿したことを伝えるとハンスは大阪に妻と3人の娘がいると言い放つ。

結婚をしていない若い女性が妊娠するというのは当時、田舎の小さな島では大スキャンダル。母が切り盛りする下宿屋に悪評が立つ心配もある。ソンジャは“愛人として”何不自由ない暮らしをさせるというハンスの申し出を拒否、牧師のイサクと結婚して、祖国を離れることを決意する。

1989年の日本では、ソンジャ(ユン・ヨジョン)の孫ソロモン(ジンハ)がアメリカから帰国、在日コリアン1世の未亡人が持つ土地をホテル開発のために地上げしようとしていた。その一方、ソロモンはパチンコ屋を経営する父モーザス(ソウジ・アライ)の愛人(南果歩)の娘で、思いを寄せていたハナ(山本真理)の所在も気にかかっていた…。

白眉なのは第4話から第5話で、身重の体で船の最下層に乗り込み、海を越える1931年のソンジャと、世話になった義姉の遺骨を抱えて、移住以来、初めて祖国に帰る1989年のソンジャがリンクするシーンを目にすることができる。

さらに第7話では、1923年に関東大震災に遭うまで夢に心躍らせていたハンスの背景を如実に描いた。このときに根も葉もない噂が飛び交ったことは、耳にしたことがある人も多いはずだ。


新星の誕生を目撃!キム・ミンハ、オスカー俳優ユン・ヨジョンと同一人物を演じる


注目すべきは、オーディションによって大抜擢され、世界に見つかった新星キム・ミンハの存在感だ。彼女が演じた、知性を感じさせ、凛として人を惹きつけるものがあるソンジャという女性は原作からのイメージ通り。キム・ミンハ自身がまだ何者でもないフレッシュな俳優ゆえに、その魅力をもっと知りたくて前のめりで見てしまう。やがて、ユン・ヨジョン演じるソンジャに重なっていくのは必然に思えてくる。

ユン・ヨジョンについても流石と言うしかない。彼女は “解放後”生まれだが、結婚して渡米し、離婚後に韓国に戻って俳優復帰したという経歴も相まってか、かつてリアカーでキムチを売りながら生き抜いてきた女性ソンジャを圧倒的説得力で体現する。最近では、プレゼンターを務めた本年度アカデミー賞でApple TV+映画『コーダ あいのうた』のトロイ・コッツァーが助演男優賞を受賞した際、彼が手話でスピーチできるようオスカー像を代わりに抱えていた姿も印象的だった。

ただ、ソロモン役ジンハに関しては、配信開始早々に過去の画像投稿やセクハラコメントが報道された。すでに該当サイトを削除し、謝罪をしているが、ブロードウェイ・ミュージカル「ハミルトン」やアナ・ケンドリック主演ドラマ「LOVE LIFE」などに出演してきたジンハにとっても世界的に飛躍する機会だったはずで、この件がちゃんと問題視されたことは特筆すべきだろう。

そして、これまで御曹司役がハマり役だったイ・ミンホは新境地を開拓した。2022年1月に発表された「韓国のイメージアップに貢献した人物」において第4位(1位はBTS)、俳優・韓流スターとしては最上位でランクインしたイ・ミンホは、Netflix配信された「ザ・キング:永遠の君主」も記憶に新しい。同作では“日本に植民地化されず、大韓帝国が継続していたら…”という、もしもの世界の君主を演じたが、今作ではブレイク作「花より男子」以来のオーディションに臨み、震災をきっかけにアウトサイダーへと転じていく役を手に入れた。

加えて、ソンジャの義理の姉役は「ザ・キング:永遠の君主」の女性総理を演じたチョン・ウンチェが好演。学生時代のハナをカリスマ性たっぷりに演じたチョン・イェビンは韓国での注目度が急上昇中だそうで、アジア系で女性ゆえ思うように活躍ができないソロモンの同僚ナオミ役のアンナ サワイも鮮烈な印象を放っている。

故郷で過去と対峙するソンジャ(ユン・ヨジョン)に戦時下の“体験”を話すボクヒ役で、「ザ・キング:永遠の君主」「イカゲーム」のキム・ヨンオクも出演。明言されてはいないが慰安婦について触れた重要なシーンだ。

同じ場所に暮らしながらも、お互いを「あちらの人」や「あの連中」と呼び合い、目に見えるボーダーと見えないボーダーに阻まれているのはソンジャたちだけではない。いまなお国家や人々の間にも、ジェンダー間や世代間にも、無自覚にそれは存在している。2つの国で多くの犠牲を払って生き抜いてきたソンジャたちから見えてくるのは、分断ではなく、受容と尊重(と反省)によって理解し合い、関わり合い、影響し合っていく世界への渇望ではないだろうか。

「Pachinko パチンコ」はApple TV+にて配信中。

《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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