「ndjc:若手作家育成プロジェクト」合評上映会が2月7日(火)、丸の内TOEIにて開催され、66名のなかから、ワークショップ、製作実地研修を経て短編映画を完成させた岡本昌也監督、成瀬都香監督、藤本楓監督、牧大我監督が登壇し、作品へのこだわりや見どころを語った。
若手映画作家育成プロジェクトは、文化庁の日本映画振興事業の一環として、2006年にスタートし、今年度で17年目を迎えた。過去には本プロジェクトから、吉野耕平監督や松永大司監督、ふくだももこ監督、中江和仁監督など、第一線級で活躍している監督たちが多数輩出されている。
『うつぶせのまま踊りたい』(岡本昌也監督)
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社会に適応しながらも自由を求める女性と、自らの過去にとらわれながらも、自由奔放に生きようとする女性が、それぞれの生き方を、詩を通して表現した『うつぶせのまま踊りたい』。
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岡本監督は「自分自身、子供っぽい衝動に駆られるときがあるのですが、そういう衝動って、大人になり社会性を持つと抑えてしまう。そんな子供っぽさをなくしたくないと思い、映画にしました」と述べると「映画というものの豊かさや底知れなさの片鱗を垣間見ることができた経験でした。まだ自分はまったくそこにたどりついていないのですが、映画の奥底に行ってみたいと思いました」と今後に思いを馳せていた。
『ラ・マヒ』(成瀬都香監督)
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人に嫌われることを恐れて無難に生きていた主人公が、小学生時代「自分らしい生き方」を追及している同級生が、プロレスラーになって輝いている姿に感化され一歩前に進む姿を描いた『ラ・マヒ』を手掛けた成瀬監督。プロレスという題材について「これまでひたむきに頑張っている人を描く作品が好きではなかったのですが、2年前にプロレスを見て細身の体の女の子が、あきらめずにチャレンジしている姿に感動して涙が出たんです。そこから頑張っている人を描きたいと思い、それならプロレスだろうと思いました」と語る。
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劇中では、登場人物たちが躍動感いっぱいに描かれているが、成瀬監督は「ラ・マヒ」というタイトルについて「『ラ・マヒストラル』というスペイン語で、“あっぱれな技”という意味。登場人物たちにあっぱれな人生を送ってもらいたいという意味でつけました」と込めた思いを語る。今後について「今回の現場でいろいろ分かったことがあったので、プロレス映画の長編を撮りたい」と意気込むと「プロレスに限らず、格好いい絵を撮れるようになっていきたいです」と抱負を述べていた。
『サボテンと海底』(藤本楓監督)
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映画やCMの撮影前に俳優やタレントに代わりにカメラ位置に立ち準備作業を請け負うスタンドインの日常を描いた『サボテンと海底』を手掛けた藤本監督。スタンドインという題材について「私は普段美術スタッフとして映像作品に関わっているのですが、あるCMの撮影現場でスタンドインという存在を知り興味を持っていました。現場で(今回主演を務めた)宮田佳典さんをお見掛けして、無許可で今回の台本のあてがきをしたんです」と経緯を説明する。
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劇中、つらい立場にいる主人公だったが、どこかコミカルで笑いが起こるような展開だった。藤本監督は「私は人よりたくさんジタバタしてきた人間だと思っています」と述べると「失敗もたくさんしてきましたが、時間が経てば笑い話になるような、そんなネガティブを笑いに変えられるような作品を作りたいです」と未来に思いを馳せていた。
『デブリーズ』(牧大我監督)
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うだつの上がらないCM監督、カメラマン、プロデューサーが、企業広告撮影のために訪れたスクラップ工場で遭遇した異星人との交流を描いた『デブリーズ』を撮った牧監督。SF映画という題材について「以前からSFウエスタンのマンガの企画を作っていたんです」と語ると、「前作が5000円とかで映画を作っていたので、これだけの規模で映画を作れるなら、SFをやりたいなと思ったんです」と説明。
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独創的な展開に凝った衣装が印象に残る作品だが、牧監督は「映画を撮り終わったあと、家にこもって好きな映画やドラマをずっと見ていたのですが、いまはクレイアニメと実写を織り交ぜて実験的な映画を作ってみたいです」と語っていた。
最後には各監督に対して西ヶ谷寿一スーパーバイザーから総評が述べられた。
・『うつぶせのまま踊りたい』
「演劇でも評価されている岡本監督。演劇には映像にしやすいものとそうでもないものがあると思うのですが、岡本監督の作品は難しい部類だと思います。そんななか、映像に定着させることができる力のある監督。冒頭の長回しから、新しい融合の表現が見えました」
・『ラ・マヒ』
「観終わった瞬間、続きが観たいと思いました。プロレスが好きな監督は何人か知っていますが、プロレスを習いに行っている監督は初めて。冒頭の小学校のシーンから、台本以上の立体感がありました。プロレスシーンも迫力がないとがっかりしますが、とても盛り上がっていた。これだけの映像を再現できた現場を経験できたことは、とても大きいことだと思います」
・『サボテンと海底』
「可愛い世界観に毒を突っ込むような作品。悲劇的な題材でしたが、映画が“陽”にふれていたのが驚きでした」
・『デブリーズ』
「脚本を読んで打ち合わせをしたとき、ちゃんと着地するのかなと思っていたのですが、変更を重ねて、こちらが観たかったものに応えてくれました。壮大なテーマをどうやって具現化するのかを表現してくれた映画になっています」