※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【ネタバレあり】『キル・ボクスン』で堪能するチョン・ドヨンの反転魅力と反逆

「イルタ・スキャンダル~恋は特訓コース~」で好演みせたばかりのチョン・ドヨンが、同じくNetflix配信中のアクション映画『キル・ボクスン』で大暴れ。

最新ニュース コラム
注目記事
Netflix映画『キル・ボクスン』独占配信中
Netflix映画『キル・ボクスン』独占配信中 全 12 枚
拡大写真

韓国ドラマ「イルタ・スキャンダル~恋は特訓コース~」では明るく前向き、猪突猛進な主人公を好演したばかりのチョン・ドヨンが、同じくNetflix配信中のアクション映画『キル・ボクスン』で大暴れしている。

3月31日の配信開始から3日で累計視聴時間1,961万時間を記録し、Netflixグローバルトップ10の非英語部門映画で1位を獲得。韓国をはじめ、香港、台湾、ベトナムなどで1位となり、カナダ、ドイツ、ブラジルなど計82か国でトップ10入り。4月7日現在、日本の「今日の映画トップ10」でも1位を走っている。

チョン・ドヨンが初めての本格アクションに挑んだこの『キル・ボクスン』は、新たなファンを増やした「イルタ・スキャンダル」はもちろん、映画『非常宣言』やドラマ「LOST人間失格」と、いまノリにノっている彼女の“反転魅力”=ギャップを堪能できる痛快作だ。


殺し屋であり、母親であることに悩むチョン・ドヨン


ハンドボールの元国家代表で、チョン・ギョンホ演じるイルタ(1番のスター)塾講師と恋に落ちる「イルタ・スキャンダル」の惣菜店社長ナム・ヘンソンは、近年ではかなり異色といえるほど、チョン・ドヨンには纏わりつくイメージがある。

Netflixシリーズ「イルタ・スキャンダル ~恋は特訓コースで~」独占配信中

とりわけカンヌの女王と呼ばれた『シークレット・サンシャイン』(07)以降は、上流階級の主人に搾取される『ハウスメイド』(10)や、犯罪者の恋人を演じた『無頼漢 渇いた罪』(15)、間もなく4月16日にその日を迎えるセウォル号沈没事故の被害者家族をソル・ギョングと演じた『君の誕生日』(19)など、“犠牲者”や“喪失者”、もしくは“薄幸”、“慟哭のヒロイン”といったものだ。

だが、今作『キル・ボクスン』はひと味違う。メガホンをとった『名もなき野良犬の輪舞』『キングメーカー 大統領を作った男』の俊英ピョン・ソンヒョン監督は、今作は「彼女とともに彼女から物語が始まった」と話している。「ドヨンさんには実生活でも娘さんがいて、その娘さんと彼女が実際に交わした会話からヒントを得ました」と言い、「彼女が女優であり母親であることと、主人公が殺し屋であり母親であることを、意図的に重ね合わせて描いた」そうだ。

主人公のキル(Kill)・ボクスンは暗殺請負組織MKエンターテイメントに所属する伝説的な凄腕の殺し屋だが、家に帰れば15歳の娘ジェヨン(キム・シア)との関係に悩むシングルマザー。殺しの任務なら相手の出方を先の先まで読み、弱点を探って仕留めることができるのに、愛娘が相手となるとなかなか上手くいかない。思春期になって部屋に籠もりがちになった娘の“手”がまるで読めずにいる。

殺し屋と母親、2つの顔を持って過ごしていたボクスンはある日、息子を不正入学させようとしたオ代議士のニュースを見ながら「世の中は不公平なもの」と話したら、「私が親なら子どもに公正な競い方を教える」とジェヨンに言い返されてしまう。さらに、レズビアンであるジェヨンは、相思相愛だがクローゼットの彼女ソラとの盗撮写真をネタに同級生男子から交際を迫られたことで葛藤が爆発、その男子をハサミで大ケガさせてしまう。

自分が好んでしている仕事が、娘に何らかの悪影響を与えているかもしれない…。心配になったボクスンは引退を決意。最後の仕事のつもりで、“デビュー”前の新人ヨンジ(イ・ヨン)を連れてA級の任務に臨んだところ、それはオ代議士が保身のために仕組んだ息子の殺害だと知り、簡単には幕引きできない事態に巻き込まれていく。

そんなボクスンの身の上話にも「できた子やな(日本語)」「でしょ? 子どもに学ぶこともある」と、くだけた調子で乗ってくれる殺しのターゲットとなるヤクザを演じているのは、ファン・ジョンミン! 新人のころからの知り合いで、『ユア・マイ・サンシャイン』(07)以来の共演となったファン・ジョンミンとの冒頭のバトルは最高の掴みとなっている。

さらにソル・ギョング扮するMKエンターテイメントのチャ・ミンギュ代表の若かりし日を、「還魂」で大人気となったイ・ジェウクが演じていることも見逃せない。「イルタ・スキャンダル」でナム・ヘンソンの学生時代を演じ、「未成年裁判」では少年役を演じて注目されたイ・ヨンの活躍ぶりはもっと見ていたかったほど。もちろんジェヨン役を演じたキム・シアも、これからが楽しみな逸材だ。


母と娘が抱えるジレンマがリンク


これまでの映画の中で散々、子どもを奪われたり、愛する人に裏切られたり、DVを受ける女性を演じてきたチョン・ドヨン。それに抗い、やり返そうとしても、もがいた拳が空回りしているような、そんな女性たちが多かったように思う。

今作でもチョン・ドヨン演じるボクスンは奪われ続けていた。子どものころは警察官である父親からDVを受け、雇い主であり殺し屋業界を独占するMKエンターテイメントのトップ、チャ代表(ソル・ギョング)には普通の母親として生きる人生を奪われた。その妹チャ・ミニ(イ・ソム)の策略によって、結果的に飲み仲間の殺し屋たちや後輩で恋人のヒソン(ク・ギョファン)までも失った。「今作では伝説級の強さだから殴られることはないかも」と油断していたが、チャ代表はダース・ベイダー並のチョークをボクスンにも繰り出す容赦のなさだ。

だが、そんなチャ代表を相手にしても、最後にはきっちり弱みを突いてやり返していた。父親からなり代わった暴力の呪縛を、自らの手で解き放ったのだ。

それには、ボクスンと娘ジェヨンの抱えるジレンマがリンクしたことが大きかった。「レズビアンであることは何も悪くないのになぜ隠すのか」というジェヨンへの問いかけは、暗殺を請け負う自らの罪悪感をも照らした。そして、「自分に正直でいたかった」とこぼしたジェヨンに背中を押されるように、ボクスンも自分自身に正直でいられる道に気づかされることになる。

生き甲斐ともいえる、楽しくてやめられない“仕事”はこれからも続けていくだろう。再びオ代議士のような輩が現れた際には、必ずや成敗してくれるはずだ。

『キル・ボクスン』はチョン・ドヨンが反逆に成功する映画だ。身体を張ってロングショットのアクションシーンに自ら挑んでいくチョン・ドヨンの姿そのものに奮い立たされ、ピョン・ソンヒョン監督もリスペクトを持って彼女をどこまでもカッコよく捉えようとする。ちなみに、訓練生の月末評価にデビュー、再契約せずに引退などなど、まるで世界を席巻するK-POP業界のように暗殺稼業を描いていることにも意図を感じる。

バラエティ番組に出て“番宣”することがほぼないチョン・ドヨンが、大学の同期である人気タレント、ユ・ジェソクの番組「ユ・クイズ ON THE BLOCK」に出演した際に語った言葉の数々は印象的だった。

スクリーンデビュー作『接続 ザ・コンタクト』(97)のヒットに続き、パク・シニョンと共演した『約束』が1998年の興行1位となる大ヒットとなったチョン・ドヨンには当時、“映画国の興行姫”と呼び名がついたという。そのころは『接続』や日本でも話題を呼んだ『シュリ』をはじめ、ハン・ソッキュが出演する映画とそうでない映画に二分化されていたと話しながら、そんな中で、27歳で17歳の少女ホンヨンを演じた『我が心のオルガン』(99)とは対照的な『ハッピーエンド』(99)にて不倫に溺れる母親になったばかりのキャリアウーマン、チェ・ボラを熱演した。

インティマシー・コーディネーターなどいない時代に濃厚なラブシーンのある『ハッピーエンド』は「初めて挑戦をした作品」であり、泣いて反対した母親を説得もしたが、数多くあった広告契約がすべて打ち切られたそうだ。映画の結末も決してハッピーエンドではないが、周囲が求める「女優は消極的で、受け身であるべき」という偏見を打ち破るような、「女優が主体的に演じることができた」作品だったという。

「俳優としてやるべきことをしただけ、むしろ(人々の好奇を含んだ視線に対して)堂々とすることができた」と、転機になった作品をふり返る姿にチョン・ドヨンの原動力を見た気がした。大胆なシーンがあったとしても男優だったら決して非難などされない、偏見が持たれることもない。それに加えて韓国という国(もちろん日本も)では年齢を意識させる機会が多く、年齢に見合った言動や役選びを求められがちだ。

50代になった、あのチョン・ドヨンがアクション!? それが何だというのだ。ミシェル・ヨーだって今年アカデミー賞を手にしている。個人的には、女性同士の連帯が見られた『血も涙もなく』(02)のイ・ヘヨンと再共演して暴れてもらいたい願望があるが、チョン・ドヨンはこれからも、挑戦と進化を続けるに違いないのだから。

Netflix映画『キル・ボクスン』は配信中。


Fire HD 10 タブレット 10.1インチHDディスプレイ 32GB ブラック
¥19,980
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
君の誕生日(字幕版)
¥300
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

+ 続きを読む

特集

関連記事

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]