藤井監督流“粘りの演出”は「可能性が広がる」
――変わらないものとしては、藤井さんの“粘りの演出”があるのではないでしょうか。横浜さんは以前「もう1回」を待っているところもある、と話されていましたね。
横浜:そうですね。何度もチャレンジできるのはもちろん大変さはありつつ、色々なことを試せるので可能性も広がりますし、ありがたいです。
もちろん演じるときは1回目から常に全力で挑みます。もしかしたら1発OKがあるかもしれませんしね。絶対ないですが(笑)。
藤井:(笑)。
横浜:逆に一発OKが出たときは「本当に大丈夫!? 藤井さんどうしたの!?」とびっくりしちゃうかもしれません(笑)。だから「もう1回」と聞くと安心するところもあります。
――ちなみに今回、最もテイクを重ねたのはラストシーンでしょうか。
横浜:ラストシーンもそうですが、一番多かったのは村長(古田新太)に「人生変えるなら今だ」と言われるシーンだったかと思います。
藤井:あそこは一番回数を重ねましたね。優にとって嬉しいのか、怯えなのか…。優にとって“蜘蛛の糸”をようやくつかんだ瞬間ですが、同時に彼は自分の罪や家のこと、様々なことが頭をよぎってしまって「やった!」とは言えない。その複雑さを流星の表情に課した部分が多かったので、一番大変でした。
ラストシーンは僕からするとすごく良い芝居を見せてくれてとにかくうれしくて「素晴らしい役者になったな」と一発OKにしたつもりだったのですが…。他のスタッフから「監督はすぐ『もう1回』って言ってましたよ」と言われて(笑)。一発OKにしてなかったみたいです(笑)。
横浜:そうそう(笑)。

――藤井さんは以前「2回目からは確実に演出が乗る」というお話をされていましたよね。
藤井:そうなんです。まずは俳優部が準備してきたものを自由にやっていただいて、2回目から僕の演出を乗せていく。そうするとやっぱり調整に何回か時間はかかるんです。ロボットじゃないから感情が伴うのにも時間がかかるだろうし、3回目・4回目と徐々に馴染んできて5回目で1番いいものが撮れることもあります。感情演技においても、俳優部の「泣かないといけない」という義務的な感情が正しいとは思えないんです。台本に「泣く」と書いてあったらやっぱりそうしようという意識が働いてしまいますから。
先ほどのシーンで、古田さんは流星に「君すごいね!」と話していました。「毎回同じところで泣けるなんて」と。それを見ながら、確かにすごいな流星…と感じました(笑)。
横浜:(笑)。
――逆に藤井さんが1発OKされることはあるのでしょうか?
藤井:いや、ほとんどないですね。物撮りのケータイの手元くらいじゃないですか?(笑) いつも「はいOK、早く次のシーン撮ろう」ってなってます(笑)。
【横浜流星】ヘアメイク:永瀬多壱 (VANITES)/スタイリスト:伊藤省吾 (sitor)