A24が新たに見出した新鋭監督エレガンス・ブラットンの半生を描いた実話『インスペクション ここで生きる』。この度、主人公フレンチ(ジェレミー・ポープ)の母親役に監督が熱望したというガブリエル・ユニオンが、覚悟を決めて挑んだという本作出演までのエピソードが明らかになった。
>>『インスペクション ここで生きる』あらすじ&キャストはこちらから
ゲイであることで母親に見捨てられホームレス生活をしていた主人公が、生きるために海兵隊への入隊を志願する――。エレガンス・ブラットン監督の実体験に基づいた自叙伝ともいえる本作には、確執があった母親との関係性もそのまま映し出されている。

16歳でひとり息子を産み育てた彼女は敬虔なクリスチャンであり、息子がゲイであるという事実を受け入れることは容易ではなく、劇中でもかたくなに主人公フレンチを突き放す。
そんな母親を演じたのは、『チアーズ!』や『ブレイキング・イン』、『バッドボーイズ2バッド』『パブリック 図書館の奇跡』などで知られるガブリエル・ユニオン。

実は彼女は、監督の母親が最も好きな女優だったという。監督は「母は、美しく、騒々しく、喧嘩早い、問題を抱えた女性でした」と話し、さらに「彼女と同じようなエネルギーを持った女優を起用したい、黒人でありアメリカ人が尊敬する映画スターにやってほしいと思っていました。そして実は、彼女が母親を演じることを知ったら、もしかしたら彼女から連絡がもらえるかもしれないというわずかな望みもありました」と、その切ない胸の内を明かした。
だが、そんな監督からの熱烈オファーもガブリエルは、役柄と自身のセクシュアリティに対する価値観がかけ離れていたことから、当初は出演を断ったという。実生活の彼女はトランスジェンダーの娘がおり、クイア・コミュニティのよき理解者なのだ。
だが何度か監督と顔を合わせた話し合ったのち、その熱意に心を動かされ、ようやく本作への出演を決意。その難しい役どころに真摯に向き合った結果、彼女の出演がこの映画にもたらした恩恵はとても大きい。監督は、「確固たるキャリアを持つ人が我々のプロジェクトに名前を刻んでくれて、パワーと才能を発揮してくれようとしていたことが信じられませんでした」と当時を振り返る。

しかし、「関係はどうであれ、私は母親を愛していた」。そう監督が語っていた最愛の母親は、残念ながら本作の製作中に亡くなってしまい、完成した映像を観ることは叶わなかった。
母親の遺品からは、監督の過去の作品の情報が掲載された新聞記事のスクラップが見つかったという。そんな悲しみを背負いながら、監督はガブリエルに亡き母親の聖書やアクセサリーなどを贈り、「ギャビー(「ガブリエル」の通称)が私を通じて母の精神に近づけるように出来る限りのことをやりました。そして彼女はキャリアの中でも最高の演技で魅せてくれました。母は映画を観ることは出来ませんでしたが、私は永遠にギャビーに感謝し続けます」と彼女を称えた。

分かりたいけど受け入れられない、愛しているけど理解することはできない。そのジレンマは、愛情深く育てた我が子であるならばなおさら。覚悟を決めて挑んだガブリエル演じる母親の姿は必見となりそうだ。
『インスペクション ここで生きる』は8月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国にて公開。