原作へのリスペクトを感じる映像づくり
――今回の現場で印象に残っていることはありますか?
監督はすごく朝早く現場に入られるんですけれど、監督が一人で面会室に入って、一人でセリフを言って、アクリル板を叩いたりして、その日にやるシーンを確認しているんです。それを見てとても信頼できる方だと改めて思いました。
監督がすごく考えてやっているというのを肌で感じたので、その思いに応えたいという思いがずっとありました。でも、とにかく演出のレベルがすごく高いんですよ。片眉だけ上げてと言われたりして、『ええ』と思って。一応頑張ってやってみたんですけれども、できなくて。
撮影後、監督のところに行って『大丈夫でしたか』って言ったら、『うん、努力は認める』と言われて『すみません』という感じだったんですけれど(笑)。すごく鍛えられました。柳楽さんは上手いんですよね、片眉だけ上げるとか。さすがだなあと思って。

――黒島さんも、柳楽さんも表情が、とても豊かで、良い意味ですごく漫画っぽかったですね。原作キャラクターのイメージそのものという感じでした。
監督が柳楽さんのことを“顔面芸術”って言っていました。私も堤さんの演出に応えられるよう、必死に取り組みました。
――本作ではワンシーンがとても長い場面も多く、お2人のやりとりは本作の見どころですね。
一日の撮影が2シーンだけということもありましたね。特に拘置所の面会室とか裁判のシーンとか。堤監督は今回、長いシーンを一連で撮っていらして、裁判のシーンなどは特に、最初から最後までやってみようという感じでした。やはりワンシーンを一連で撮れたのは、わかりやすく現場が進んでいくので有り難かったですね。
――裁判のシーンのあの臨場感というのは、皆さんの緊張感が反映されていたんですね。
そうですね。それと寄りのシーンがすごく多かったんです。こんなに寄るんだ、こんなにカメラ近かったこと今まであったかなというぐらい(笑)。どこを見たらいいんだろうと。
あと、臭いを嗅ぐシーンが多かったのですが、あらためて考えてしまうと意外と難しくて。監督が息遣いを大切にされていたので、別で音だけ録音することもありました。この作品ならではだと思います。

――原作への敬意も感じつつ、映像でなければできない表現を見事に使った作品だと感じました。黒島さんから見て、ここは映像作品『夏目アラタの結婚』ならではの面白さだとどんなところで感じましたか。
カット割りもそうだし、音楽もそうですね。音楽は昔のものも使われていたし、物語の疾走感や、その時のムードを後押しする、とても素敵な演出で、これも映像ならでは。漫画で、真珠が面会室のガラスを割る、壁と天井がぎゅっと迫ってくるなど、キャラクターの心理状態を表わすシーンがありましたが、それがちゃんと映像で表現されたところも凄いと思いました。原作へのリスペクトをすごく感じる映像づくりだと感じます。