京都造形大学(現・京都芸術大学)の卒業制作『オーファンズ・ブルース』(2018)が第40回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを獲得し、2021年には『裸足で鳴らしてみせろ』で商業デビューを飾った工藤梨穂監督。豊かな感性に裏打ちされた抒情的な物語と人物描写、確固たる映像言語/スタイルを有する彼女の最新作『オーガスト・マイ・ヘヴン』が、2月1日から劇場公開中。
本作は元々、2024年にスタートしたメディア配信プラットフォーム「Roadstead」のオリジナル作品。黒沢清監督の『Chime』と共に第74回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に正式招待され、Roadsteadでの先行配信を経ての劇場公開となる。
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依頼人の家族や知人を演じる「代理出席屋」の女性が、行きつけの中華料理屋の店員の頼みで旧友に扮し、失踪したはずの男性と共に旅に出る。約40分の中にアイデアと奇妙な出会いによって紡がれるひと夏の時間が詰まったロードムービーだ。
映画について学び続けた地・京都に舞い戻り、新作を創り上げた工藤監督。Roadsteadとの協働や自身のクリエイティブについて、語っていただいた。
Roadsteadとの新たな企画と取り組み
――Roadsteadサイドからは、同世代のスタッフとともに制作をされてはどうか、と助言があったと伺いました。ロケ地にもその要素がありますが、改めて、Roadsteadの皆さんとの協働はいかがでしたか?
そうですね。私自身、学生時代に経験した映画づくりの充実は心に残っていたので、またいつかかつての仲間と再集合して作品を作ることができたらという思いは持っていました。それがこんなにも早く叶うとは思っていませんでしたが、そうしたアドバイスもいただいたので、今回はそのチャンスかもしれないと思い、学生の頃から交流のあったメンバーやこの企画を機に出会えた同世代の方々にも参加していただいて、非常に自由度の高い中で取り組ませてもらいました。
また、キャスティングについても縛りのようなものがなく、作り手の思いを第一に希望を汲んでくれるというのはこの企画の大きな特徴だと思います。なので、主要の人物については当て書きに近い状態で脚本を進めたりもできてイメージが湧きやすかったですね。
あと何より、オリジナル作品の可能性を信じてもらえたことが私は単純に嬉しかったです。
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――『Chime』の黒沢清監督は「中編だと謎のまま投げっぱなしにしていても観客に怒られない」と語っていらっしゃいましたが、工藤監督は今回、約40分の中編を手掛けられてどのように感じられましたか? 工夫した点やメリットなど、教えていただけますと幸いです。
正直に打ち明けるととても難しかったです。ドラマとしての着地点は見つけたいと思っていたので、この尺の中でどの要素を削り、何を残していくか、また彼らのどんな時間を画面に捉えるべきかということにはかなり悩みました。旅を描いた短編や中編映画はどのように物語っていたっけ? と他作品のシーンの組み立てを振り返ったりもして。
そうして模索しながらも、今回工夫した点で言うとタイムカプセルの中から出てくるガラクタなどそういった小道具に象徴的な意味合いを持たせ、短い物語だけど映画としての奥行きを出せたらいいなと思っていました。
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あとは、「何か映画を観たいけど今2時間観るのは体力や時間的にどうしても難しい」という時が誰しもあると思うんですが、そういう方にとって映画へのハードルが低いというか、手が伸びやすいのは尺の短さとしてメリットの一つだと思います。どうしても映画を観るというのは体力も使うので、日常の中で疲弊している人も楽しめるかもしれないというような、誰も取りこぼさないことが中編映画の可能性かなとも思います。