「孤狼の血」柚月裕子の原作小説を映画化した『盤上の向日葵』の公開御礼舞台挨拶に、主人公の天才棋士・上条桂介役の坂口健太郎、上条桂介の子ども時代を演じた実写映画初出演となる小野桜介、原作者も絶賛する脚本も書き上げた熊澤尚人監督が登壇した。
日本公開を迎えると「演者の熱演に慟哭」「ミステリーの表情と骨太人間ドラマ、どちらもあって物語にぐいぐい引き込まれる」「将棋を全く知らずとも楽しめた」「人生最後に見たい作品だと思った」など早くも絶賛の声が続出。
公開から1週間たついまも、SNSでは「切なすぎて涙がこらえられませんでした」「心震えました」など熱い感想が溢れ、中には複数回劇場へ足を運ぶリピーターもおり、観る度に新たな魅力を発見できる見どころも多い本作。
「坂口さんにちょっと似てますよね」少年期の桂介役小野桜介を監督絶賛
坂口は「1番最初に来た感想は、作品全体のことだったのですが、時間が経って2、3回観た方からは登場人物の生き様に寄り添ったコメントが増えてきました。桂介の感情でみてくれた方も父親の感情が分かるという声や、回数を重ねるにあたって没入感が深くなっているなと思いました」と多くの観客が深く作品を愛してくれることに喜びの想いを語る。

そして坂口演じる主人公の少年期を演じた小野はなんとこの日が人生初の舞台挨拶。
坂口とは昨年7月に本作のクランクアップのタイミングで初対面だったそうで、坂口は小野の演技を観て「初号ではじめてみて、きついパートを背負ってくれていたんだなと思いました。もちろん愛に溢れるシーンもあるんですけど、彼がそこを担ってくれていたので…とても大変だったでしょ。暑かったでしょ?」と小野に語りかけるも、小野は「初めての実写映画だったので楽しかったです」と頼もしい返答で会場を驚かせた。
現在中学1年生で12歳となる小野は、これまでに舞台やTVドラマの経験はあったものの実写映画は本作がデビュー作となり、酒とギャンブルに溺れる桂介の父・上条庸一役の音尾琢真や、桂介の才能を見抜き将棋を教え、親のように暖かく迎え入れた唐沢光一朗役の小日向文世、唐沢美子役の木村多江まで、名だたる俳優陣と共演している。

SNSでも「幼い桂介の人生が切ない」「小野くんの演技が素晴らしかった」と涙を誘う素晴らしい演技で観客を魅了。
オーディションを経て小野を桂介役に抜擢した熊澤監督は「泣く演技がよかったし、物語的にすごく苦しい境遇に合った子を選ばないといけなかったんです。そしてこれは結構よく言われるんですけど、やっぱり坂口さんにちょっと似てますよね」と話すと、小野は謙遜しながらも、監督は続けて「たくさんの方に会いましたけど、桜介くんが一番良かったですね」とべた褒め。
小野は撮影の中で印象的な場面を聞かれると「泣くシーンがあるんですけど、26回くらい撮りなおしたという…」と話す。「音尾さん(庸一役)と小日向さん(唐沢役)が揉み合って、少年の桂介が本当は将棋やりたいけど、お父さんの悲しげな顔をみて涙をためるというシーンが凄く大切だったんです。本当に暑い日にとったんですよ、小日向さんもタートルネックを着て…大変でしたよね」と、監督は過酷な現場を振り返る。
すると坂口も「観ている方にもグッとくるシーンでした」と小野の演技力に絶賛の声を贈る。
坂口は「(父の)庸一さんとのシーンでアクションがあって、暑いしフラフラするし本当に大変だったんです。カットがかかって“監督どうでした?”と聞きに行こうと思ったら、監督が他の誰よりも汗をかいて、まさに命がけで振り絞って撮っている背中を見た時に、僕は『よっしゃ。もう1本やろう』と思って、現場にまた戻っていったことは覚えていますね」と、キャストだけではなく監督もまた猛暑の中ただならぬ熱量で撮影に挑んでいたと明かす。
「テイク数が多かったんですけど、坂口くんはいくらでもどうぞというくらいの感じで挑んでくれて。作品を見てもらうとわかると思います。坂口くんの熱演というか、全てが体から出るようなシーンを演じてくれたので大変感謝してます」と、監督は坂口へ心に募る熱い想いを伝えた。

坂口健太郎「少しずつ小さな桂介が心を開いていく様がわかる」
上条桂介が歩んできた壮絶なドラマに観客が心を掴まれる観客も多く、坂口は「将棋を指すときの手の流麗さは意識をしたのですが、それよりも対峙している相手の呼吸を聞くというか…東明(渡辺謙)が将棋を指している姿を引きで見ることが多かったので、その空間にしっかり桂介として存在することは意識していたかもしれないですね」とただ静かに見守る難しい演技へのこだわりを話す。
そして小野は桂介を演じるにあたり1日中将棋を指す練習をしていたそうで、将棋指導を担当したプロ棋士から“良かった”と褒められたことが嬉しかったと笑顔で振り返った。
坂口と小野、お互いが演じる桂介の好きなシーンを聞かれると、坂口は庸一と唐沢のシーンだそうで「あのシーンは苦しいものがあったけれど、この先の物語に響くシーンだなと感じました。唐沢さんが色々な言葉をかける中に、悔しい気持ちやまだ信用しきれてない自分もどこかにいただろうし、少しずつ小さな桂介が心を開いていく様がわかるというのは、大事なことだなと思いました」と回答。
「彼が今どんなことを考えて、どんな風に唐沢さん夫婦に心を開いていっているのか見えた瞬間、すごく感動しました」と、言葉数は少ないながらも表情で感情を魅せる小野のシーンに心を奪われた様子。

一方で小野は「こんな素敵な話いただいた後に申し訳ないんですけど…お父さん(庸一)をボッコボコにするシーンです。幼少期の桂介を演じていたのもあるんですけどボコボコにされた後、ちょっと“よしっ”て思っちゃいました」と子供らしい正直な回答でユーモアを発揮すると、会場の観客と坂口、熊澤は笑いに包まれた。
そんな小野が俳優を目指したきっかけは幼稚園のときに「ウルトラマン」の映画、そして“松竹”のロゴを本イベントを実施した丸の内ピカデリーで観たことがきっかけだそうで、本作の初日舞台挨拶で作品をみた小野は「“松竹”って(ロゴが)出て、凄く感動してちょっと泣いちゃいました」とまさに夢が叶った、胸が熱くなるエピソードを語ると会場から拍手が贈られた。
さらに小野は以前、坂口が3作品掛け持ちをしていたという話を聞いたそうで、役を演じ分けるコツを聞くという質問を投げかけると、坂口は「現場に入ると切り替わるタイプなんです。自分で“この役を全うしよう”と入れ込みすぎてしまうと抜けないんですけど、自分が34年間生きてきたものを考えて台本読むことが多いので、役に入るときに僕のエッセンスがあるんですよ。そうすると意外と切り替えができていることが多い気がします」と先輩としてアドバイスすると、小野は目をキラキラ輝かせて熱心に話を受け止めた。

最後に熊澤監督は「SNSで評判が良いのでみなさんも感想を書いて頂けると嬉しいです。観終わったあとに“あのシーンの桂介はどうだったんだろう”と話すのが楽しいと聞いたことがあって、“なぜ桂介は農園を離れたか?”ということなどを想像すると楽しかったりすると思うので、映画を自分のものにして育てて頂けると嬉しいです」とコメント。
坂口は「僕らが映画を作って、そこから映画を育てていって下さるのは、やっぱり本当に観客の皆様のお力だと思います。この作品は、超スペクタクルとかダイナミックな作品ではないです。ただ、役の中で生きている登場人物がどこか心に残ってくれるような、そんな作品だと思うので、時間が経って桂介の気持ちはどうだったんだろう、庸一さんや東明さんの話をして、この作品を熱く、分厚くしていただけたら嬉しいなと思います」と熱い言葉が贈った。
そして、坂口からのフォローで初めての舞台挨拶登壇となった小野が「また舞台挨拶できるように頑張ります!」と元気いっぱいに答え、盛大な拍手と共に公開御礼舞台挨拶は幕を閉じた。
『盤上の向日葵』は全国にて公開中。


