『藁の楯』大沢たかおインタビュー【前編】 引きの演技で魅せた“心”
まっすぐな人だ。相手の言葉に耳を傾け、まどろっこしい表現なしで率直に語る。大沢たかおには、積み重ねたキャリアやスターとしての地位に安住せず、前進し続ける彼ならではの瑞々しさがある。
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最新主演作は、三池崇史監督の『藁の楯 わらのたて』。逃亡中の幼女誘拐殺人犯・清丸に、被害者の祖父で財界の大物・蜷川が10億円の懸賞金をかけ、日本国民に「この男を殺してください」と呼びかける。大沢さんが演じるのは、福岡で出頭した清丸を東京の警視庁に移送するチームを率いるSPの銘苅だ。
以前に木内一裕の原作を読んでいた大沢さんは「映画化するにしても、ハリウッドが原作権を取って、ニューヨークからどこかへ移送みたいなのが一番スムーズかな、という認識でした」と語る。故に、銘苅役のオファーが来たとき、まず頭に浮かんだのは「難しい作品が来たな」という感覚。「日本でやるとなると、できることの限界もあるし。日本の人たちがいまエンターテイメントに求めてるものと、この突出したプロジェクトの世界がどうぶつかり合うのか。その難しさは最初にすごく感じました」。
もう一つ感じたのは、銘苅という主人公のあり方だ。原作を読んだ時点で、数年後に自分が演じることになるとは「思わない、思わない(笑)!」と当時をふり返り、銘苅について「基本的に引いている存在」と物語における立ち位置を語る。「主人公なら前にガンガン行くところを、いつも引かなきゃいけない。これをやる役者さんは結構大変だろうなあ、と漠然と思ってました」。
今回、まさにその当事者となった。
「主人公なのに全く表現しないで、一歩下がっているのは演じる上ではすごいストレスです。無意識につい前へ出てリードしたくなる。他人に合わせて動いてるだけなのは変な感じがするんですよ。過去に自分で作っちゃってる演技の回路というか、クセが影響してるのかもしれない。だから、現場ではすごい葛藤する。“オレ、ずっとここで黙ってんだよな…大丈夫かな”って(笑)。そこを一か八か、監督と一緒に構築していきました」。
細かい演技指導をしない三池監督が今回唯一望んだのは、リアルなSP像。身のこなしなど、撮影現場でもSP経験者が常駐し、監修にあたったという。こう動く、だけではなく、メンタルな部分についてもアドバイスを受けた。
「身のこなしって、メンタルから来てるし、トレーニングの内面から出て来ることです。その形になるには理由があるし、心があるから、その形になっていることを理解しないと。形だけでは限界があります」。
SPが登場する作品は邦画・洋画を問わず数多くあるが、本作の銘苅や、松嶋菜々子が演じる部下の白岩はこれまでにないSP像を見せる。感情的といっても言いような、彼らの心の中が見えるような瞬間が垣間見える印象がある。任務を全うしながらも、ロボットのように無表情ではない。
「現実的にいないですからね、そんなSP。ピストルも、まず片手では構えちゃいけない。そう訓練を受けてるし、そんな簡単に人に銃を向けたことないから、日本の警察は。ハリウッドじゃないんで、そういうことはできないんです。絶対に躊躇する。拳銃をホルダーから出した時点で、それはもう抜いたことになって、その人は始末書を書かなきゃいけない。責任が出てくるから恐くて、抜くのもできれば避けたいし、仮に抜くにしたって、そのまま振り回したりしない。ドラマじゃないから。実際の日本にいるSPだったら? とお話を聞いたら、『できないです、そんなこと』って。『震えちゃって、肩上がっちゃうし。そんなカッコよくなんか…それは嘘ですから』って」。
納得がいった。銘苅たちの感情が見える気がしたのは、まさに“心があるから、その形になる”状態が作り出されていたということだろう。監督の望んだ、日本のSPの実像に限りなく近い姿なのだ。日本のSPは実際まだ一人も拳銃を抜いたことがないという。「それでも守らなきゃいけない。そういう非日常性というか、等身大な人たちが等身大じゃないものに巻き込まれるのが、たぶん三池さんのやりたかった世界なのかなと思います」。
『藁の楯』大沢たかおインタビュー【後編】 「守りに入ったら終わり…壊し続ける」
http://www.cinemacafe.net/article/2013/04/26/16754.html
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