【シネマモード】巨匠ペドロ・アルモドバルが描く毒舌満載の転落劇『人生スイッチ』
スイッチをぽちっと押したことがありますか? 電気のスイッチではなくて、人生のスイッチのことです。あんなことさえしなければ…
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仕事先の指定により乗った飛行機で、偶然、隣の乗客と共通の知人を見つけたモデルが、“彼”の名前を発すると、周囲が、「俺も」「私も」と、“彼”を知っている人が続出。ついに、乗客全員が“彼”を知っていたことから、とある陰謀が発覚します。が、気付いたときには時すでに遅し…。そんな風に、ひょんなことで人生の溝に落っこちてしまう人々の、ブラックな笑い満載のオムニバスドラマが展開していくのです。
人はこんな風にして一線を越えるものなのかと考えさせる本作、展開の速さと、奇想天外さ、それなのに明日は我が身だと思えるほどのリアルさがバランスの良く同居しています。登場人物たちは、ごく普通の人々で特におしゃれという訳ではありません。でも、ばっさりと身もふたもないほどに毒舌満載の転落劇は、小気味良い語り口のせいか洗練とスタイルを感じさせます。それは、刺激的でエッジの効いた前衛ファッションのよう。誰でも着られるわけではないけれど、ほかにはない個性的なアイテムを探す人々に支持されるようなファッション。
そしてそれを好む人は確実にいるのです。分かる人は分かってくれると、開き直れる自由奔放さはうらやましいほど。誰もが持てるわけではない大胆さと揺るぎないヴィジョン、アイディアを実現させる自信が、ひとつのスタイルを完成させるのでしょう。話の面白さ、ストーリーテリングの見事さはもちろん、このおしゃれ感がアルゼンチン史上最大のヒットを記録し、カンヌでもアカデミー賞でも高い評価を得た理由のひとつなのかもしれません。
プロデューサーは、スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルとその弟アグスティン。二人は、自ら製作を買って出たほどの気に入りようだったとか。本作のダミアン・ジフロン監督は、ペドロとアグスティンを“この作品のゴッドファーザー”と呼びます。きれいごとではなく、誤解を恐れず、人生の本質、人間の本性を赤裸々に、でもチャーミングに描いてきたペドロとその弟だけに、真実を突いた辛口のブラックコメディに惹かれたのも当然でしょう。
さらには、作品内のファッションやインテリアが常に評判を集めるおしゃれ大好きなペドロは、この笑えるスタイリッシュさにも大いに魅了されたのではないかと思うのです。本作がカンヌ国際映画祭に出品されることが決まると、大使のように振る舞い、PRに精を出し、多くの取材も受けたのだとか。日本ではまだあまり知られていないアルゼンチン人監督ジフロンの『人生スイッチ』、アルモドバル兄弟の感性を信じるあなたは必見です。
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