「出演が決まったとき、まずはオリジナルのアニメを何度も観直したんだ」とふり返るルーク自身も、見た目に関してはガストンを「問題ないよね(笑)」と評価。「服装のセンスがいいし、髪の手入れを欠かさない。歯もきれいだ。とりあえず、自分の面倒はきちんと見ることができているようだね」と笑う。
「でも、内面には問題がある。少し馬鹿げていて自己陶酔的なガストンは、崇拝してくれる人に囲まれているんだ。けれどもあるとき、彼は欲しいものが手に入らないことに気づいてしまう。それがベルであり、彼女はガストンの完璧だった見せかけの世界にひびを入れる存在。それまでの彼はある意味自由で、常に自信を持ち、正直に人生を歩んでいたのにね。そんなガストンだけど、僕は観客に彼をすぐさま嫌わせようとは思わなかった。この愛すべき下品な男を見て、『ああ、彼も悪くないね』と思える機会を与えたかったんだ」。

「愛すべき下品な男」であるばかりか、とてつもない美声の持ち主なのもガストンを嫌いになれないポイントかもしれない。「彼は歌うことが大好き。僕も歌うことが大好き。心の共通点はそれに尽きるだろうね」と語るルークはハリウッドで活躍する以前、ロンドンのウエストエンドで数々のミュージカルに出演していた。
「子どもの頃から歌うことが大好きだったんだ。上手に歌うこともできていたしね。複式で歌う訓練のおかげで、話す声すら大きくなった(笑)。今回の撮影はまるで舞台のようにリハーサルを重ね、スタジオで歌を録音するだけでなく、セットの中でもライブで歌った。舞台出身の僕にとっては、それがとても自然なことだったんだ。本当に歌えば感情がのってくるし、失われるものがない気がするから」。
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『美女と野獣』はすでに世界中で大ヒット。ルーク・エヴァンスのフィルモグラフィーに、また1つ大きな作品が加わった。ただし、「どの出演作も、いまの僕に何らかの影響をもたらしてくれている」という考えは変わらない。
「確かに、周りの状況を変えた作品はある。なかでも『ホビット 竜に奪われた王国』のときは大きな変化を感じたかな。『ワイルド・スピード EURO MISSION』『ドラキュラZERO』を加えた3本が立て続けに公開されたことで、大きな印象を残せたのだと思う。道を歩いていて人に気づかれ始めたのもその頃だしね。僕としては、それぞれの作品を観た人に何らかの印象を持ってもらえたらいいなと思う。作品ごとに違う印象をね。俳優の仕事には自然な流れというものがあり、僕のキャリアも常に進化している。その中で僕にできるのは、自分を含めたみんながワクワクできる役を演じ続けることなんだ」。

そんなルークの息抜きは、「オーディオブックを聴きながら散歩すること」。このインタビューを行った日の2日前も、「ケイレブ・カーの『エイリアニスト─精神科医』を聴きながらセントラルパークを散歩していた」そうだ。
「僕はひどい読書家で、本を読むのは好きなくせに読み始めるとすぐ寝てしまう(笑)。でも、よく晴れた日にオーディオブックを聴きながら散歩すると集中できるし、とてもいい息抜きになるんだ。僕の家族はみんな歩くのが好きでどこにでも歩いて出かけるから、僕の散歩好きもそこから来ているのだろうね。新しい場所に来たときは、1人で歩きながら見て回るようにしている。本当は1人でいることが得意なタイプじゃないし、いつも誰かと一緒にいたいのだけど、この仕事をしていると自宅を離れて1人にならざるを得ないこともある。だから、1人で過ごすことが多少は上達したんだ」。
「以前は絶対にしなかったけど、最近は1人でレストランに行くのも平気。お寿司を食べに行くんだ」とも。その姿(と、それをやや自慢げに? 語る姿)に何やら微笑ましさを覚えずにいられなくなるのだから、真に「愛すべき」はガストンよりルークかもしれない。
「お寿司は世界で一番好きな食べ物。『二郎は鮨の夢を見る』は本当に美しい映画だよね。昨年、日本を訪れたときもお寿司をたっぷり堪能したよ。あれはもう、天国の味だね」。