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【MOVIEブログ】2018イスタンブール映画祭日記(下)

<4月11日(水曜日)>
午前中は急ぎで見なければいけない作品があったので、パソコンで鑑賞。

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<4月11日(水曜日)>
午前中は急ぎで見なければいけない作品があったので、パソコンで鑑賞。

かつてはDVDを送ってもらって見ていたけれど、3年前くらいからはVOD(ネット上のオンデマンド)で見ることが主流になってきた。DVDを持ち運ばなくていいのが利点だけれど、VODだと作品の権利元が視聴期限や回数制限を設定できるので、急いで見ないとアクセス権が切れてしまうこともある。何事も良い面ばかりではないのだ。

そのパソコンで見た作品が、実はイスタンブール映画祭でも上映されている作品で、なんだか得したような、損したような複雑な気分だ。非常に興味深い音楽ドキュメンタリーだったのでスクリーンで見たかった気もするけれど、まあこれはしょうがないな。それにしてもここ数年のこのジャンルの充実ぶりは本当にめざましいものがある。音楽ドキュメンタリー部門から生誕100年の監督特集に至るまで、イスタンブール映画祭はちゃんとやるべきことを押さえていて素晴らしい。

10時半にホテルを出て映画祭事務局に行く。イスタンブールの本日は晴れ。相変わらず肌寒いけれど、日中は全く気にならない。空気は乾燥していてとても快適だ。

カウンターでIDパスを提示してチケットを引き換えようとすると、先日お茶したトルガ・カラチェリク監督の作品のチケット受付終了になっていた! ああ、人気作品だから少し心配はしていたのだけど、もっと早く来ればよかった。これはいかんということで一般販売用窓口に行って買い求めようとしたら、当然のことながら売り切れいる。ああ、しまった。

どうしても見る必要があるので、何とかならないか監督にメールしてみる。こんなことで監督を煩わせたくないので、このカードは極力切りたくないのだけど、背に腹は代えられない。「上映は夜なので、追って連絡するけどたぶん大丈夫だろう」との回答をもらって一安心。お手数かけてごめんなさい。

気を取り直して、11時からアルゼンチン映画で『Theatre of War』を見る。フォークランド紛争で戦った英国とアルゼンチンの元兵士たちを数名集め、当時の記憶を語ってもらった上で、いくつかの出来事を寸劇や芝居で再現してもらうアート作品。これがまったくダメだった。アートで戦争を語るのは良いけれど、アートのために戦争を利用するのはいかがなものかと思わずにいられない。監督のコンセプチュアルなアート遊戯に付き合わされている元兵士たちが気の毒だ。

がっかりしながら外に出て、次の作品の会場へ。13時半からベルイマン特集で『叫びとささやき』。生誕100周年を記念して、昨年からベルイマンのほぼ全作品がデジタルリマスターされている。その恩恵で、『叫びとささやき』の美麗にして残酷な赤色を心から堪能することが出来る。これを至上の映画体験と呼ばずして何と呼ぼうか。

先ほどとは打って変わり、陶然としながら外にでて、ふらふらと小道に入ってみると、魚料理のスタンドを見つけた。あった! トルコ名物サバサンドをずっと食べてみたかったのだ。早速、席に座って注文する。サバの切り身を鉄板で焼いて、野菜とともにパンに挟み、香辛料を振りかけたサンドイッチ。ああ、とても美味しい!

16時半から『Sureyya the Kitman』というトルコ映画へ。ドキュメンタリーのコンペ部門にノミネートされている作品だ。トルコの有力サッカークラブ「ベシクタシュ」の名物的存在である用具係の男性にスポットを当て、彼がいかに魅力的な人物で、いかに長年クラブに貢献しているかを称える内容。本人の語りに加え、幾人ものスター選手や関係者の証言を交えていく。面白いのは、若い時には映画業界で仕事をしており、ユルマズ・ギュネイ監督とも親交があったこと。サッカー・ドキュメンタリーと思いきや、映画と繋がっているところが興味深い。

ガラタサライやフェネルバフチェはトルコの有力クラブとしてよく名前を聞くけれど、これらと並んでイスタンブールの3大クラブと称されるベシクタシュのことはあまり知らなかった。いつかトルコでサッカーの試合も見に行きたいものだなあ。

19時近くになったので、今朝チケットが取れなかったトルコ映画『Butterflies』の会場に出向く。入場口が人で溢れかえっている。ここ数日でダントツの人出だ。やはり人気作なのだ。すごいなあとびっくりしていると、トルガ・カラチェリク監督が入り口で待っていてくれた。招待チケットを渡してくれて、大恐縮する。ありがとう!

ロビーは満員電車状態で、そのまま劇場内へ。現在スマッシュヒット中の作品が映画祭で上映され、監督キャストが登場するとなれば、注目を浴びるのは当然といえば当然。熱気がこもった場内に居合わすことができて上映前から幸せだ。

そしてその幸せ感は上映後に倍増した! 『Butterflies』は、3人の兄妹が30年振りに故郷の父を訪ねる様子を描くフィールグッドな爆笑コメディーで、アート系と商業系の間をつなぐ鮮やかな出来栄えだ。ちょっと『神さまの思し召し』にタッチが似ている。言語を含めてトルコ独自のローカルネタもふんだんにあり、その全てが理解できるわけではないけれど、字幕でも十分に伝わるし、やはり家族の物語はユニバーサルで強い。

上映終わり、作品関係者の面々に感想を伝え、そして一緒に飲みに行くことになり、地元のバーにて5日ぶりにビール解禁。懇意にしている監督の作品が面白かった興奮(と安堵)で心地よく酔い、1時くらいに切り上げてホテルへ。

<4月12日(木曜日)>
7時に起床して朝は少しパソコンを叩いてから、11時にマーケット会場に行く。今日は日差しも強く、暖かい! 初めてコート不要のお天気。

イスタンブール映画祭は「Meeting on the Bridge」というプロジェクト・マーケットを毎年開催していて、映画製作者たちと業界関係者が出会える場を用意している。今回の出張の主目的がこのマーケットに参加することなので、良き出会いを期待しながら会場へ向かう。

映画祭事務局が設置されている美術館内のコンベンションホールにて、まずは各国の映画祭関係者がトルコの映画製作者たちに対し自分の映画祭のプレゼンをする時間が設けられている。ロカルノ、カルロヴィヴァリ、サラエヴォ、タリンなどの映画祭と並んで、僕も東京国際映画祭の説明を簡単に話してみる。

とはいえ、東京国際映画祭とトルコ映画との繋がりは深いので、話すことはたくさんある。そもそも、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督を世界でいち早く認めた映画祭のひとつがトーキョーで(96年に『カサバ』で受賞)、以来レハ・エルデム監督は全作上映しているし、昨年はセミフ・カプランオールをお迎えしている。2012年のイエシム・ウスタオウル監督(『天と地の間のどこか』)、2014年の『闘犬シーヴァス(映画祭時タイトル)』のカーン・ミュジデジ監督(現在日本で新作を撮影中のはず)、あるいは2015年の『カランダールの雪』で審査員賞を受賞したムスタファ・カラ監督も忘れ難い。つまり毎年印象的かつ重要なトルコ映画がトーキョーで上映され、逆に言えばトーキョーはとてもトルコ映画に注目しているのであり、その縁を絶やさないようにしていきたい…。

というようなことを話しつつ、5分くらいの持ち時間終了。冒頭のあいさつ(「みなさんこんにちは、私の名前はYoshiです」)と最後のお礼(「ありがとうございました」)を練習していたトルコ語で言ったら、ウケた! 20人ほどの映画祭関係者がプレゼンする中、トルコ語で挨拶したのは僕だけだったので得をしたかも。ここは落語で培った檀上ウケ狙いが生きたなあ。ふっふっふ。

映画祭紹介タイムが2時間ほどで終わると、参加者の人々と個別に挨拶し、求められるがまま名刺を渡していく。「自分の映画を持って日本に行きたい」、あるいは「日本で映画を撮る企画を練っている」などの若手映画人が次々と話しかけてきて、気圧される思いがするくらいだ。良いご縁に繋がるように、ひたすら丁寧に話をする。

そこから映画祭主催のランチがあり、近くの素敵なガーデンレストランへ。百名近いマーケット参加者が集まり、ガヤガヤとランチ。

15時から、今度はトルコ映画製作者による「Work in Progress」のプレゼンテーションが組まれている。現在仕上げ作業中の作品が、最後の資金集め、あるいは映画祭への出品の縁を求めて行うプレゼンで、6本の作品が選ばれている。それぞれ監督とプロデューサーが登壇し、10分間の映像を見せ、そして映画の内容や作業段階について説明をしていく。

いずれも面白そうな作品ばかりで興味を惹かれるけれども、とても追ってみたい作品と、それほどでもない作品を見極めて、今後の交渉の仕方を考えてみる。中には過去にトーキョーに招聘した監督の企画があり、とても嬉しい再会を果たしたり(名前はこの段階では伏せた方がいいかな…)、「自分たちは『カランダールの雪』に続きたいんだ」とトーキョー行きを熱望する若手プロデューサーに会ったりして、この充実した時間を過ごした時点で今回のイスタンブール出張の目的は果たした気がする。

プレゼン大会が終わり、いったんホテルに戻ってひと休みして、18時半にカクテルレセプションに参加すべくロビーに下りると、ポーランドのアンジェイ・ヤキモフスキ監督がいらっしゃったので久しぶりにご挨拶して雑談する。『イマジン』が日本でも公開されたヤキモフスキ監督は、2007年に『トリック』で東京国際映画祭に来日していて、『トリック』では当時6歳(か7歳くらい)の主人公の少年に主演男優賞が与えられた。「彼はどうしていますか?」と聞いてみると、すっかり大きくなっていまでも俳優を続けているとのこと。これは嬉しい!

監督と別れ、ランチを食べたレストランで「ハッピー・アワー・ドリンク」が催されているので、そこで一杯だけ頂いて、場所を変えてオフィシャル・ディナーへ。大きいレストランの1階と2階をほぼ貸し切って200人規模のディナー・パーティーだ。なかなかの盛会。今日は夜になっても気温があまり下がらず、テラス席がとても気持ちいい。

前菜を頂きつつ、注がれるままにトルコのリコリス味のリキュール「ラク」をクイクイ飲んでいたら、メインが来る前にすっかり酔ってしまった。ラクはアルコール度数が50%近いらしく、見た目はウォッカのように透明で、水で割ると白濁する。リコリスは苦手な人が多いだろうけれど、僕にとっては幼少時の思い出のお菓子の味なので、ついつい飲んでしまったらしい。

ディナーの後に別のパーティーがあったのだけど、僕は急速に眠くなってしまい、ホテルに戻ってダウン。情けない…。

<4月13日(金曜日)>
朝はパソコン作業、10時に外へ。本日も青空で最高の天気。10時半に1件ミーティングしてから、11時の上映へ。

『Undoubtful』というイスラエル映画で、昨年の同国アカデミー賞の作品賞候補となった話題の1本だ。昨年は、ベネチアで審査員賞を受賞して本家アメリカのアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた『Foxtrot』(傑作!)や、東京国際映画祭でも上映した『隣人たち』など、イスラエル映画に秀作が相次いだ。トルコ、イラン、イスラエルの映画からは本当に目が離せない。

『Undoubtful』は情緒不安定な青年たちに対し、映画作りを教えて更生させようとする男性が青年たちに感情移入した結果悲劇を招くという物語。実際におきた事件を映画化したとのことで、自分を制御できない青年を演じる役者たちが素晴らしい。

13時半からトルコ映画の『My Short Words』という幼い子どもたちの素朴で美しいロードムービー。100%キアロスタミの影響下にある作品だけれど、かわいらしいだけに終わらないセンスは見ごたえあり。

15時からトルコの監督と2件ミーティング。そのうち1件は2020年に撮影予定の企画で、映画祭でお世話になるのは相当先の話だけれども、今後連絡を絶やさないようにして進捗を教えてもらうようにする。

16時から我慢できずにベルイマン特集の『秋のソナタ』を見てしまう。このデジタルリストア版が数年前に日本公開されたバージョンと同じものかどうかが分からないのだけど、ともかくスクリーンで見られる機会があるなら素通りするのは難しい。

本編が始まると、隣の女性とその隣の女性がふたりともスマホを見続けているので、「携帯やめてもらえませんか」と声をかけてしまった。完全アウェーのイスタンブールの映画館でトルコ人相手に注意するのは勇気がいるのだけれど、こればっかりは平気でいられない。だってベルイマンだよ!? 冒涜だ! ああ、かくして20世紀最大の芸術家も、携帯依存の前には敗れ去るのみなのか…。

ふたりはすぐに携帯をしまってくれたけど、1時間くらいたったところでこっそり見ていた。1時間が限界なのだね…。もっとも、僕は完全にリブ・ウルマンとイングリッド・バーグマンの対決に惹きこまれていたので、もはやあまり気にもならない。

夜は映画祭のパーティーが22時からあるので、ホテルに帰って一休みしてから、用意されたシャトルバスに乗って東の海岸沿いの会場へ向かう。他の映画祭関係者たちと一緒に会場近くのレストランでまず食事をしてから、改めてパーティー会場に入り、トルコ人監督たちと交流して、ホテルに戻って午前2時。即ダウン。

<4月14日(土曜日)>
本日がイスタンブール最終日! 7時半に起きて、午前中はパソコンで仕事の映画を見る。

昨日から正式に東京国際映画祭の公募が始まったので(詳しくは公式ウェブで!)、いよいよ今年も選定作業が始まる!ああ、ついに始まったか…。まだ心の準備が出来ていないのだけど、ともかく気合を整えていかねば。

今日の昼は、イスタンブール映画祭がボート・トリップを企画している。12時15分にホテル前からシャトルバスに乗って、フェリーターミナルに向かう。残念ながら天気は曇りで、寒い。水曜日と木曜日はコート不要だったけど、昨日からまた寒くなってしまった。トルコにも三寒四温があるのかな。

貸し切りフェリー船でボスポラス海峡をたっぷり2時間流し、素晴らしい景色を見ながら、映画関係者どうしで交流しようという趣旨のツアーだ。しかし参加してみると観光の要素は全くなく、完全にネットワーキング/ミングル目的のランチ・パーティーだった。

ビールやワイン片手に次から次へと相手を変えて話し続け、景色を楽しむ暇はほとんどなかった。でもそれが大歓迎なのは言うまでもない。とても有意義な企画だった!

『ポーカーの果てに』や『カランダールの冬』の監督たちと船上で再会して感激したり、レハ・エルデム監督の撮影監督(フランス人)と再会して話し込んだり、いくつかの映画祭のディレクターと情報交換し、幾人かのジャーナリストと話し、そして初対面のトルコ人関係者とも交流し、極めて有意義な時間を過ごす。気づいたら出発した船着き場に戻っていて、あっという間の2時間クルーズだ。

シャトルバスに乗ってホテル近辺に戻り、16時から上映に行き、トルコ映画『Escape』を見る。トルコに逃れるシリア難民の物語でまさにタイムリーな作品なのだけど、難民の男が農家の主婦と懇ろになる展開は通俗的でいささかしらけてしまう。映像は素晴らしいのだけど。

映画が終わって最後のケバブサンドを食べに行く。20分ほどウロウロと探して、最後にして最高の店を見つけた! やはりそういうものだよな。しみじみと味わう。会計時に「テシェッケル・エデリム!」と言うと、店のおじさんがニカーっと破顔一笑してくれる(これは行く先々で感じることで、不愛想な店員でもトルコ語でお礼を言うと表情が変わる! とはいえ、総じてどこに行っても店員さんは愛想がいい)。

19時からもう1本トルコ映画を見たのだけど、これはかなりダメな出来だったので割愛。いわゆる映画祭で出会いを期待する映画ではなかった。

上映終わって21時。このまま終わるのがどうしても寂しいので、数日前に行ってとても美味しかったサバサンドの店を再訪し、二度目のサバサンドを頂く。今回はテーブルの上に置かれた緑のトウガラシをはさんでみたら、これがまた美味しさ倍増。ああ、このサバサンドは恋しくなるだろうな…。

サバサンドもそうだけど、イスタンブールの雰囲気全体がかなり恋しくなりそう。本当に居心地がよかった。もう少しトルコ映画を多く見たかったのが唯一心残りだけれども、またいつか戻ってこられる日が来ますように。

とはいえ、隣国シリアは昨日からまた新たな困難に陥っている。なので、あまり呑気なことばかりは言っていられない。そしてトルコの映画人からは自国の窮屈さを訴える声がたくさん聞こえてくる。通りすがりの外国人には何も言う資格がないけれど、ともかくその地に身を置いてみると見えてくることもある、と思いたい。

ホテルに戻って荷物をピックアップして、空港へ。フライトは午前1時20分発という過酷な時間で、到着は日本時間の日曜の19時半くらいのはず。今はアタチュルク空港でこのブログの終わりを書き中。ということで、イスタンブール、大変充実しました。これから帰ります!

テシェッキュル・エデリム!

《矢田部吉彦》

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