役者とのやり取りや演出「監督はすごく楽しそう」
――ジョン・デイビット・ワシントンさんは、こういった非常に難易度の高い作品に出演するにあたり、どんな準備をされたのでしょう? 劇中では、ほとんど主人公の過去が明かされませんが…。
デイビット・ワシントン:おっしゃる通り、色々と解釈の余地のあるキャラクターなので「この人はどういう歴史を背負っているのか?」は、あれこれ考えましたね。役作りにおいては、海軍やネイビーシールズ(アメリカ海軍の特殊部隊)、武器の使い方などについてリサーチを行いました。

もう1つ考えたのは、あのクリストファー・ノーランの作品だから、ものすごいスケール感があって、ジャンルもストーリーも、撮影技術的にも、ひとひねり加えた素晴らしいものになるだろう…という前提。ただ僕としては、そういう超大作の中に、ある1人の“人間”をしっかりと据えるんだ、という意識がありました。
脚本を読んで、下調べをしていく中で、この主人公は実に人間らしい人物だと感じられたんです。人によっては、彼の行動を“落ち度”と見るかもしれないけれど、その脆弱性こそが彼の力だと解釈しました。

――なるほど、人間らしさがキーワードだったんですね。
デイビット・ワシントン:他には…トレーニングが大変でした(笑)。2か月半ほど体作りに費やしましたね。
ただ、形から入ったことで、「この人はこういう男で、こういうことができる」というのが体で分かってくるようになったんです。トレーニングの中で「なぜこの人は戦うのか?」という部分の理解が深まり、役作りに追加していきました。
あと、もう1つ。ノーラン監督は、僕をパートナーとして見てくれて、一緒にものづくりをしよう、と接してくれるんです。監督がいつも「直感を信じて、やりたいようにやったらいいから」と言ってくれたおかげで、安心して感じるままに演じられました。

――「逆行」するアクションも、すさまじかったです。
デイビット・ワシントン:今回は、体に染みついた動きを“脱・学習”して、今までに体験したことがない身のこなしを新たに習得する必要がありました。
まばたきや呼吸、喋り方ひとつにしても、全部学び直さないといけない難しさがありましたね。リハーサルも相当数を重ねました。まるでダンスの振り付けを覚えるような感覚でした。
今まで映画ではなされなかったことが初めて行われた現場でしたし、スタントコーディネーターのジョージ・コトルの力なしにはできなかったと思います。

――そのほか、ノーラン組に参加して印象的だった思い出はありますか?
デイビット・ワシントン:びっくりしたのは、監督は悪天候だとテンションが上がるんですよ。雨がザーザー降っていてもやる気満々だし、逆にデンマークの風力発電所での撮影で快晴だった時には全然喜んでいなくて…。次の日大荒れになったら、「やったぞ」という感じでした(笑)。
ノーラン:(笑)。
デイビット・ワシントン:あとやっぱり、役者とのやり取りや演出をつけるとき、すごく楽しそうですね。例えば会話の中で、「ブルース・ウェイン風にやってみよう」とか、色々遊んでくれるんです。
共演者のお話をすると、ケネス・ブラナーの姿を見て、自分は俳優としてはまだまだだな…と思いました。彼は本作でロシアなまりの英語を話しているんですが、それに加えてこの映画特有の話し方もこなしていて、しかもシェイクスピア劇みたいに朗々と語っている。僕はなまりなしのアメリカ英語で精一杯だったので、さすが名優中の名優だ! と感嘆させられました。
