斬新なアイデアは「あれこれ考えてきたことが収れんした形」
――ジョン・デイビット・ワシントンさんの役作りについて伺ってきましたが、ノーラン監督はどういったものから、『TENET テネット』のアイデアを思いつかれたのですか?
ノーラン:これは『インセプション』もそうなんですが、あれこれ考えてきたことが収れんして形になっていった感じですね。自分が送っている日々の生活や、その中で見聞きしていること、私自身がどんどん年を取ってきているという事実などが積み重なって、「そろそろこのコンセプトを映像に落とし込んでもいいかな」という時期がやってくるんです。
そういう意味では、何か一つがヒントになるというよりも、長年抱えている思いだったり、温めて続けてきたコンセプトなんですよね。

――ありがとうございます。『インターステラー』に続く、物理学者キップ・ソーンさんとのコラボレーションはいかがでしたか?
ノーラン:彼の話を聞いていていると、「世の中は、いま目に見えている可能性よりもさらに“何か”を提供してくれるものなんだ、もっともっと様々なことがありうるんだ」ということに気づくんです。フィクションよりも気になる真実を、教えてくれる。
『TENET テネット』に関して言うと、先ほど申しあげた物理の法則について相談に乗ってもらいました。「世の中のあまねく物理の法則はシンメトリーだけど、唯一の例外がエントロピーの法則だ」という部分です。

キップ・ソーンは、「時間が逆行するとなると、人は普通に呼吸できない」とか、事細かに説明してくれました。彼にもらったアイデアは、実際の脚本にも盛り込んであります。
もう1つキップ・ソーンの素晴らしい点を挙げると、私たちよりも遥かに頭脳明晰なのにも関わらず、我々の「どういうことを映画でやりたいのか」をちゃんと聞いてくれて、落とし込んでくれるところ。だからこそ彼は、偉大な学者なんだと思います。
