【映画と仕事 vol.9 後編】給与、ユニオン、英語力…衣装スタッフとして活躍する日本人が明かすNYエンタメ業界のお仕事事情

映画の世界に携わる人たちにお仕事の内容について聞く「映画お仕事図鑑」。連載第9回目となる今回、ご登場いただくのは、ニューヨークで“ワードローブ・スーパーバイザー”として活躍中の増田沙智さん。NYのエンタメ業界事情について語ってくれたインタビュー後編!

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スタジオ内の衣装ルーム
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突如、仕事を辞めて単身ニューヨークへと渡り、大学での勉強を経て、エンターテインメント業界に飛び込んだ増田沙智さん。撮影現場で俳優が着用する衣装に関する全てを統括する「ワードローブ・スーパーバイザー」として活躍中の彼女に話を聞くインタビュー後編! ユニオンへの加入のメリット、英語力や給与事情まで、ニューヨークのエンタメ業界について、たっぷりと話を伺いました。

食事の時間が遅れればペナルティも… ルールが厳格なアメリカの撮影現場



――インタビュー<前編>では、ワードローブ・スーパーバイザーの具体的な仕事内容、増田さんが渡米してスーパーバイザーになるまでを伺いました。仕事に関する説明で、衣装に関する部門が、デザイナーらが属する「衣装」チームと、撮影現場で衣装の管理などを行なう「ワードローブ」チームにわかれるという話でしたが、部門全体の責任者となるのは…?

部門全体の責任者は「デザイナー」ですね。現場の責任者は「ワードローブ・スーパーバイザー」ですが。ただ、これはあくまでもニューヨークの話で、ロサンゼルスになるとまた事情が異なるそうで、スーパーバイザーが部門全体を統括することもあるそうです。ロスとニューヨークではユニオン(組合)も異なるし、いろんな部分で違いはありますね。

――映画やドラマの「衣装」の仕事というと、デザイナーやスタイリストを思い浮かべる人が多いと思いますし、そちらのほうがスポットライトを浴びる華やかなイメージはあるかもしれませんが、お話を伺っていると、現場で衣装にまつわる全てを統括し、撮影を滞りなく進めているのは「ワードローブ」チームのおかげなんですね。

そう言っていただけると嬉しいです。やっていること自体は本当に地味なのですが…(笑)。

例えば、撮影現場で俳優さんが衣装を着るタイミングについて、AD(アシスタント・ディレクター)と話し合わないといけないこともあります。スーツなどは長時間着ているとシワになってしまうので、先にメイクをしてもらって、こちらとしては撮影の直前に着てもらいたいと思っていても、ADさんから「後になると時間が取れないので、いまのタイミングで着せてほしい」と言われることもあります。必要であれば、こちらの意見を押し通さなくてはいけませんし、どんどん精神的にタフになっていきますね(笑)。

加えて最近では、コロナの感染予防対策などもあります。コロナとは関係なく、普段から仕事の時間外で連絡が来て、対応しないといけないことも多いです。基本的に私も含めてこの仕事は時給なんですが、翌日の撮影のことなので、どうしても必要ということで時間外に電話やメールが来ることは多々ありますね。

「ジェシカ・ジョーンズ」シーズン2のクルーと「ジェシカ・ジョーンズ」シーズン2のクルーと
――話せる範囲で拘束時間やお給料事情など、現場の環境についてもお話しいただければと思います。

基本的に「ワードローブ」のメンバーの就業時間に関しては、私が全部決めています。たまに、ものすごい遅刻をするスタッフもいます。最初のうちは、なるべく何も言いませんが、あまりに続くようなら、ちゃんと時給から引くようにしています。公平でなくてはいけないので。最近はタイムカードをオンラインで打刻するところも出てきましたが、基本的にはまだ紙に書くのが多いですね。

――増田さんご自身(スーパーバイザー)も、作品ごとにいくらではなく、時給制なんですね?

そうですね。デザイナー以外はみんな時給ですね。スーパーバイザーが最も高給ではあるんですけど、とはいえ(部下である)コスチューマーと比べても時給で5ドル多いくらいですから、割に合わないなぁ…って思いますけど(苦笑)。

――お休みの日は決まっているんですか?

ユニオンの仕事に関しては、基本的に土日休みです。ただ、映画の場合、あらかじめ全体の撮影期間が決まっていて、その間に全てを終わらせなくてはいけません。そうした場合に、週に6日、もしくは7日間出勤ということもありますね。

テレビドラマでもそういうことはあるのですが、多くのプロダクションはちゃんと週末2日間を休みにしたいと考えています。というのも、人件費は先ほども言ったように時給ではあるのですが、時間外の労働となると、そもそもの時給の額が変わってしまい、膨れ上がってしまうんです。

簡単に説明しますと、私たちの仕事は1日8時間が基本のギャランティとなっており、もしそれより早く現場が終わったとしても、8時間分の給料は保証されています。8時間を超える労働に関しては12時間までは時給が1.5倍に、それ以降は2倍になります。また土日休みの週休2日が基本の現場の場合、もし6日目も出勤となると、その日は最初から時給は1.5倍になるんです。以前、週7日間、働きづめだったことがあるんですが、それだけで当時の1か月分の給料に近い金額になりました。そのあたりの契約はきちんとしていますね。

――増田さんの場合、スーパーバイザーなので管理職として、スタッフの出勤の管理も行なわなくてはならないんですよね?

そうです。そのあたりも契約がかなりきちんとしていて、例えば「朝、入りの時間から1時間以内に朝食を摂らせないといけない」とか「ランチは始業から2時間以上が経ってから」とかそれぞれの契約でルールがあって、決まった時間を超えてしまうとペナルティが発生します。基本的に、食事に関するルールとして、6時間以上の仕事の場合、それを超えると“ミールペナルティ”が発生するんです。それも3回目までは5ドルずつの加算だけど、4回目になると1時間分の時給が支払われたり、そういうのも細かく決まっています。なので、指示を出す側はペナルティ分も計算しながら「このスタッフには何時までにランチを摂らせないといけないか?」と考えなくてはいけないし、ランチに行かせるか? それともディナーまで待つか? どっちのほうが安くつくかを考えたりもします。

――お金に関して、増田さんがこの業界に入って、衣装の仕事で「食べていける」ようになるまでどれくらいかかりましたか?

最初の頃、インディーズの映画で仕事をしていたことをお話ししましたが、当時でも、私が知る限りで日本のいわゆるスタイリストさんの平均的な給料よりは多くもらっていたのではないかと思います。

大学を出てから2年くらいで「この仕事で食べていける」という状況にはなっていましたね。ただやはりフリーランスですから「次に仕事が来なかったらどうしよう?」という不安はありました。さすがにいまは、何とかなるだろうと思えますが…。

とくにいま、ニューヨークは業界全体が年々、忙しくなっている状況です。実際、いま現在で50ほどの作品が既に決まっています。

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《text:Naoki Kurozu》

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