ある映画との出合いが契機「きっかけひとつで動く」
――橋本さんは、2015年の第65回ベルリン国際映画祭で初めて海外の映画祭に参加されたと伺っています。その際のご経験も、ご自身の中では大きく残っていますか?
そうですね。その際に出品されたのが『リトル・フォレスト』と『ワンダフルワールドエンド』だったのですが、撮影中は、海外の映画祭で上映されることになるなんて思ってもみなかったです。どちらも先鋭的・独創的な映画だったので、文化に対して誇りも感度も高い海外の方々が認めてくれたのかもしれないと思うと、すごく嬉しかったです。
『ワンダフルワールドエンド』については、松居大悟監督がご自身で売り込みをされたと伺ったのですが、松居さんの行動力もすごいけどそれを「面白い」と受け入れて下さった方々もすごいですよね。映画を作る人たちを大事にして、映画自体に愛情を持ってくれているんだなと感じた出来事でした。
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――海外の映画祭の“熱”を肌で体感されて、広い視野で日本映画の現状をご覧になっていることが、ここまで伺ってきたようなお話につながってくるのかなと感じました。
俳優としての目線では到底広い視野で見ているとは言い難いですが、一観客として、「寂しい」と感じることは結構多いように思います。自分がすごく良いなと思った作品がそんなに観られていなかったり、いまの国内の興行収入やランキングを見ていても、娯楽性の強い作品が多く、もちろん楽しい映画は私も大好きなのですが、教育的な部分が欠けているようにも感じるんです。
それは映画においてだけではなく、社会の中でもそう。自分自身は芸術に携わっているからこそ、人間の本質を見つめたり、優しくなれたり、世界や人生の真理に触れることが当たり前になったのですが、私にとっての当たり前の日常は、“ここ”で生きているからなんですよね。どこかで「みんなもそうなんだろうな」と思っていたら、全然違った、と思い知らされることが多いです。
――非常にわかります。芸術文化の業界の内側で止まってしまっている部分も大いにありますよね。
心や感性を育てることが芸術文化の大きな役目だと感じますし、そういったものが土台にあるともっと生きやすい社会になっていくんじゃないかと思っています。
私は元々映画を全然観ていませんでしたし、映画好きの家庭に育ったわけでもありません。子どものころはほとんどジブリ作品しか見たことなくて。映画全体における教養が全くない人間でした。でもスタートがそこであったとしても、観るもの・触れるものでこんなに人間って変わるんだと自分自身が体感しているので、よりそう感じますね。
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――石井隆監督の『人が人を愛することのどうしようもなさ』をご覧になったことが一つの契機になった、というお話をお聞きしたことがあります。
そうなんです。機会がなかったとしても、きっかけひとつで動くんだ、ということを身をもって知っているからこそ、一つひとつに目を配って、変わっていけたらいいなと思いますね。
――そういったメッセージを伝えていくことも、アンバサダーに繋がってきますね。ちなみに、2018年の第31回東京国際映画祭では、親友の松岡茉優さんがアンバサダーを務められましたが、今回の就任に際して何かお話はされましたか?
いえ、特には話していないのですが、(松岡)茉優が選ばれたとき、「いいなぁ、私もやりたいなぁ」と思ってはいました(笑)。
――なるほど(笑)。では、今回の就任は念願でしたね。
そうですね(笑)。嬉しかったです。