切なくやるせないストーリー「隠れず、恐れず、想いを伝えたほうがいい」
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基となった戯曲では大きな鼻にコンプレックスを持つシラノが、幼なじみのロクサーヌに恋心を抱く。だが、彼女が恋に落ちたのは輝く容姿のクリスチャン。恋の橋渡しを頼まれたシラノは文才のないクリスチャンに代わり、美しい恋文を何通も何通もしたためる。あまりにも有名なストーリーラインはそのままだが、ディンクレイジ版シラノは大きな鼻ではなく、肉体そのものに引け目を感じている。
「僕の体はこの通りのサイズなので、このまま演じればよかった。それにより、物語に説得力が生まれたと思う。これまでのシラノは容姿端麗な俳優が大きな鼻をつけて演じることも多かった。それはそれで構わないし、役を演じるにあたって特殊メイクに頼った経験は僕もある。でも、この物語にその選択は相応しくない。物語が放つ愛のメッセージが、より伝わるようにしたかったんだ。僕自身に響いたようにね」。
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「物語が放つ愛のメッセージ」は美しくもあるが、あまりに切なくやるせない。本作の脚本家のハートを射止めて早20年近く、2人の子どもの父親でもあるピーターは「少なくとも、シラノを真似すべきではないね」と優しく笑う。
「隠れず、恐れず、想いを伝えたほうがいい。自分に正直であるべきだ。そうすれば愛は芽生えるし、愛は育つ。信じた心を表現すること。それが愛だと思う。そう考えると、この物語は今の時代にも通ずる。シラノの手紙で、クリスチャンは自分をよく見せようとするのだから。オンラインで大勢がやっているだろう? 欠点を隠し、どれだけ魅力的かをアピールし、実際に会って失望する。正直に自分を伝えず、作りたいイメージの中に隠れるからそうなるんだ。それに対する答えが、『シラノ』だとも思う」。