五年生になった彼らの心の成長を見届けて
――では今回、続編「直ちゃんは小学五年生」を制作することになった経緯を教えてください。
2年後の物語をつくらないと、直ちゃんに重荷を背負わせたままになってしまうと思い、続編の制作を決めました。前作のラストは、てつちん(前原滉)が福島に引っ越すという別れで終わらせました。ただ、「2年後に帰ってくる」と信じているきんべ(渡邊圭祐)、山ちょ(竹原ピストル)がいる一方で、直ちゃん(杉野遥亮)はそれが嘘だと知っています…。そのときは「大人ってこういう嘘つくよね」という、あるあるの気持ちで脚本をつくったのですが、第6話ラストの夜の公園シーンを撮影しているときに杉野くんの演技を見て、子どもに対して軽い気持ちの嘘はいけなかったと反省しました…。
大人にとってはちょっとした嘘、ちょっとした決まり事、ちょっとした言葉・表情、すべてが子どもにとっては将来の傷になる可能性があります。実際に私は忘れられない母親の表情とか、先生に言われたひと言とかがあって、癒すのに時間がかかりました。この3年間のコロナ対策でも、とくに感じていることです。今年アカデミー賞をとった映画『コーダ あいのうた』を観たときにも、親はどんな恐れがあっても、子どもを信じてあげることが愛なんだと実感しました。
だから、大人は嘘でごまかすのではなくて、きちんと直ちゃんたちに悲しい別れを乗り越えさせるべきだったんです。でも、続編では大人の力を借りずに、4人が真実と向き合う様を描きました。そんな彼らの心の成長を見届けていただきたいです。

――直ちゃんたちがジェンダーバイアスを初めて意識する様子が描かれたシリーズ第3話のように、毎回、興味深いテーマがありますね。
第3話のジェンダーバイアスはもちろん、第2話の経済格差など、普段ツイッターで議論されているようなことは、小学生の頃からあった問題だと思ったんです。改善すべき問題も、戦う方向ではなくて、小学生たちのように純粋な優しさをもって解決の糸口を見つけて互いに許容しあえていけたらいいなと思っています。
――小学三年生にとっては、親の離婚・再婚などで名字が変わること、親や親族以外のよく知っていた人やペットの死、さらに友との別れも“大事件”です。また、今回の「直ちゃんは小学五年生」では東日本大震災にも触れられていますね。
当時、夫婦別姓について考えていたときに、名字が変わるエピソードを入れたいと思いました。子どもの立場になったらどうだろう? と。
また、コロナ禍で、生きること死ぬことを考える人が多い時期だったので、生死のテーマを盛り込みたいと思いました。彼らの生まれ年が、2011年になることに気づいて、偶然ではあったのですが盛り込むべきだなと。子どもの頃から、直ちゃんたちのように生死にまつわる体験を通して、何かを感じて、考えて、乗り越えていくということが大切なのではと思っています。
――大人がついた嘘でしたが、直ちゃんは「てつちんは2年で戻ってこない」という秘密を守り通しました。キャストたちには、この2年間を補完するようなアドバイスや、役づくりのヒントなど何か話をされましたか。
三年生のときの仲良し4人組の関係性とは少し変化を持たせたかったので、クラス替えをして少し距離が生まれている直ちゃん、きんべ、山ちょから物語をスタートさせました。大きく役づくりを変えるような必要は持たせていませんが、彼らの変化をセリフの端々に描いています。
ただ、直ちゃんに関しては、複雑な思いを抱え込ませてしまったので「楽しい」「わくわく」というようなシンプルな表現では難しく、現場で杉野くんと話し合いながら進めていきました。杉野さんのこの2年の変化とシンクロしている部分にも気づいて、私としてはとても興味深かったです。

前原さんには、てつちんは福島で親と大げんかして、ひとり先に気持ちに決着をつけた状態で遊びにきたという裏の流れを伝えていました。だから、直ちゃん・てつちんと、あとの2人とでは、この2年間の心の成長の差があるんだと思います。こうやってそれぞれの経験を通して、それぞれのペースで大人への階段を登っていくのかなと。
――脚本には、青野さんご自身の経験談も盛り込まれているのでしょうか。
今作の私立校に通う、おなけん(ウエンツ瑛士)のエピソードは私の実体験がベースです。私は小学校受験をしたので、国立の学校に電車で通って、高学年の頃にはほぼ毎日習い事もしていました。自分の意志ではなく、親の方針で、選択権はなかった。家のまわりには友だちがいなくて、ある日公園で1人で遊んでいたときに声をかけてくれた近所の小学生がいたんです。それが嬉しくて嬉しくて。でも遊んだのはたぶん1度か2度でした。
監督も、「そういえば僕も小学校の頃、そういう子と遊んだ」と言っていたので。私もおなけんと同じで勉強が嫌いじゃなかったし、習い事をさせてもらえるなんて恵まれた環境だったと思うんです。でも、自由はなかった。直ちゃんたちみたいな放課後を過ごしたかったかもしれない、そんな複雑な思いを込めています。
大好きなこの4人は『スタンド・バイ・ミー』をイメージしていた
――大人がまったく登場しない(声のみ)子どもたちの世界で、大人の事情に振り回される子どもたちに現代社会が抱える問題を投影させてきた本作ですが、これから例えば小学6年生編、中学生編など、続いていく可能性はありそうでしょうか。
4人には話しましたが、今回で完結のつもりで制作しました。中学生になれば徐々に問題が複雑になったり、ケガレの部分を描いていかざるを得ないのかなと思ったり、あまりしっくりこないんです。
ただ、いまも編集作業のたびにオープニングから「この4人大好きだな」と思うので、別の形で何かできないかな…とは思います。4人から「刑事もの」とか案はありましたが(笑)。
――少年4人組が登場するといえば映画『スタンド・バイ・ミー』が思い浮かびますが、彼らは12歳の夏が終わったら離れ離れになります。では、直ちゃんたち4人はどうなるでしょうか。

まさに『スタンド・バイ・ミー』をイメージして制作したのが本作です! ちなみに4人組という点では「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や「サウス・パーク」も念頭にありました。
直ちゃんたちもそれぞれの道を歩み始めると思います。五年生ではその片鱗をみせています。年齢を重ねるにつれて、考え方ややりたいことが変わったり、それに伴って人間関係が変わったり、変化する側は前向きでも、取り残されるほうは寂しさを感じるものですが、それぞれの選択を信じて、応援し合う4人であってほしいです。これまでの時間に育まれたお互いを思いやる優しい心は、将来に渡って財産になると思います。
あとは、大企業だから信頼できるとか、人と同じことをしていれば安心とか、もうそういう時代ではないと思うので、「個」として自分で考えること、感じることを大切にする大人になってほしいです。
――最後に青野さんから視聴者にメッセージをお願いします。
応援してくださるみなさまのおかげで、五年生を制作することができました。大人たちが知らないところで、もしかしたら子どもたちがこんな奮闘しているのかもしれない…そんな視点でもお楽しみいただけたら嬉しいです。

≪プロフィール≫
青野華生子/プロデューサー(フラッグ)
早稲田大学文学部・演劇映像コース卒業。
芸能事務所での舞台制作・音楽イベント制作を経て、テレビ東京で数々のドラマ制作・PRなどに従事。2021年1月に放送されたプロデュースドラマ「直ちゃんは小学三年生」(テレビ東京系)がギャラクシー賞テレビ部門奨励賞を受賞。2022年1月にフラッグに入社後は、オリジナルドラマの企画開発を行う。「直ちゃんは小学三年生」の2年後を描いた続編「直ちゃんは小学五年生」が10月5日・12日に2週連続特番ドラマとしてテレビ東京系での放送。