新海誠監督の劇場アニメーションを松村北斗を主演に迎え、高畑充希がヒロイン役で出演する実写『秒速5センチメートル』。本作が第30回釜山国際映画祭のオープンシネマ部門にて公式上映された。
いよいよ来月10月10日(金)に公開を迎える本作。9月18日、主演を務めた松村北斗と奥山由之監督が釜山に到着。インターナショナルプレミア上映では、本作の制作経緯や、オファーを受けた際の気持ち、原作への想いなどについて語った。9月19日には、釜山国際映画祭のメイン会場「映画の殿堂」にて、野外ステージグリーティングに登壇。前日に開催されたインターナショナルプレミア上映の感想や、本作の見どころについて語り、22日(月)に行われる上映に期待を膨らませていた。
そして、9月22日20時より、釜山最大の座席数を持つメイン会場「映画の殿堂」の野外スクリーンにてオープンシネマ部門の公式上映を実施。当日、開場前にはすでに100人を超えるほどの長蛇の行列ができており、作品への期待の高さが伺える。
公式上映前のGuest Visit(舞台挨拶)で、奥山監督と村松は韓国語を交えて観客に挨拶。これには会場から大きな歓声と拍手が送られた。

「釜山での滞在や今日の上映を控えて、今のお気持ちはいかがでしょうか?」と監督へ質問が投げかけられると、「ちょっとだけ個人的な話をさせていただくと、僕は十数年間、写真家やミュージックビデオやコマーシャルの監督をしてきました。ただ、映画がすごく好きで、いつか映画を撮りたいと思っていて、ようやくこの数年間で映画制作に携わることができました。『秒速5センチメートル』という作品で釜山国際映画祭に来ることができて、上映後にお客さんの拍手を聞いたり、GVで熱意のあるお客さんと会話をしたり、街中でたまたま憧れの監督に出会えたり、そういった素晴らしい経験をすることができました。そして何より、映画祭期間中、いくつかの映画を観たのですが、映画ファンのお客さんと一緒に、満席の会場で映画を観た時間が、本当に楽しかったです。一緒に感動したり、笑ったり、考えたり、そういう経験を通して、映画を初めて好きになった時の気持ちを思い出して、僕は心から映画が好きだということを実感できました。それと同時に、映画という世界に温かく迎え入れてもらったような気持ちになりました。自分の映画人生にとって節目となるような経験をさせてもらえた釜山国際映画祭に心から感謝しています。映画という文化が、これからも末長く続くことを、心から祈っています。最後に、松村北斗という素晴らしい俳優に出会えて、一緒に『秒速5センチメートル』を作ってきたスタッフやキャストに、そして、原作の新海誠さんに心から感謝したいと思います。今日は皆さんと共に映画を楽しみたいです。チョンマル カムサハムニダ(本当にありがとうございます)」と映画に対する熱い想いを語る。
松村は「原作のアニメからも演じるのが難しい役だと思っていました。常に繊細で落ち着いた演技力で高く評価されている松村さんですが、この役を演じようと決心されたきっかけは何か」を問われると、「元々僕は『秒速5センチメートル』という原作アニメーションのファンだったというのがまず一つの理由で。そして、ご存知の方もいると思うんですけど、新海誠監督の『すずめの戸締まり』という作品で、僕が椅子の役をやったんですね。あ、改めまして、椅子です」と名乗ると会場の笑いを誘った。
続けて「そこで新海さんとの信頼関係があったというのも理由の一つ。でもこの二つだけではチャレンジするにはあまりにもハードルが高くて、難しい作品、そして役柄でした。しかし、奥山監督と会話をする機会があって、そこで奥山さんが既に始めている実写版『秒速5センチメートル』というプロジェクトや熱意などを聞いていくと、僕ひとりが不安に思っていたとしても、そんなことは関係ないぐらい、ものすごいセンスと熱量で準備されていて。この方がリーダーになって進んでいく作品に乗っからないほど人生で惜しいことはないなと、その場で強く思いました。もちろん、この役に挑戦したいという気持ちがほぼ決まってからお会いしたのですが、『今すぐ早く撮りましょう』と言いたくなるぐらいの説得力をいただいて、それが最終的にこの作品に飛び込むことを決めさせてくれた出来事でした」と本作への参加の経緯について説明。

そして、「貴樹を演じるうえで大事にしていたこと」には、「今回特に難しかったのは、自分が原作の大ファンであり、遠野貴樹というキャラクターやこの物語の世界に憧れていたので、この強い憧れから生まれるドキドキのまま飛び込むと、この世界を楽しむ自分になってしまって、生きることの難しさに苦しむ主人公とはかけ離れてしまうということでした。憧れるということを一切やめて、離れたところで遠野貴樹という人物を見つめ直すことがすごく難しかったです」と語り、「そして、もう一つ。今回、遠野貴樹という人物を、僕と青木柚くん、上田悠斗くんと、三人で一つの役を演じています。これがとても難しく思っていたのですが、僕よりも早くに撮影をしていた彼らのパートの映像を見たら、本当に素晴らしい俳優たちでした。彼らが役としての軸をぶらさずに持っていて、それを引き継いだことで、三人で一つの役を演じるということが難しいことではなくなり、とても頼もしくて、役として肉厚になるきっかけになりました。この二人がとにかく素晴らしかったということを、改めてこの会場の皆さんに伝えたいと思います。きっと上映が終わった後に、青木柚、上田悠斗、他の出演者についても、きっと名前を調べることになると思います」と他キャストについて賞賛をすると会場からは拍手が起こった。
最後に、「今日、皆さんと共に観られることを本当に嬉しく思います。また新たな作品を作って、皆さんとお会いしたいと思います。本当に、ありがとうございます」(奥山監督)「この作品は人物もすごく大事ですが、本当にきれいな景色がたくさん出てくる映画です。この迫力のある大きなスクリーンと、そして空と風を感じながら最高の映画体験を一緒にしましょう。今日は、ありがとうございました。」(松村)と挨拶し、舞台挨拶後、松村と奥山監督も約3,800人の観客と一緒に上映を鑑賞。
上映終了後、エンドロールが始まると、会場は盛大な拍手に包まれ、エンドロールが終わると、松村と奥山監督は固い握手を交わし、熱いハグ。何度も観客にお辞儀をし、手を振り、感謝を伝えていた。

オープンシネマ部門の上映を終えて、松村は「今は放心状態です。本当にあれだけのお客さんと一緒に作品を観たことで、自分も一観客として初めてあの作品を観られたような感覚があって。一体感というか、みんなでぐーっとあの作品の世界に集中して入っていく感じをすごく肌身で感じました。本当に貴重な経験をさせてもらえました。本当に素晴らしい作品になったなというのを実感しています」と興奮冷めやらぬ中、感想を述べた。
奧山監督は、「スクリーンの大きさや、会場の熱気もあってか、こんなにのめり込んで観られるという状況はすごく幸せでした。特に釜山国際映画祭のオープンシネマで観るという、ある種の緊張感や高揚感も感じていて。本当は言葉にしなければいけないけれど、言葉にしきれない特別な時間でした。本編中で、ここっていうタイミングで突然自然の風を感じると、自分が今どこにいて、スクリーンとの境界線が分からなくなる瞬間みたいなものを感じて、かなり特別な体験でしたね」と語る。そして、「映画って、こういう自分が想像もしていなかったところに連れていってくれるんだなっていうことを、感慨深く思いましたし、この映画を制作するうえで関わった全ての人を代表して、自分がここにいさせてもらえるということのありがたさや、改めて一緒に作った人たちへの感謝を感じて、この感動を早くみんなに伝えたいなと思いました」と締めくくっていた。

インターナショナルプレミア上映や、オープンシネマ部門の公式上映を観た韓国の観客からは、「原作のアニメは見ていないのですが、それでもこの作品はとても面白いと感じました」「映像がとても綺麗で、とてもよかったです」「距離と時間について、愛を通して語っていくような内容で、とても感動しました」「原作は3つのパートに分かれていますが、実写版は一つの物語になっていて、それが自然な流れで出来上がっていたので、とても良かったと思います」などのコメントが届いている。
『秒速5センチメートル』は10月10日(金)より全国にて公開。

