2人が思う“映画”の力
――石井監督の作品には、心温まるヒューマンドラマの中にも人間の悪意やダークな部分、現実のままならなさがきっちりと映し出されていると感じます。
細田:仰る通りで、だからこそ石井監督の映画は限りなく人間を映し出していると僕も思います。綺麗に撮ろうとしないからこそ出てくるだらしなさや泥臭さが、逆説的に人間の美しさを感じさせてくれるのではないかと。僕は『町田くんの世界』でそのことを学びました。きっと石井監督は、どの作品でも観た方が親近感を抱けるキャラクターにしたいという想いがあるなかで「人間の愛嬌とは」を考えてダサい部分も意図的に入れていらっしゃる気がします。妻夫木さんは「不器用さ」と表現されていましたが、それがあるからこそ心を掴まれるんですよね。信介さんもそうで、先輩にも立ち向かっていけるし自分が間違ったことは絶対に許さない隙のない男の子でありながら、ファミレスのシーンでは砕けた可愛らしい一面を見せます。そうしたギャップの部分の表現には、気を配りました。
當真:大人になったナズナさんと良一さんがすれ違うシーンのもどかしさもそうじゃないかなと思います。人間って上手くはいかないよねというのを緻密にゆっくりと描いていくのがとても素敵でした。

――當真さんは「映画を見た時、きっと自分の日常が愛おしく大切に思えるはずです」、細田さんは「この作品が持つ記憶と、そこに生きた人々の熱が、現代に生きる皆様と未来に届くことを願ってやみません」とコメントされていました。おふたりが思う映画や物語の力を教えて下さい。
當真:「人生は一度きりだから、その瞬間を大切に生きた方がいいよ」と言葉で言われるのと、映像を通して感じ取るのは全く違うと思います。それこそがこういった作品の持つ最大の魅力ではないでしょうか。『人はなぜラブレターを書くのか』で、世代や性別を問わず様々な人の心にまっすぐ刺さる映像の素晴らしさを改めて感じました。
細田:映画に限らず芸術全般に言えることかと思いますが、結局は誰かを救うことでしかないと思います。文化芸術は乱暴に言ってしまえば衣食住に関係ないもので、人間が生きるうえで必ず必要としているわけではありません。でもじゃあなぜ存在しているかといえば、人間が人間らしく生きるために生み出したものだから。その分野に映画が含まれている以上は、やはり誰かの心を救うものであってほしいというのが僕の持論です。戦後80年を迎えた2025年には『宝島』を含めて多くの戦争を題材にした映画が公開されましたが、実際に起こった出来事の悲惨さを伝え残していく役割もあれば、人を感動させたり笑わせたりするエンターテインメントの側面もあるかと思います。ただいずれにせよ、当時いた人や今いる人たちを救うものが映画や芸術の良さなのではないかと感じています。

――細田さんは様々な映画にコメントをされたり、映画連載を担当されていますね。
細田:仮に制作現場を見ていない方でも、作品自体から舞台裏の熱量を体感できるものかと思います。ただ、僕自身が映画やドラマに携わらせていただき、一つの作品を作るのがいかに大変かを体感している以上は、どの作品にも敬意を持って伝えなければいけないという気持ちで向き合っています。
――最後に、おふたりが観客として心に残った映画を一つ教えて下さい。
細田:去年観た作品でいうと、『サンセット・サンライズ』です。宮城県出身の宮藤官九郎さんが東日本大震災について書かれていて、東京人としての受け止め方を菅田さん演じる主人公が代弁して下さっている。コロナ禍も含めてあの当時、あの場で生きた人たちの声を拾うという決して軽くないテーマを扱っているのに心が温かくなる人間の描き方がとても好きでした。
當真:一つを挙げるのは難しいですが、本当に好きでずっと観ているものでいうとジブリ作品になります。『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』など、初めて見た子どもの頃は視覚情報として面白いと思っていたものが、年を重ねるにつれて様々なことに気づきだす深さがありますよね。全年齢対象でありながら各々に受け取るものが全く違っていて、何度も飽きずに観られるのは作品力の強さゆえだろうなと思います。


