同志、友人であるペ・ドゥナとは「共有できる部分がとても多い」
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――ペ・ドゥナさんは、本作のプロット段階でお読みになっていたと伺いました。
そうですね。たまたま彼女が東京に遊びに来ていて、表参道で会ったときにプロットを渡したのが最初かな。
――『空気人形』の頃からペ・ドゥナさんとの親交が続いているかと思いますが、改めて是枝監督にとってペ・ドゥナさんはどういった存在でしょうか。
こんなことを言うと彼女のファンに怒られるかもしれないけど、考えていることがお互いにすごくよくわかるんです。嫌だと思うものや好きなものが似ていて。
言葉で表現するのが難しいし「韓国人」「日本人」といった大きな文脈で語りたくはないんだけど、物言いがイエスかノーかはっきりしている中で、彼女は非常にあいまいな部分を大事にする人。言葉と気持ちが裏腹な状態ってあるじゃないですか。そういったところがすごく繊細だから、一緒にいて腹の探り合いをしなくて済むんです。それは友人としてもそうだし、監督と役者という関係性でもそう。一番の同志であると同時に友人でもあるから、彼女が役者として何を考えているのかとか、どういう役にやりがいを感じるかとかも含めて共有できる部分がとても多い。彼女が現場にいるだけですごく安心します。
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役者としての表現力は言わずもがなですが、今回は大半が車の中のシーンであるにも関わらず非常に繊細な役が含んでいる様々な感情の揺らぎを表現してくれました。もちろんその表現力を前提に書いている役ではあるけれど、この作品の重層性を支えてくれたのは彼女の存在です。
もちろん単純なことが悪いわけじゃないけど、『ベイビー・ブローカー』は赤ちゃんを売りに行くブローカーの話だけではなくて、もう一つ別の物語が同時進行している。“疑似家族”を見つめるスジン(ペ・ドゥナ)の目線の変化が、この物語を見ていく観客の目線の変化につながっていく。それをできたとしたら、彼女だからこそだと思います。
――おっしゃる通り、ペ・ドゥナさんが演じるスジンが一緒に並走してくれる感覚がありました。本作だと、スジンが食事するシーンが多く盛り込まれていますよね。こだわりや意図があったのでしょうか。
彼女は、何かをしながらセリフを言うのがとても上手なんですよ。上手く食べながらセリフはきちんとクリアに言うことって、本当に難しいんです。しかも言葉の意味だけではなく、ニュアンスまで伝わるように演じてくれて、とにかく技術が高い。だから遠慮なく食べてもらいました。