撮影を通しての新たな発見
――最初に森田さんがおっしゃった「今まで出会えなかった自分に出会える」感覚は、本作の役を通してお二人にはあったんでしょうか?
北川:「落日」のときに、お芝居について内田監督がいろいろアドバイスをくださったんです。私は自分の滑舌が本当に良くないと思っていたので、きちんと「あ、い、う、え、お」をはっきり聞こえるようにセリフを言うことを意識して、今までやってきていました。けど、内田監督には「普通の人は、そういう喋り方しなくない? そんなに滑舌よくしないで。声もそんなに張らないで、そんなに大きい声で普段喋らないよね」と言ってもらえて。それからは、自分としてはびっくりするぐらいボソボソ声で話して、「聞こえますか? 大丈夫ですか?」くらいの感じで「落日」をやっていたんです。

監督は「夏希と多摩恵という人がいて、こういう家族がいるんだと、見た人がドキュメンタリーを見ている気持ちになるような作品の撮り方をしたい」とおっしゃっていたんです。それは「落日」のときも同じように言われていて。だからこそ「あまりお芝居をやってる、みたいにしないでね」と。私はずっと芝居をしなきゃいけないと思ってやり続けてきたので、そぎ落とした表現について、今回特に向き合いました。
「落日」のときは戸惑いながらで、自分ではうまくいったかどうかもわからなかったけれど、この作品ではちょっと掴めた気がします。それは森田さんと一緒にいて、セリフじゃなくて生まれた会話もありましたし、台本にない部分も2人で埋めていって、自然に役としてそこに息づくことが体感できた瞬間があったからだと思うんです。こういう表現、お芝居もあるんだと気づいたことは、すごく新しかったです。今後も必要とされるときには今回のようにやっていこうと、引き出しが増えた気がしています。
森田:私自身、本格的にお芝居と向きあうきっかけになったのは内田さんとの「全裸監督」でした。なので、お芝居のベースを内田さんが作ってくださいました。内田さんは、当時から嘘をついていたら撮ってくれないんです。それは、その役になっていなくて私自身が出ていたり、何か別の思考が働いていたりするときです。今回、役としては自分とはものすごく遠いので、嘘なく自分ごとに落とし込むまでには、きっと想像以上に大変だろうなと思っていました。

これまで私は内面からアプローチすることが多かったんですが、多摩恵は格闘技の選手なので、今回は内面というより格闘技の練習から始めて、半年くらいやっていたんですね。体がちょっとずつ大きくなったり、格闘技の力がついたりすることで、内にすごく影響がありました。これまでは内面からでしたが、逆のパターンを初めて体験できたので、体と心はものすごくつながっているんだな、と思いました。お芝居をする上で体作りをしている期間、思いを馳せている時間も、とても大きく役に影響するということが初めての感覚でした。
“生涯ベスト”映画は?
――シネマカフェは映画媒体なのですが、お二人の「生涯ベスト」作品をぜひ教えてください。
森田:いっぱいあるんですけど、私は『ラ・ラ・ランド』です。
北川:あー、私も大好きです!!
森田:王道すぎて言うのを控えていたんですけど、好きなものは好き!と思って言ってみました。この映画は、私がまだ全然お仕事をもらえなかった学生のときに公開されていた作品でした。エマ・ストーンさんが俳優の役だったので、そこと自分が重なるものもすごくあったのと、ダンスが好きだったので、踊りながら歌っている映画も好きなんです。最初の7分間、高速道路のシーンがあるじゃないですか? 私、あそこで大号泣しゃちゃって。
北川:えー!
森田:不思議すぎますよね(笑)。感動しすぎて。「私もここに出たい!!」という気持ちになって、そこから映画館に足しげく通ったのを覚えています。
北川:すごく好きな作品で、私は『ショーシャンクの空に』を挙げたいです。こういう(ポスター写真の真似をする)シーンが、大好きです! 映画だけでなく、音楽や本もジャケ買いが多いんですけど、あのポスターを見たときに「どういうことなんだろう?」と思って、まだ若いときにDVDで観ました。意味がわかると、「そういうことだったのか!」と衝撃を受けました。自分の稼いだお金で画素数のちょっといいDVDを買ったのも初めてでしたので、そんな思い出も含め好きです。

