「第26回東京フィルメックス」が閉幕、11月29日(土)に授賞式が行われ、北村匠海主演、内山拓也監督『しびれ』が審査員特別賞を獲得。最優秀作品賞は『サボテンの実』、観客賞は『左利きの少女』(原題)が受賞した。
アジアを中心に世界から新進気鋭の監督たちの作品を集め、どこよりも早く、ここでしか観られない注目作品がラインアップされる本映画祭。
授賞式では、気鋭のコンペティション10作品から最優秀作品賞、審査員特別賞、学生審査員賞が選出され、併せて観客賞が発表。

プログラムディレクターの神谷直希、国際審査員のラモン・チュルヒャー、マティアス・ピニェイロ、ソン・ファン、学生審査員(熊谷萌花、永山凛太郎、Paula GEORGIEVNA)、Glenn BARIT(タレンツ・トーキョー・アワード受賞者)、内山監督(審査員特別賞『しびれ』)らが登壇した。
最優秀作品賞は、ローハン・パラシュラム・カナワデ監督『サボテンの実』

監督の登壇は叶わなかったが、滞在先のL.A.から喜びのメッセージが到着。
「たった今『サボテンの実』が最優秀賞を受賞したと、すばらしい知らせを聞きました。私はちょうど明日から映画の公開のためロサンジェルスにいるのですが、受賞の知らせにとても喜んでいます。審査員のみなさん、『サボテンの実』を最優秀賞に選んでいただきありがとうございます。この栄誉を謹んでお受けします」と語り、映画祭、審査員、観客への感謝を語った。

■選考理由:「私たちの心を強く揺さぶった1作品がありました。抑圧と宗教的厳格さに特徴づけられる社会のなかで、2人の青年が繊細な距離を縮めていく姿を描いた作品です。この旅路は、繊細な脚本と緻密な映像言語によって導かれ、この作品の静かなささやきは、誰もが自由に呼吸できる世界への力強い叫びへと昇華しています」。
審査員特別賞は、北村匠海&宮沢りえ&永瀬正敏共演『しびれ』

内山監督は会場に登場、喜びの気持ちを明かしてくれた。「まずは撮影の光岡さん、照明の阿部さん、録音の白取さん、美術の福島さん。全員の名前をあげる時間をいただけないので、それが大変悔しいというか心苦しいのですが、全てのスタッフ、キャストの美しい仕事を誇りに思っています」とスタッフに感謝。
「また、これまで私の人生に携わってくれた全ての方々に感謝申し上げます」と話し、「この映画は私の個人的な経験に根差している映画で、田舎の貧困層に生きる1人の少年の姿を映し出しながら、経済的なことのみならず、社会のあらゆる階級に生きる心の貧困の存在、その存在に光をあて、祝福することを目指しました。国内外問わず、様々な状況下の中であらゆる方々が生きていると思うけれども、そういった方々が心穏やかに映画を楽しめる世の中に少しでもなることを心から願っています」と語った。

■選考理由:「審査員特別賞は、バランス感覚を体現する作品に贈られます。沈黙と家庭内暴力に満ちた人生を凍える空気の中で呼吸しながらも、撮影される身体の動きから独特の温もりを引き出す映画です。荒削りでありながら感動的な本作の感情は、不確実性を受け入れる過激な映像的視点から生みだされています。それは呼吸を、遠くにそして近くに、静寂と変化の中で、柔らかくそして硬く、わたしたちに生き延びる姿を共有させてくれます」。
学生審査員賞はアレクサンドレ・コベリゼ監督『枯れ葉』

アレクサンドレ・コベリゼ監督も登壇が叶わなかったが、ビデオメッセージで喜びを明かした。
「学生審査員のみなさん、ありがとうございます。私自身少し前まで学生だったので大変光栄です。卒業したのは2020年前ですから5年前です。今も学生時代とは何も変わっていません。映画について何か知っているという気がしています。ある意味学生のように映画について学び続けています。ですからよいつながりだと思います。そして若い人たちが私の作品を気に入ってくれたのはよかったです。ありがとうございます!」とコメントした。
■選考理由:「Lo-Fiな映像によって絵画のように形や色が立ち上がる美しさ。その中に存在する人、動物、車が奥行きを感じさせる。何かが映っている、動いている、それを見ることが映画なんだと思わされました」。

『枯れ葉』にはスペシャルメンションの授与も
(発表順として)学生審査員賞に続いて発表を受けた監督から、再び喜びのメッセージを紹介。
「まず、私の映画をこの映画祭で上映していただきありがとうございます。これは嬉しい恒例になってきました。もし次回作がフィルメックスで上映されることになれば、今度は私もその場に行けるように願っています。もちろん、審査員のみなさんスペシャルメンションありがとうございます。光栄です。みなさん良い夕べを!」と話した。
■選考理由:「この作品の独創性と探究精神に深く感銘を受けました。独自の創造的視点、詩的な映像言語、そして瞑想的ともいえる物語の語り口によって、本作は映画がもつ純粋な魅力を提示してくれています」。
観客賞はツォウ・シーチン監督『左利きの少女』(原題)に

ツォウ・シーチン監督も登壇が叶わなかったが、「まずは東京フィルメックスに感謝します。そして、『左利きの少女』を受け入れてくださった観客の皆様にも感謝いたします」とビデオメッセージで、映画祭、そして作品を選んだ観客たちへ喜びの気持ちを伝えた。
「この物語は台北での思い出から生まれました。東京でも共感していただけたことに、心から感謝しています。どうもありがとうございます」と語った。

さらに、授賞式では、関連企画<Talents Tokyo 2025>から「タレンツ・トーキョー・アワード」の受賞者報告も行われた。
最後に、国際審査員を代表して、映画監督のラモン・チュルヒャーから総評があった。
「素晴らしい時間を我々も過ごすことができ、非常に豊かな多様性を持ったアジア映画を旅することができました。また、本当に、それぞれの作品のユニークな声、アーティスティックな個性と出会ったことも素晴らしく、人生における光のみならず、闇や影、両方が描かれている作品が多かったように思います」と明かす。
そして、「これからも何年も続くフィルメックス、そして映画というものを、一緒に楽しみたいと思います」と話し、すべての映画作品と集まった観客と喜びを分かち合う、温かいメッセージとともに、今年の授賞式を締めくくった。
『わたしたち』ユン・ガウン監督のトークイベントも
さらに翌11月30日(日)には「『わたしたち』から『The World of Love(英題)』へ:ユン・ガウンが見つめる少女たちの世界」として、ユン・ガウン監督の新作『The World of Love(英題)』の初上映を記念して、監督と主演のソ・スビンを迎えたトークイベントも開催。
2016年の長編デビュー作『わたしたち』で国内外の映画祭から高く評価されたユン・ガウン監督は、子どもの視点から人間関係の繊細な機微を描くことで高く評価されてきたが、6年ぶりの新作となる本作では、思春期の少女が経験する“成長の痛み”を通して、世界との関係を静かに問いかけてる。
トーク相手として、俳優であり文筆家の小橋めぐみが登壇。表現者同士の視点から、俳優と監督の信頼関係の築き方、弱者に寄り添う表現のあり方などを語り合った。
『しびれ』は2026年、公開。

